ギブミーアツアツ、ホットなウォーター
「はっ・・はっ・・・はっ・・・・」
男は森の中、ひざに手をつき息を整えていた。
傍らには、一本の木の幹にツノが刺さったウサギが2匹。
こちらは既に息をしていない。
血抜きが始まったばかりだ。
息が整ってきた所で、男はウサギを処理する準備に取り掛かった。
結んでつなぎ、長くした木のつるを2本用意。
それぞれ高い所にある木の枝にひっかける。
その下の土を掘り、2つの墓穴をつくった。
固いウサギのツノは土をサクサク掘ってくれる。
ここまでさほど時間はかからなかった。
受け入れ準備ができた所で、木に深く刺さったウサギのツノを抜く。
後ろ足を木のつるで結んで逆さに吊るした。
まだ血抜きは続いている。
それぞれの下に掘られた穴に流れ落ちていった。
ここまでやれば、あとは血抜きが一段落するのを待つのみだ。
男は水を出して手とナイフを軽く洗い、腰を下ろした。
一旦休憩だ。
手持ち無沙汰な時間で、お湯だしに挑戦してみた。
エアーで浄水器のレバーを押したら水が出せるのだ。
ならば。
同じエアーな動作でいいならば。
給湯器のボタンを押せばお湯が流れるはず。
エアーで。
熱湯の出る専用蛇口をひねれば、熱湯だっていけるはず。
お湯が欲しい。
ギブミーアツアツ、ホットなウォーター!!
「頼むぞ、奇人変人びっくり人間・・・・・」
押せ!
エアーで!
自分で自分に号令をかけ、手を動かした。
「・・・・・ぃよっしゃー!」
すぐに温かそうな水が空中から流れ出した。
さわって確認。
うん、温かい。
男のアパートにある給湯器と同じく、シャワーのように流れる芸の細かさ。
エアーで温度調節すれば、ちゃんと温度もついてくる。
なんてすばらしい。
これで脂っぽいのもスッキリ洗える。
猪だったら解体の最中、都度ナイフの脂を落とさなければ作業が進まないこともある。
比べてウサギはかなり脂が少ない肉だろう。
ないに等しい。
だが、それでも気になっていたのだ。
しっかりナイフの脂は落としたい。
よかったよかった。
お湯が出るなら、熱湯もいけるだろう。
早速試してみた。
熱湯は蛇口をひねるタイプ。
やってみるとお湯らしきものが細く、空中から流れ出した。
指先で軽くさわってみる。
ジャンルによるだろうが、ベテラン料理人の指先は熱に慣らされているものだ。
熱湯にちょっとさわるくらい、なんでもない。
「・・・・おーっ」
うん、熱湯。
やるなあ、オレ。
ちなみに、ここは森の中。
男は奇人変人びっくり人間。
そしてマイホームは大草原。
どんどん普通の日本人像からかけ離れていく。
お湯だしに成功し、ご機嫌な男はそのことを全く気にしなかった。
意識もしていないだろう。
俺はこの先どうなってしまうのか。
そんな悩みは男とは無縁のものだった。
強い。
大雑把なだけとも言える。
こういう男だから、どこだってたくましく生きていけるのかもしれない。
そうこうしているうちに、血抜きが終わったようだ。
1匹目と同じく、最低限の処理にかかった。
肉に臭みをつける部分を取り除き、内蔵を全て取り去る。
空きの出た体内を水できれいに洗い、頭を落とした。
ツノを取り、頭を臓物などが落ちた穴に一緒に埋める。
計二匹分、男は手際よく作業を進めていった。
持ち運びができるよう、木のつるを使いスポーツバッグのベルトにぶら下げて作業が終了。
二つ並んだ墓穴に両手をあわせた。
美味しく食うからな。
モノ言わぬ、森に還っていくであろう二つの魂に約束した。