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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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ドゥエ ペルソーネ


なんてこった。



右から、そして左から。

人間で言うなら歩幅を揃えて、ウサギ的にはピョン幅を揃えて。

迫りくるウサギ2匹。

油断大敵とはこのことだ。

気付くのが遅かった。

考えている時間はない。

さっきの勝利の方程式は、また使えるのか。

2匹のウサギが男を串刺しにしようとするタイミングはほぼ同じ。

ずれても数秒程度だろう。

よっぽど上手くかわさなければ一本はかわせても、もう1本のツノでザクっとやられる。



男はナイフを手に立ち上がった。

絶対絶命か。

いや、その目は輝いていた。



「ドゥエ・・・ペルソーッ・・・ネッ」



思わず大きな声を出してしまう。

居酒屋かと突っ込める威勢のよさだ。

働いていた店でやったら絶対怒られてしまうだろう。

ちゃんと巻き舌、内容OK、声量アウト。

仲居さんがいらっしゃいませと少し大きな声を出すだけで、安モノの店じゃないのにと眉を顰めて注意させる料亭の大女将だっているのだ。

男の店はイタリアン、そこまで煩くなくとも土地柄もあり、さらには高級店。

居酒屋のように「お二人様っ」と、声をあげるのはいただけない。

イタリア語を使っていても同じこと。

気取った演出もぶち壊しだ。

雰囲気だって、ごちそうの味を高める立派なスパイス。

お二人様を迎える為、ファーストインプレッションを大切に良い声を心掛けるサービスマンへの冒涜だろう。

しかし今このときは店ではなく、森の中。

赦してほしい。


店で鍛えられ、慣れた単語を叫びつつ、一瞬で男は「お二人様」を見極めた。

右から来るウサギがワンテンポだけ早い。

男が背にする大木の右側のすぐ近くには、木が生えていなかった。

少なくとも、数歩でたどり着くような距離にはない。

木の左側には、2歩ほどで背にできる木が生えていた。


一瞬ごとが勝負。

側におかれたスポーツバッグの持ち手を左手で取った。

ナイフを持つ右手で肩掛けベルトも一緒に持ち、左手は持ち手をつかんだままバッグの側面に添える。

右から来るウサギが、左手のウサギより一足早く突進の体勢に入った。

顎を引き、ツノが地面と平行になる。

ウサギが最後の一跳ねをした瞬間。


タイミングをあわせたスポーツバッグがウサギの横っ腹をとらえる。

結構なバッグの重量にあわせて、宙に浮いていたウサギの体の重量が男の腕にぐっとかかった。

常日頃、茶色い瓶にお世話になっても「ファイトいっぱつ」は言い慣れない料理人。

「ペルソーネ」、慣れた単語が男の掛け声。

気合の入る言葉。

最後の「ネッ」にあわせて、スポーツバッグを右側に力いっぱい振りぬいた。

同時に右側に数歩分、素早く移動する。



「ガッ」



間一髪。

左手からワンテンポずれて突進してきたウサギのツノが木の幹に刺さった。

さっと戻った男がバッグから手を離し、首根っこを押さえ、ナイフで首下をかき切る。



「ザシュッ」



すぐにもう一匹のウサギに向き直った。

右手空中へ投げ出されたウサギが体勢を整え、襲ってきたのをひらりとかわす。

温存された男の筋肉は、思う通りの動きをしてくれた。

やっぱり筋肉は裏切らない。

2匹目のウサギも、1匹目と同じ木に突っ込んできた。

勢いよく血を流すウサギの隣にツノが深く刺さり、動きを止める。



「ガッ・・・・・・ザシュッ」



殴り飛ばしたウサギが無事だったことに安堵しつつ、トドメを刺す。

怪我もなく、元気に襲ってくれて本当によかった。

力の加減ができなかったため、骨折でもされていたら後悔しただろう。

あの時ああしていれば・・・と悔やんでも悔やみきれないはずだ。

肉の質が落ちてしまう。

それはいけない。

祭りに水を差してしまう。


盛り上がってきたウサ追い祭り。

ウサギを追ってつかまえて、美味しく食う。

食うまでが男命名、ウサ追い祭り。

追ってないけどウサ追い祭り。

まだまだ続く。

宴もたけなわというにはまだ早い。

祭りは中盤、後悔も反省もしたくなかった。


今の所は大成功。

男は希望通り、合計3匹のウサギ肉を手に入れた。


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