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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
大草原脱出編
24/169

フィナーレは花火大会


草木も眠る丑三つ時。


日本ではそう呼ぶはずの午前2時17分。

しかしここは地球に非ざるどこかの大草原。

木がない。

そして、草よりもまず光の花が眠ってなどいない。

踊るにもほどがあるというほど、風に揺らされていた。

その光の花に照らされた草原の海も風にゆれ、生き物のように波打っている。



この大地の丑三つ時は非常に賑やかだった。

全く眠くならない。

男はふわんふわんな光のイルミネーションを存分に堪能していた。


時間はあっという間に過ぎていく。

月は残り3つが空に浮かぶのみとなっていた。



映画みたいだな。



もちろん、こんな風景は映像ですら見たことはない。

あくまでも想像に過ぎないが、ファンタジーな映画に出てきそうだ。

もう何年も映画など見ていないが。

あまりにも現実離れしていた。



昼間の草原は、背の高い草があっても男の膝を超えるか超えないかというぐらいだった。

しかしこの光の花はどうだ。

男の腰の高さまである。

しかもこんな高さのある深緑の茎など、昼間に見た覚えもない。

つくづく不思議だった。



「え・・・・・?」



それは一瞬。

ふと、全ての花の光が強くなったような気がした。

やさしい赤い光が。

紫が。黄色が白が青色が。

間違いない。

気のせいではない。

膨らみ始めていた。



「・・・・・・」



ふわりとしたやさしい光のまま、花が次々と膨らみ大きくなっていく。

元の大きさの2倍ぐらいだろうか。

それぐらいに達した光から、ゆっくりと細かい無数の光に分かれて拡がっていく。

そのまま闇に溶けるように消えてしまった。

若干スローモーションで光が弾けたようにも見えた。



「なんだこれ・・・・・」



男は慌てて辺りを見回した。

360度、あちらもこちらも、同じことが起きていた。

光の花は次々と膨らんで大きくなり、細かく弾け、拡がりながら消えていく。


例えるなら、スローモーションで花火を見ているようだ。

男の腰辺りの高さにあがる、手のひらサイズの花火。

高さも大きさも、実にささやかだ。

それでも、実に見ごたえのある花火と言えるだろう。

音もなく、だが次々と無数にあがっている。

大草原、見渡す限りの花火大会だった。



「すげえ・・・・・・」



ただただ目を奪われる。

幻想的な花火大会が続いたのは、数分、いや数十分だろうか。

長かったようにも短かったようにも思える。

気付けば全ての光が消えていた。


いつのまにか、緑に光っていた蝶もどこにも一匹もいない。

草原は何事もなかったかのように、元の地味な姿を取り戻していた。

腰の高さまであった、深緑色の茎すら見当たらない。



「なんだったんだ・・・・」



夢から現実に引き戻された気がする。

なんだか寂しい。

時計をみた。


午前3時38分。


昨日目覚めたのも、同じような時間だった事を思い出す。

辺りはうっすら明るくなりつつある。

昨日と同じく、夜明け前といった雰囲気だ。

早すぎる。

夜の終わりが名残惜しかった。


男は空を見上げた。

月は残り2つになっている。

これも昨日と同じ。


そのことになぜかほっとした。

草原で初めて目覚めた一昨日は、一夜にして色々変わり驚愕し。

ふて寝から目覚めた昨日は、変わらないことに絶望し。

今日に至っては、変わらないことに安心している。


昨日の朝が随分前に感じられた。

思え返せば、なんともイベント満載な1日。

長い、とても長い1日だった。


もうすぐ夜が明ける。

この見知らぬ土地での、記念すべき3日目の朝を迎えようとしていた。


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