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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
大草原脱出編
19/169

お月様いくつ


ゆっくりと現れた4つ目の月。


もはや月と呼んでいいのかわからない。

しかし紛れもなく見慣れた三日月の形をしていた。



「月が4つ・・・・・」



男は呆然と月を見つめる。

念願の「月の出」が見れたにも関わらず、喜びよりも衝撃のほうが大きかった。

驚かないと決めたはずなのに、動揺を隠せない。

月が3つの段階で、随分驚いていたのだ。

昨日なんてそれだけで、いっぱいいっぱいだった。

はっと気づいて腕時計を見る。


23時12分。


あたりはすっかり暗くなっている。

期待した通り、満天の星空になっていた。

月に至っては、豪華に4つもそろっている。

実に賑やか。

見たことがない。

忘れられない思い出になる事、間違いない。

これぞおそらくプライスレス。

贅沢な光景・・・・・だと思うことにした。


驚くことに慣れた男は、落ち着きを取り戻しつつあった。

人類未発見の惑星にいるのだ。

ならば月が3つだろうが4つだろうが、大した違いはないだろう。

男の大雑把な性格がイイ仕事をしていた。

今さら特に不安が増すようなこともない。

夜空に浮かんだ4つの月をのんびり眺めつつ、呑気に考えた。



満月になったら見ごたえあるだろうなあ。

4つも満月があったら明るいぞ・・・。

あー、でも明るくなり過ぎるの問題かもしれん。

せっかくの星が霞んでしまう。

満天の星空なのにもったいないよなー。

いやいや、ちょっと待て・・・・

三日月はちゃんと満月になれるのか?

地球と同じように?

月の満ち欠けがあるのか?

そもそもアレを月と呼んでいいのか?

わからん・・・・



男は目の前の光景を存分に楽しんでいた。

こんなに綺麗な星空は、1年ぶりだ。

最後に見たのは、1年前の冬。

高校時代にリゾートバイトをしていた民宿に泊りに行って、眺めたのが最後だった。


街灯すらろくにない山奥では、満天の夜空が真冬の風物詩。

孫のように可愛がってくれた老夫婦は引退したものの、毎年あたたかく迎えてくれた。

今や第二の故郷である。

男は、父や妹夫婦と共にすっかり「常連さん」だった。



じーさんは元気だろうか。

せっかく予約とったのに、この冬は行けそうにないよな・・・・・



夜空を見ていると、なんだか懐かしい気持ちになってくる。

遠い故郷を思い出し、しばし思い出にひたった。

いつのまにか目を閉じて、寝てしまいそうになっていたことに気付いてはっとする。



危ない危ない。

悲しい現実を思い出してしまった。

そうだ夜食を食べよう。



男は枕にしていたスポーツバックから、パンの入った紙袋を取り出した。

寝るときには毎回バッグを枕にしているが、ぺちゃんこのパンにはなっていない。

そこは抜かりなく、横に長いバッグの特性を利用し、工夫している結果だ。

夕方に食べた残りの3分の1を手に取り、かぶりついた。

これでパンの残りは、塊が4つ。

食べ応えのあるパンで本当によかった。



「やっぱ水がないと辛いな」



もそもそとパンを食べつつ、つぶやいた。

相変わらず旨いことは旨いのだが、口の中の水分が全部持っていかれるような気がする。

なんとか食べ終わり、時計をチェックした。



23:55

もうすぐ真夜中だ。



「5つ目の月が出るかも・・ってないよな」



誰も突っ込んでくれないから、自ら突っ込んだ。

寂しい。

だが、ありえない話とも言い切れない。


今のところ、2つ目は21時台、3つ目は22時台、4つ目は23時台。

特に4つ目の月は昇るところからしっかりと見ていた。

だからわかっている。



4つ目は23時すぎてすぐの時間だった。



真夜中まであと4分。

無意識に身を起こした。

あと3分。

2分。

じっとしていられない。

立ち上がった。

午前0時、真夜中だ。

突っ立ったまま、0時を1分、2分と過ぎていく。

東の空から目が離せない。



アレ、まさか違うよな・・・・・・



先ほどと同じく、やけに輝く星が見えるような気がする。

さっきまで、そんな星はなかったのに。

男が見つめる先、輝きがどんどん増していく。



来たか・・・・?



やがて空には三日月がもう1つ、その姿を現した。

期待通り。

数える事、5つ目となる三日月。



「お月様、5つってか・・・・・」



暗闇の中、独り言がやけに大きく響いた気がした。


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