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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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祭りに向けて


一夜明けて、7日目の朝。

今日も今日とて大草原。

今やすっかりマイホーム。

明るい陽射しに男は目を覚ました。


今日も雲ひとつない青い空が、マイホームの天井を彩っていた。

それでも遠くに山並みを望んでいた一昨日までとは全く違う。

少し目線を動かせば森を見る事ができる。

大きな進歩だ。

森と草原の境界線に干した洗濯物も風で飛ばされることもなく、ちゃんと乾いているようだ。

すばらしい。

しみじみと幸せを感じた。

もちろん昨日の朝だって森の側で起きたのだが、あまり記憶にない。

水が空中から出ている光景が、ささやかな幸せも吹っ飛ばしたんだろう。

あれは本当に驚いた。

寝ころんだまま、腕を顔の前に動かし時計を見た。


午前6時13分。


昨晩は日没後すぐ、21時には寝たから9時間以上寝た計算だ。

そんなに寝たのは何年ぶりだろうか。

大草原に来てからも、短時間の仮眠を繰り返していた。

不安もなく、渇きもなく、体の痛みもそれほど感じず、ぐっすりと寝れたのは大草原に来てから初めてだった。

安心したのだろう。


体も軽い。

すぐに起き上がることができた。

そのまま立ち上がり大きく伸びをする。

浄水器のレバーを思い浮かべて水を出してみた。

すぐに水が流れ出す。

昨日のことは夢じゃなかった。

今日も男はちゃんと奇人変人びっくり人間のようだ。

有難く喉を潤した。

昨日は結局飲まなかったペットボトルと茶色い瓶に入れた水を捨て、新しい水を入れる。

贅沢だ。

顔を洗って歯を磨き、入念にストレッチを始めた。

ウォーミングアップだ。



「今日は奴に遇うからな」



今日はウサギに追われるのではない。

逃げるのではない。

男が追うのだ。

ウサギを追ってつかまえて、美味しく食う。

今日はお祭り。

ウサギを追う祭り。

略して。



「ウサ追い祭りだ」



そんな祭りがあったのか。

おっさん命名、ウサ追い祭り。

負ける気なんてさらさらなかった。

気合十分。



「待ってろウサギ」



朝から口数も多い。

獲物扱いされ、さんざん追いかけられた事を男は忘れちゃいなかった。

ウサギ如きに。

もはや私怨だろう。


1時間ほどたっぷりと時間をかけて、グイグイと体中の筋肉を伸ばした。

筋肉は裏切らない。

時間をかけた分、しっかりたっぷり活躍してもらうつもりだった。


時刻は午前7時56分。


アップを終わって靴を履き、洗濯物を取り込み、荷物をまとめる。

同じ場所に戻ってくるかは決めていないが、木のつるでつくった物干し場はそのままにしておくことにした。

スポーツバッグのベルトを斜めに肩にかけ、体の後ろ側に回す。

両手に皮手袋をはめ、ハンティングナイフのカバーをとった。

今日はナイフが汚れたって大丈夫。

ウサギ肉の脂だって大歓迎だ。



「行くか」



意気揚々と森に入ったものの、なかなか奴には会えなかった。

急ぐことはない。

そのうち会えるだろう。

特に気にすることもなく、男は森の中に深く分け入った。

ペースがつかめたら人を求めて山越えをするつもりだ。

歩きやすい森ではあるが、どうやったら迷わず進んでいけるだろうか。

作戦を考えつつ、歩いていく。


途中、木のつるを見つけると必ず採取した。

それを所々で、木に結びつけていく。

山では迷わないよう、幅が広い紐を木にくくりつけて道しるべにすることがある。

ピンクや赤などの目立つ色が理想だが、ないものは仕方がないだろう。

ナイフで木の幹に傷をつけていくというのもアリだが、あんまりやりたくなかった。

数が多いと刃こぼれするし。

食わないもの、使わないものを傷つけるのは男の主義に反するのだ。

木に木のつるを結ぶという、同じ色での目印でもわかるよう、蝶々結びにした。

自然に絡みついたものではない不自然さが、道を教えてくれるだろう。


森に入ってから、歩くこと3時間弱。

とうとうその時がやってきた。



奴だ。

遇いたかった。



男は足を止め、じっとお互い見つめあう。

ウサ追い祭りが始まった。


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