表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
大草原脱出編
25/169

水が足りない


あと20分もあれば、午前4時という早朝。

どことも知れぬこの土地で迎える3日目だ。

今日も今日とて大草原。


昨日と同じなら、30分ちょっと待てばお日様を拝めるだろう。

一晩中、立ちっぱなしだった男は、空気がずいぶんと冷え込んでいたことに気付いた。

体も若干冷えている。

寒暖差で朝露がとれるぐらいだ。

冷えるのは当たり前であり、そのおかげで水がとれる。

恵みの雨ならぬ「恵みの寒さ」とでも言えるだろうか。


しゃがんでスポーツバックからダウンを取り出し、軽く肩に羽織った。

昨日使ったスポーツタオルを2本取り出す。

昼間に乾かしながら歩いた為、ちゃんと「使用前」といった雰囲気になっていた。


衛生的な細かい事は気にならなかった。

店で使う水というわけでもない。

冗談のようだが、サバイバル中なのだ。

泥水でないだけ有難い。

贅沢をいうつもりはなかった。


空気が冷え込んだおかげなのか、朝露がしっかり確認できるのが嬉しい。

昨晩、光の花が風に揺れる様を堪能した分、我に帰った後はだいぶ心配になったのだ。


風が強い晩は放射冷却に影響する。

つまり風が強いと朝露ができないかもしれない。

文字通りの死活問題だ。

ただ、その心配は杞憂だった。

よかった。

助かった。

昨晩はイルミネーションの揺らめきが華やかに過ぎた。

華やかな花の揺れっぷりに、風が実際よりも強く思えただけなのだろう。



もうすぐ水が飲める。



喉が渇いたなんてものじゃない。

危険なほどに、体中が水を欲していた。

もう草の朝露を直接なめとりたいぐらいだった。



昨日は2回、水を絞りとった。

今日はなんとか3回採れないだろうか。



手際よくふくらはぎにタオルを巻いていく。

両足に2本とも固定し、比較的背の高い草の辺りを選んで昨日と同じく歩き出した。

少し考え、羽織ったばかりのダウンはスポーツバッグにしまうことにした。

歩いていたら暖まってくるだろう。


ひざ丈の草の中を選んで歩きつつ、昨晩の事を改めて不思議に思う。



夜中には腰に届くほどの光の花が無数にあったのに。

そんな高さの草はおろか、深緑色の茎の名残すら見つからない。

蝶はもちろん、虫など一匹もいない。

果たして夢か幻か。

なんとも不思議な大草原だった。



小一時間ほど歩いただろうか。

ふくらはぎのタオルも程よく濡れそぼった頃、太陽が昇る時間になった。

進行方向、東の地平線が赤い。


男は立ち止まり、スポーツバッグからペットボトルを取り出す。

待ちに待ったお水を採る時間だった。

しっかり採れている。

嬉しい。

渾身の力をこめて絞った。

ペットボトルに半分を超えるほどの量。

昨日と同じぐらいだろう。

ようやく水が飲める。



「旨い・・・・」



一気に飲み干したい気持ちを押さえ、チビチビと飲んだ。

ついでにパンも食べた。

朝食のお時間だ。

3分の1をたいらげ、残るパンは大きな塊が3つと塊の3分の2。

結局採ったばかりの水も全部飲んでしまった。

残しておこうとチビチビ飲んだのに。

ペットボトルの軽さがうらめしい。

それでも喉はまだまだ渇いていた。

全然足りてない。



「ヤバいよな・・・・・」



昨日はあれほど感動したご来光も、今はそれほど心に響かない。


それよりも水。

何よりも水。

少しでも水を飲めれば、この渇きもマシになると思っていた。

甘かった。

逆に喉の渇きがひどくなったような気すらしてくる。



とにかく水をなんとかしなければ。

確保を急がなければ。



朝露が消えてしまう前に、ペットボトルいっぱいには水を確保しておきたい。

瓶にも水を取れれば有難い。



急がなければ。



男は再びタオルをふくらはぎにセットし、荷物を背負い大股に歩きだした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ