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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
大草原脱出編
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意外と山は高かった


大草原3日目の朝、なんとかペットボトルを水でいっぱいにする事に成功した。

瓶にも半分ぐらい水が採れた。

飲みたい気持ちはぐっと我慢。

スポーツバッグに大事に、それはもう大切に仕舞い込む。

なにせ命の水。

文字通り男の生命線だ。

一仕事終えた男は、時計をチェックした。


午前6時42分。


太陽が昇ってから、早くも2時間近く経とうとしていた。

気温も上がっている。

残念ながら、これ以上の水の採取は期待できないだろう。


やる事も終わったとして、男は寝る事にした。

昨日、昼寝をしてから一睡もしていない。

月発見イベントに始まり、光の花のイルミネーションを堪能し、フィナーレの花火に驚かされ。

「内容満載でお送りします」な一晩だった。

さすがに疲れを感じる。



ひとまず3時間も寝れば十分だ。

睡眠は小分けに取る作戦でいこう。



午前10時に腕時計のアラームをセットする。

いつものようにスポーツバッグを枕に寝転がって目を閉じた。

すぐに寝息をたて始める。

かなり疲れていたのだろう。

夢は見なかった。



数時間後、アラームの音が大草原に鳴り響く。

すっきり目が覚めた男は、ペットボトルを取り出して水を一口だけ飲んだ。

パンを食べ、さらに水を一口。

食べ終わると、さっさと荷物をまとめて立ち上がる。

できるだけ距離を稼ぎたかった。



早く山に入らないと。



それだけが男の心を占めていた。

途中昼寝を挟み、パンと水だけの食事を挟みつつ、休憩もそこそこに黙々と歩く。

とにかく距離を稼ぎたかった。


やがて1つ目の月が昇り、太陽が沈む。

2つ目の月も空に浮かんだ。

もう驚かない。

今日も月達に見守られながら、山が闇に紛れて見えなくなるギリギリまで歩いた。


大草原の初日から累計して考えると、150㎞ほどは歩いたのではなかろうか。

大草原初日は5~6時間、昨日と今日はそれぞれ10時間は歩き続けている。

日本人にしてはそこそこ大柄な男は、一歩が大きい。

不動産のチラシでみる「駅から徒歩何分」が時速4,8㎞。

絶対にそれ以上の速度は出ているだろう。


目指す山はまだまだ遠い。

それでも近づくにつれて、目指す山の全貌があらわになってきた。


まず低いと思っていた山。

甘かったかもしれない。

全然低くない。

むしろ高い。

こんなに離れているのに、あの存在感。

下手したら富士山ぐらいはあるんじゃないか。


男は新幹線からしか富士山を見たことはない。

これだけ離れていても高いと感じる山は、富士山以外に知らなかった。


また、山はその1つではなかった。

両隣にいくつも山があり、横に拡がる山脈をなしている。

まだうっすらとしか見え始めたに過ぎないので、こちらはそれほど高い山々ではないはず。

進行方向を北とすれば、山脈は東西に連なっているようだった。


もちろん太陽が右手から昇るからといって、進行方向が北かどうかもわからない。

そもそも太陽系の惑星ではないのなら、空をみて太陽だ月だというのはおかしい。


だが男は料理以外の事を深く考える性質ではなかった。

太陽に見えるなら、太陽でいい。

月は2つあろうが、3つあろうが月なのだ。

だって月に見えるもの。


それよりも問題は山だった。

何も山登りがしたいわけではない。

山の恵みが欲しいだけだ。

空気が薄くなるほど高い山なんてノーセンキュー。

勘弁してほしい。


有難いのは植物も動物ものびのびと生きている豊かな森。

その森の延長のような低い山。

行く手を阻むようにそびえ立つ、やけに高い山は心から勘弁だった。

雪が積もってなさそうなのが唯一の救いか。


山の麓に村や街があると期待していたのだが、そうは思えなくなってきた。

だいたいそんな所に人がいるなら、イルミネーションの一つや二つ、見に来るはずだ。

歩いても1日2日で見物に来れるような距離のはず。

近くにいながら、アレを見に来ないなんてありえない。


男は村が山のこちら側になければ、山を超えるつもりだった。

なんとしても第一村人を発見したい。

あちら側の山の麓ならば里があり、村があり、町があると期待したい。

じゃなければ辛すぎる。

「この惑星にたった独り」説が現実味を帯びてしまう。


しかし富士山ほどに山が高ければ、食料を確保しながらの登山は難しい。

登る前から音を上げても当然だろう。

標高が高くなると木はおろか草も生えない。

恵みが少ない中での登山が強いられてしまう。


冷静に判断した男は明日から、進路を変更することに決めた。

高い山は置いといて、その東側か西側の山を目指そう。


どちらにせよ、水問題は期待できても食料問題の解決は困難を極めるはずだ。

そもそも生態系がよくわからない。

食べられるモノの見極めから始めなければいけないだろう。


大草原3日目の今日は、4回に分けて3分の1ずつパンを食べた。

夜食も食べ終わった今、残るパンは塊が2つと3分の2。

風味は落ちているものの、日持ちがするパンであった事が本当に有難い。


まだ空腹が辛いと感じる事は少なかった。

それでもタイムリミットが着実に近づいているのを感じる。

自覚はなくとも、気持ちはあせっていた。



山に入ればなんとかなる。



山に全幅の信頼を寄せる男は、湧いてくる不安を深く考えない事にしていた。




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