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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
森でお勉強編
34/169

何より怖いアレ


大草原5日目の夜。

今日も空には月が2つ。

3つ目の月も顔を出し始めていた。

昨日と同じく三日月だ。



全力疾走を続けた男の息はなかなかおさまらなかった。

はあはあどころじゃない。

そんな色気もない。

ゼイゼイいっていた。

大の字に寝転がった男はじっと息が整うを待つしかなかった。

どちらにせよ、もう起き上がれない。

大人しく月を眺め、ひたすらじっとしていた。


長い時間をかけて、ようやくいつも通りの呼吸に戻る。

心拍数も落ち着いてきたようだ。

男はノロノロと左手を動かし、カーゴパンツのポケットを漁った。

ハンティングナイフの皮ケースを取り出す。

ゆっくりと横向きになり、右手に握るむき出しのナイフにそれをかぶせた。

ウサギから、いやウサギの血液や脂から死守したナイフだ。


この身を粉にして守ったナイフ。

本当に粉になって散ってしまいそうな気分だった。

なんとかカーゴパンツのポケットにナイフをしまう。

スポーツバッグのベルトも肩から脱ぐように外した。

汗びっしょりだ。

貴重な水分が失われていくのを感じつつ、また仰向けに寝転がった。


汗を冷やす風が気持ちいい。

このまま目を閉じたら寝てしまいそうだ。

だが、決して寝てはならない。

絶対にダメだ。

何より怖いアレが来る。

そう。

筋肉痛・・・・・。



下手な笑い話ではない。

本気も本気。

男は大真面目だった。

別れたばかりのウサギの姿をうらめしく思い出す。



奴はおそらく若人。

この辛さはわからんだろう。

三十路を散々走らせといて。

ぎっくり腰にでもなったらどうするんだ。

・・・・・次は美味しく食べてやる。



勝手に決めつけているのだが、ウサギの若さが憎かった。

もはや八つ当たりだろう。


アチコチ痛む体で結構な全力疾走をしたのだ。

筋肉痛だって既に長くつきあう友人だ。

ただちょっと、いやかなり怖いオトモダチ。

これ以上は仲良くしたくない。

心から遠慮したかった。



「頑張れ・・・・オレ・・・・・」



かすれる声で自分で自分にエールを送る。

そうして、起き上がれない体をゆっくりと動かし始めた。

寝たままでもいい。

ストレッチするのだ。

このひと伸ばしが明日の男の体を救う。

たぶん。


スポーツマンならお馴染みのクールダウンをするつもりだった。

もちろん、料理一筋の男はスポーツマンではない。

部活すらやったことはない。

せいぜいが体育の授業どまりだ。


しかし男は山歩きのプロといえる経験を持っている。

山で体が思うように動かないリスクは重々承知。

ウォーミングアップ、クールダウンの大切さをよく知っていた。

もちろんその方法もスポーツマン並みに知っている。

森に入る前も実は入念にストレッチをしていた。

だからこそできた全力疾走。

数百キロに及ぶ大草原歩き旅。

年齢は努力でカバーできるのだ。



月たちが今日もやさしく見守る中。


明るい明日を迎える為。


男は動かぬ体を必死に伸ばしていた。


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