サバイバル問題解決
森の中、呆然と立ち尽くしていた男は、しばらくして我に帰った。
聞こえてくる水音に、反射的に手を動かして水を止める。
慣れたものだ。
「奇人変人びっくり人間とか、テレビに出れるよな」
ここにもテレビという文明があればの話だが。
少し笑ってしまう。
それよりも大事なことがあった。
「コスパ抜群だな」
お高い浄水器の水が使い放題。
なんてすばらしい。
ここでも旨い料理が作れるだろう。
味を決める厳しいハードルをクリアしたことでご機嫌だった。
相変わらず、何も考えちゃいない。
「あとは塩があればなぁ」
あれだけ様々な草があれば、料理に使えるハーブの1つもあるだろう。
食えるハーブが1つ見つかれば、1つと言わずにたくさんあるはずだ。
如何にして旨いものを作れるかという点に、興味がうつっていた。
男にとって、サバイバルは既に悩むべき問題ではなかったからだ。
水を手に入れ、肉の当てもある。
安全な寝床も確保できている。
つまり解決。
無問題。
ハイ終わり。
大雑把な男の出した結論だった。
「あっ。やべっ・・・洗濯物、干してないっ」
荷物の置いてある草原に戻ろうとして、洗濯物をビニール袋に入れっぱなしだったことに気付く。
早い所干さないと臭くなってしまう。
洗濯紐代わりに使えそうな木のつるを探して、キョロキョロとあたりを見回した。
「あったあった」
昨日ウサギに追い回されながらも目をつけていたので、すぐにみつかる。
カーゴパンツのポケットからハンティングナイフを取り出し、少しかたい木のつるを切った。
水もある。
もうナイフが汚れても問題ない。
心置きなく使おう。
多めに採取し、つるを器用につないで長い紐状にした。
森の中から、草原との境界線に戻る。
洗濯物は安全安心な家の近くで干したかった。
家と言ったら大草原。
境界線にそびえたつ木の幹2本に紐を渡して、頭の高さでしっかりとくくりつけた。
「よっしゃできた」
皮手袋を外しつつ、満足げにつぶやいた。
簡易の物干し場が完成だ。
たったそれだけだが、地味に重労働。
息が上がるほどではもちろんないが、「働いた感」がすごい。
荷物を取って戻り、ビニール袋から濡れモノを取り出した。
辺りは赤く色づき始めている。
そろそろ日没のようだ。
「まあ仕方ないよな」
ビニール袋の中で一晩置くよりマシだろう。
パンパンと洗濯物のしわを丁寧に伸ばしつつ、干していく。
終わるとそのまま草原に座りこみ、太陽が沈んでいくのをゆっくり眺めた。
この充実感。
満足感。
「さてと・・・・・」
太陽が沈んだ所で時計を見る。
午後は20時42分。
「中途半端だな・・・・今日はゆっくり寝るとするか」
起きていても腹が減るだけだろう。
明日は忙しい。
ようやく奴との決戦日なのだ。
イルミネーションが見れないのは残念だったが、明日のために十分な睡眠を取る事にした。
水を出して石鹸を泡立て顔を洗い、歯を磨く。
寝る準備も万端だ。
「待ってろウサギ」
月たちに見守られ、今日も男は眠りについた。