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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
37/169

理性よりも本能で


どこからか懐かしい音がする。

狂おしいほどに求めた音。

本能を呼び覚ます音。

静かに。

しかしはっきりと。

鮮やかに。

男の耳を刺激する。



水音だ。

水が地面ではねる音。

全てを忘れさせる甘美な誘惑。



抗えない。

抗えるわけがない。


男は無意識に半身を起こした。

そのまま、手の力だけでずりずりと尻をひきずり体を動かす。

水音のするほうへ。

歩けば2,3歩ほどの距離をつめる。


地面についていた右手をはなし、暗闇に伸ばした。

月が4つに満天の星と言えども、まだイルミネーションは始まっていない。

いろんな意味でも文字通り、一寸先は闇だった。

男には何も見えていない。

音の出所を探す右手は、暗闇の中、空中を彷徨った。



「!!!」



すぐに右手にアタリがあった。

液体の感触だ。

男は勢いよくそこに顔を寄せる。

口を大きく開けた。

すぐに液体があふれんばかりに流れ込んでくる。

反射的に飲み込んだ。



「ゲホッ・・ゲホッ・・・ゲホゲホゲホっ・・・・」



ひどくむせた。

苦しい。

流れ落ちる液体が顔や頭にかかってしまった。

しかしそんなことは気にならない。



水だ。

水の味がする。



咳がおさまってくるとすぐに、手で上方から流れ落ちる水を探し顔を寄せた。

また口を開く。



「んっ・・んっ・・んっ・・・んっ・・・・」



本当に水なのか。

飲める水なのか。

毒などではないのか。


何も見えず、考えてもいなかった。

ただただ水を飲みこんでいく。


文明人の誇りはどうした。

誇りとやらを自覚してまだ1時間も経っていないのだ。

しかし誇りの前に理性が働いていなかった。

ただ本能の命じるままに。

飲んでいく。



「んっ・・んっ・・・・・・」



渇いた体の隅々まで染み込んでいくようだった。

夕方に食べたパンは既に消化しきっている。

水が喉を通り、空っぽの胃に入っていくのがわかった。

体に水が蓄えられていく。

喉の痛みが気にならなくなっていた。



「んっ・・・・・っはーっ・・・・・・」



水を飲み終わり、大きく息をはく。

満ち足りていた。

そのままずりずりと寝ていた場所に尻を引きずって移動する。

手でスポーツバッグを探り、枕にして寝ころんだ。

目を閉じる。


水音はまだ聞こえていた。

何よりの子守歌だった。

おっさんだって子守歌。

強い眠気に襲われる。

水音を聞きつつ、男はすぐに寝息を立て始めた。



男が寝付いてからほんの数分後。

草原が一気に明るくなった。

やわらかい色とりどりの光で照らされている。

光の花が満開だった。

真夜中のイルミネーションの始まりだ。

5つ目の月も顔を出し始めた。



しかし男は目を覚ますことはなかった。

既に深く寝入っている。

イルミネーションが照らし出すモノを見る事もなく。

知る事もなく。

今日も月たちに見守られながら、健やかな寝息を立てていた。



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