今日は良い日に
男がこの見知らぬ土地にきてから6日目の朝。
本日も雲ひとつ見当たらない良いお天気だ。
ただしこちらは不思議な大草原。
不自然常識、大自然。
尽きぬ疑問がまた一つ。
なぜここに水が。
考えてもさっぱりわからない。
何もない所から、いきなり水が湧き出ているのだ。
高さ1メートルほどの空中より、大地へ流れ落ちる一筋の水。
滝のようにと例えるには、あまりにも迫力不足な流れだった。
蛇口から流れる水のようだ。
うん、ぴったり。
正確な表現に近いだろう。
しゃがんだまま水を見上げていた男は冷静になりつつあった。
寝起きにガツンと言わされた感こそ否めないが、驚き慣れている。
濡れた服を抱えたまま、昨晩の事を思い出そうとしていた。
昨日はウサギに追っかけられて散々だったな。
草原に逃げて助かって。
あれ以上走ってたらヤバかったよなあ。
喉痛くて限界で寝ててー。
なんか音が聞こえて・・・・・・。
見えんし・・・・・・。
でも水音っぽくて・・・・・。
手探りで・・・・・・。
「んあっ!」
思い出した!
飲んだ!
オレ飲んだぞあの水!!
反射的に服を投げ出し、両手で腹を押さえる。
腹は大丈夫だろうか。
「・・・・・・・大丈夫そうだな。」
なんともない。
むしろ体調は久々の絶好調だった。
もちろんアチコチ痛いが、いつものことだ。
喉の痛みもない。
毎朝感じる、気の狂いそうな渇きも癒されている。
睡眠たっぷり。
怖れていた筋肉痛もまだ大丈夫。
まだ頑張れる。
クールダウン万歳。
そうと決まれば。
男は両手を揃えておずおずと水に触れた。
気持ちいい。
冷たい水の感触。
目を閉じて堪能する。
おっさんながらうっとりしてしまった。
目を開け、両手に溜まってあふれていく水をじっくりと見る。
やっぱり水だ。
透明な水。
手をはなし、顔を近づけて、躊躇うことなく口を開いた。
「んっ・・・んっ・・・んっ・・・」
蛇口から流れる水のように、普通に飲んだ。、
やはりちゃんと水の味がする。
しかもちょっと上等な水。
旨い。
男は喉をならし、空から湧き出る不思議な水を腹いっぱい飲んでいく。
既に「なぜここに」と疑問を抱いていた事など忘れていた。
水が無ければ命に関わる。
水が「所違って」も命に関わる。
よくよく知っていた。
しかし、もう飲んでしまったのだから仕方ない。
そして体に何の問題も出ていない。
じゃあいいや。
今日も飲むか。
単なる結果論から判断した男は、躊躇いもなく水を飲んでいた。
流石は大雑把な性格だと言えばいいだろうか。
深く考える性質ではない。
判断基準が1つあれば事足りていた。
例えば。
ここには不思議な事がある。
今のところ、自分を害する不思議ではない。
それだけ解れば十分だった。
5つの月も然り。
光の花もまた然り。
そして当然。
この流れる水もまたまた然り。
ならば、その不思議を有難く受け入れよう。
楽しもう。
頂こう。
それが男の答えだった。
「んっ・・・・っはー・・・・・・」
水を飲み終わり、満足した息を吐いた。
旨かった。
ごちそうさん。
流れる水音をBGMに、しばしまったり、余韻に浸る。
そよ風も気持ちよい。
今日は良い日になりそうだった。