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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
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誇りを捨て


流れる水音が耳に心地よい。


たらふく水を飲み満足した男は、まったりとした時間を過ごしていた。

こんなにゆっくりできたのは、大草原で目覚めて初めてじゃなかろうか。

それどころか、日本にいた頃から数えても随分と久しぶりだった。


昨日まではこの時間、徹夜の末に寝ているか、歩いているか。

忙しかった。

しかし山には着いたも同然だ。

とりあえずの食料のメドもついた。

水だって飲んだばかり。

もう急いで歩く必要はなかった。


ふと、今日の水を確保できていない事を思い出す。

いそいそとスポーツバッグからペットボトルと茶色い瓶を取り出した。

ビールの空き缶もついでに出しておく。

そのうち何かに使えるかもしれない。

ゆすいで、きれいにしておきたかった。


それらを持ち、水に近寄ってしゃがみ込む。

まずはペットボトルからだ。

蓋を外し流れる水が入っていくよう、しっかり持った。

みるみるうちにいっぱいになり、入りきらない水があふれ出す。

嬉しい。

すばらしい。

この数日、力の限りタオルを絞って水を溜めた苦労を思うと夢のようだった。



やっぱり水はこうでないと。



大満足でペットボトルの蓋をしめ、続いて茶色い瓶にも水を入れる。

続いてビールの空き缶をきれいにゆすいだ。

終わるとスポーツタオルを取り出し、ペットボトルや空き缶、瓶の外側の水分をきれいにふき取った。

このまま仕舞うとバッグの中が濡れてしまう。



「やっぱタオルはこうやって使うのが正解だよなー」



ホクホクと拭き終わったものをバッグにしまう。



「さーて今日は何すっかなー」



立ち上がり、大きく伸びをした。

昨日から裸足のままだが、足裏の痛みは特に気にならなくなっていた。

良い傾向だ。

まさに絶好調。

ご機嫌だった。



「水はオッケー、食料オッケー・・・・」



早速、奴に遇いに行くべきかと考えた。

勝てる自信はある。



「でもまた走らされるのはなー・・・・・」



絶好調と言えども、まだ気が乗らなかった。

ウサギに追いかけられた、心の傷は癒えていない。

主に筋肉痛に対する恐怖心からできた傷。

ついでに肉離れに対する不安も。

三十路の心はナイーブだった。



「・・・・・・・」



流れ続ける水をチラリと見た。

スポーツバッグの上に置きっぱなしになっているタオルもチラリ。



「・・・・・・・・」



躊躇ったのは一瞬。


その誘惑に。

男は。

文明人の誇りを捨てた。



「うぉーっ・・・・・」



裸族アゲイン。


時計も外し、ポイポイと全ての服を脱ぎ捨てる。

大草原で青空の下。

あっという間に生まれたままの姿となった。


この解放感。

クセになる。

文明人の誇りを忘れ去る日が近いのかもしれない。



「うぉーっ・・・・・」



もう一声。

大草原の端っこで雄叫びを上げる。

流れる水を体に浴びた。



「うぉーっ・・・・・」



さらに一声。

同じ雄叫び。

日本語は忘れたか。

あまりはしゃぐことのない男には、奇声のバリエーションがなかったようだ。

飽きることなく同じパターンで騒ぎ続けていた。

そのうちヒャッハーという言葉でも使いだすのだろうか。


高さ1メートルほどしかない水の流れでは、シャワーのように立ったまま水を浴びる事はできなかった。

時には両手で水をすくい。

時にはしゃがみ込んで。

窮屈な体制ながら、青空の下、男は存分に水浴びを楽しんだ。



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