真夜中のライトアップ
夜空には月が5つ。
突っ立ったまま、開いた口がふさがらなかった。
若干期待はしたが、それでも呆れる。
すごい。
月が、5つも。
すごい。
全て、三日月。
「いち、に、さん、し、ご」
30歳半ばを過ぎたおっさんが、子供のように数を数える。
間抜けな姿だ。
しかしおっさんは大真面目だった。
ご丁寧にも、昇ったばかりの月から順番に指さし確認をする。
やっぱり月は5つ。
間違いじゃない。
1番初めに上がった月はそろそろ空の低い位置にきていた。
最後に昇ったばかりの月の反対方向の空だ。
男を中心として、5つの月が描く放物線を見ているように感じた。
贅沢な眺めだ。
しかし満天だった星空の、何割かの星が見えなくなってしまった。
なんだか辺りが急に明るくなったからだろうか。
月の光で星が減ったのか。
それは寂しい。
「月も5つあればそりゃ明るくもなるよな」
視線を空に固定したまま呟いた。
だがそれにしても急に明るくなりすぎた気がする。
「?」
ずっと見ていた空からふと視線を転じ、草原を見渡し異変に気付いた。
えらい異変だ。
「何だこれ・・・・・」
真っ暗なはずの草原、それ自体が淡く光っていた。
月の光で地上が照らされているわけではない。
草原それ自体が、暗闇の中で光っているように見えるのだ。
「・・・・・・」
よく見ると、草原のそこら中に、色とりどりの光の珠がふわんふわんと浮いていた。
強い光ではなく、やさしい光の珠だ。
色とりどりの光である為、いわゆる「人魂的な」不気味さは全くない。
光が浮いている高さはまちまちだ。
一番高く浮いているものでも、男の腰より低い辺りだろうか。
ひとつひとつの光そのものは、それほど大きなものではない。
ささやかな大きさだった。
少し揺れ動いているようにも見える。
ふわんふわん。
実に幻想的な光景だった。
「ライトアップ・・・・?LED?」
常に感じている喉の渇きも忘れ、ただただ目の前の絶景に見とれた。
こんな綺麗な光景は見たことがない。
綺麗といってもしっくりこない。
なんとも表現し難い絶景だった。
地球に非ざる土地の不思議な絶景。
ふわんふわん。
暗い中、やわらかで色鮮やかな光が草原に浮かぶ。
それぞれの色に照らされた草が、やさしい風に揺られていた。
男は日本の冬に行われるLEDライトアップを、ちゃんと見たことがない。
観光地での夜に行われる華やかなそれは、早朝から深夜まで働く男には無縁のものだった。
せいぜい見れるのは消灯後の寂し気な姿のみ。
だから想像でしかないものの、日本のライトアップに比べると随分と地味だと思う。
光り方がパッと見えるのがLEDだとすると、すこしぼんやりした印象のやわらかな光だった。
しかし派手派手しくはない分、ふわりふわりと浮かぶ光はより幻想的に見える。
この世の光景とは思えない。
「俺、もう死んでんじゃねーよな・・・・・」
男は目の前の光景に目を奪われたまま呟いた。
天国が本当にあるのなら、こんな所じゃないだろうか。
俺は天国に来てしまったのか。
5つ目の月出現の衝撃が吹っ飛んでいた。
目が離せない。
身動きをするのも忘れていたことに気付く。
ぐるっと360度、見渡してみた。
そこら中に光の珠が浮いていた。
男が見ていた方向だけではない。
360度、大草原見渡す限り、色とりどりのやさしい光が浮かんでいた。
「すげーな・・・・・・」
眼福ってこういう事を言うのだろう。
絶景ってこういう所を言うのだろう。
男は息をするのも忘れたように、目の前の光景に魅入られていた。