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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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自覚が足りない


錐揉み式で火をおこすべく、男は枝を挟んだ両手をこすり続けていた。

既に数時間が経過、しかし全く煙の出る気配がない。

文明に慣れた人間には、ハードルが高過ぎたようだった。



昔の人はすごかった。



しみじみ感じる。

サバイバルには自信があったが、こんな所で躓くとは思わなかった。

はたして肉を焼けるのはいつだろうか。

ウサ追い祭り、まさかの中止か。

祭りの最後、焼いて美味しく食うという盛り上がりを前に、テンションは下がりきっていた。

森の中にいたのが随分前に思える。


ウサギを捌き始めた頃には、5つの三日月が浮かんでいた空も大分寂しくなった。

次々と沈み、残り2つしかない。

まあ月を指して「残り2つ」というのもおかしな話だが。


気が付くと、大草原では光の花のフィナーレ、花火大会が始まっていた。

ふわんとした色とりどりの光が膨らみ、あちらこちらで弾けては消えていく。

いつ見ても飽きる事がなく、この世の光景とは思えなかった。



疲れた。



幻想的な大草原の花火は、しばし癒しの時間を与えてくれる。

男は手を止め、花が散っていくのをぼうっと眺めた。

そして短く儚い花の命が散ってしまうと、大草原は静まり返る。

一気に現実。

目の前には煙の出る気配がない木の板に、垂直に差し込まれた枝。

延焼を防ぐために広く掘られた穴。

中には積み上げられた、たくさんの枝や葉っぱ。

夜明け前独特の薄闇の中、見たくもない現実があった。



チャッカマンがあればなあ・・・・・。



作業を再開する気にはなれず、ぼんやりと見つめる。

あの素晴らしい文明の利器があれば一発なのに。

知らず知らず瞼を閉じた。

ちょっと硬い黒いスイッチを心に描く。

スィッチを押す前に、横のロックを外さないといけない。

それに気付かず、つかないつかないと、よくお客さんが大騒ぎしてたっけ。

山奥の民宿での一幕を思い出した。



「・・・・・んっ?」



まさか!

男はカッと目を見開いた。

おそるおそるチャッカマンのロックを外してみる。

もちろんエアーな動作だ。

そして。



「なんで気付かなかったんだ・・・・・」



エアーでスイッチを押すと、シュポッと何もない空間に小さい火が浮かんだ。



これまでの苦労はなんだったんだ。



自分は奇人変人びっくり人間の自覚が足りない。

男は脱力しつつ反省した。

水が出せるなら、火も出せると何故気づかなかったのか。

給湯器がなくとも、お湯が出せていたじゃないか。

森の中、お湯を出す為に思い描いたのは、自宅のガス給湯器だった。

とっくにガスを使えてたのに。

なぜ思いつかなかったのか。


空中に浮かぶ小さい火をエアーな動作で消した。

試しに厨房で使うガス火をつけてみる。

もちろん、エアーな動作だ。


ボッ。


空中に現れたのは、コンロで見慣れた丸く並んだ青い炎達。

嫌味なほどに大火力だ。



「えー・・・・・・」



思わずがっくりとうなだれた。

直火の為に、穴を掘ったのはまあいい。

延焼は怖い。

必要な作業だったと思う。

ただし、その中に入れた木の枝と葉っぱ。

全く必要ない。

何度も森と草原を往復してわざわざ拾ってきたのに。


火がついてよかったとは思う。

錐揉み式ではどうしようもなかったのだ。

そうは思うのだが、なんか悔しい。


割り切れない感情はさておいて、男はせっかくだからと集めた枝や葉っぱに火をつけることにした。

夜が明けていく中、キャンプファイヤーが始まる。

祭りが再開された。

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