おかしな森
「やばいな、今日はもう無理かな」
時計は午後4時37分。
男がはじめてウサギ肉を手に入れてから4時間以上経っていた。
収穫はゼロ。
その後はウサギの姿を見ていない。
リスらしきものは結構な数を見ていた。
かなり高い木の上にいたため、あくまで「らしき」レベル。
遠目でも、あの姿かたちならリスでいいだろう。
リスももちろん食べられるが、今の所つかまえる手段がない。
可食部分も少ない。
ウサギ1匹の代わりにリスだけで腹を膨らまそうとすると、7~8匹はいるんじゃなかろうか。
捌く手間を考えると、効率が悪すぎる。
つかまえるのも相当に苦労しそうだ。
どうしても困ったら考えることにしようと見逃すことにしていた。
特筆すべきは虫の存在。
大草原の昼間には全くいなかった虫もちゃんといた。
名前はわからないが、何種類か発見している。
なぜか皆カラフルだった。
天敵にみつからない工夫はないのか?
擬態しなくていいんだろうか?
例えば土を掘り返した時に出てきたミミズは鮮やかな紫。
もうちょっと地味だったら日本のそれにそっくりだった。
おしい。
まっ黄色のカマキリらしきもの。
いかにも強そうだ。
他にも明らかに色がおかしい虫をちょいちょい発見した。
もちろん触れてはいない。
日本のヒルのように血を吸われでもしたらかなわない。
気付いた時は全て、注意深く距離を取った。
「おかしいな・・・・・」
まただ。
また木のつるをみつけた。
別に木のつるがあること自体はおかしい事じゃない。
色々役に立つので、見つけたら確保している。
おかしいのは、同じつるでも木の幹に結ばれているからだ。
男が道しるべにと、括り付けた木のつるだった。
同色系統でも不自然さで目立つようにと蝶々結びにしたもの。
なぜここにある?
男は森の中を深く分け入っているはずだった。
まだ未踏の地をどんどん進んでいるつもりだ。
しかしこの木のつるは、既にその場所を一度通っていることを示していた。
そういう視点で辺りを見回せば、通ったことがあるような気がしてくる。
おかしい。
迷ったのか?
迷うも何も、ゴールを決めずに歩いているのに。
「ちょっと休憩するか」
歩き通しだったから、少しぐらいは休んでもいいだろう。
大木を背にして腰を下ろし、荷物も下ろして水を飲んだ。
まだまだ元気だ、水が旨い。
水の旨さに改めてじーんとする。
やはりいい。
喉が渇いてすぐに水を飲める。
これぞ幸せ。
目を閉じ、しみじみと浸っていると物音が聞こえた。
「ザッ」
あの音は!
すぐにナイフを手に立ち上がった。
ウサギだ。
男が目にしたのは、みるみるこちらに迫ってくるウサギの姿。
・・・・・が2匹。
両肩を並べてというほどではないが、左右からほぼ同じような距離を一気につめてきていた。
なかなかの迫力だ。
そしてやはり普通のウサギより体が大きかった。
あのガタイの突撃を受け止めたら命が危ない。
なんてこった。
男の目が輝いた。