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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
大草原脱出編
22/169

蝶々発見!


5つ目となる月発見に続いて、光の花のイルミネーションが開幕した。

大自然の音しか聞こえない、静かなるお祭りだ。


草原はやわらかな風に揺らされている。

夜の暗い海が静かに波打っているかのようだった。


その海に浮かぶのは、色とりどりの光の珠。

しなやかに揺れる茎に支えられた光の珠は、草原の上に浮いているように見える。

花を支える深い緑色の茎が、草原や暗闇に同化するからだろう。


光の珠に見える鮮やかでやわらかな花の色は5種類を数えた。

赤、青、ゴールド、白、紫。

色とりどりの花は草原の海の波間に浮き上がり、揺れ動く。

生き物のように。

ふわんふわん。


地球に非ざる絶景。

真夜中から驚きの連続だった。

十分に楽しんだ。

しかし、祭りはまだまだ終わらない。

もう一つ、男を驚かせたものがあった。


蝶々発見!である。


はじめは全く気付かなかった。

いつの間にか、色とりどりの光の花の中にふわりと加わっていた。

気が付いた時には、当たり前のようにそこにいた。


きれいな明るい緑色に光る蝶々。

大きなものではない。

小さな蝶々だった。

5㎝もあるだろうか。

数もそれほど多くはなかった。

色とりどりの光の花、そこに加わる小さな明るい緑色。

ひっそりと、しかし確かな存在感を持った蝶の姿があった。



「芋虫なんか見てねーぞ」



そうだ。

蝶はおろか、虫なんて昼間には全然いなかったのだ。

やはりこの大草原は色々おかしい。



今日は歩きながらも、虫のチェックをかなり慎重に行っていた。

明日も草から朝露を集める都合があるからだ。

アブラムシがびっしりついている草から採れた朝露なんか、絶対に飲みたくない。

どんな罰ゲームだというのか。

昆虫の何かがブレンドされている水は遠慮したい。

想像するのも嫌だった。

「命の水」を賭けた虫探し。

真剣になるのは当然だ。


だから急いで歩きつつも、立ち止まっては葉の裏をめくったり、茎をかき分けたり。

それでも一匹たりとも見つける事が出来なかった。

不自然なほどに虫がいない。


だから緑の光が蝶だとは思いもしなかった。

それでも光の動き方が、揺れ動く花とは違う。

リズムがある。

花から花と舞い踊る緑の小さな光に気付いた時には、蛍かと思った。

色は違えど、何かしら光っているものが飛んでいるからだ。

夜に光って飛ぶ虫といえば蛍だろう。

常識だ。

しかし、蛍よりは光が明らかに大きかった。

色も違うように思うし、点滅もしていない。



男は記憶の中、山奥で初めて見た蛍の姿を思い出した。

鋭角に方向転換するような、独特の動きをする光。

当時、かなり近くで見ても「点滅する光」としか認識できかった。

虫には見えなかったのだ。

小さな黄緑の、蛍光色っぽい光だけが動いているように見えていた。

舞い踊る小さな光をつかまえるのは難しくなかった。

手の内に囲い込んだ光。

よくよく観察した時は、ちゃんと虫の形をしていると感心したものだ。

黒っぽい体の部分は、手放すとすぐ闇に紛れて見えなくなった。

源氏蛍だと民宿の爺さんが教えてくれた。



今、目の前で動く光は、遠い記憶の中の蛍とは明らかに違う。

蝶の形をした全身が白っぽい明るい緑に光っていた。

点滅もしない。

ずっと光り続けている。

手の中につかまえなくとも、ちゃんと蝶々の形をしているのが確認できた。

蛍とは全く違っている。

男の知るどんな虫とも違っていた。



知らず知らず、感嘆のため息が漏れる。

なんとも幻想的な光景から目が離せなかった。


緑色の小さな光が、赤い光の花にとまる。

ふわりと飛んで白っぽい光の花に移動した。

そうかと思えば、隣の紫の光の花に別の緑色の光が加わっている。

ふわんふわん。


美しい。

素晴らしい。

ファンタスティック。

そんな言葉じゃ到底足りない。

なんとも表現し難いほどに美しかった。



あれが蛍ならよかったのに。



男は光の乱舞を堪能しつつも、少しだけ残念に思った。

別に蝶が嫌いなわけじゃない。

蛍が特別好きなわけでもない。


ただ蛍なら。

あれが日本の蛍だったなら。

水の在りかを教えてくれたかもしれない。

苦くともいい。

甘ければもっといい。

苦くとも甘くとも「命の水」。

水が欲しい。


驚くことに慣れてきた男は、猛烈な喉の渇きを思い出してしまった。

蛍にすがりたかった。

虫でもいい。

誰でもいい。


誰か水の在りかを教えてください。


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