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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
大草原脱出編
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安全対策を言い訳に


パンと水だけの昼食はすぐに終わった。

相変わらず喉は渇いているが、こんな大草原で水が飲めただけで良しとする。

これ以上望むのは贅沢だろう。



さあ昼寝だ。



背の低い草の辺りを選んで、スポーツバッグを枕に男はごろんと寝ころんだ。

相変わらず風が気持ちいい。

雲ひとつない、どこまでも青い空。

すこしばかりまぶしいのを我慢すれば、すばらしい昼寝日和だ。


急ぐ旅にも関わらず、昼寝を決め込んだのにはわけがあった。

一応、ちゃんとした理由だと男は思っている。

安全確保の為だ。


こんな大草原で、安全安心のお住まいなど夢物語だと理解はしている。

しかし、昨夜は無防備過ぎた。

安全を確認もせず、対策もせずに寝てしまったからだ。


確かに、ふて寝した人間に「安全確認」などできるはずがない。

大人げなかったと思う。

サバイバルする気がないのかと、怒られても仕方ない。

誰も怒ってはくれないけれど、昨日の態度をちょっと反省していた。


だから今日は夜通し起きていることにしたのだ。

それが男の考えた「安全対策」だった。

実にシンプル。

本当にちゃんと考えた結果なのか。


しかし男は大真面目に「安全対策で昼寝」をするつもりだった。

なんならちょっと自画自賛が入っていたかもしれない。

曰く。



夜はどんな危険があるかわからない。

ましてや知らない土地だ。

だから夜は寝ないでいよう。

昼寝をしたら体力調整も万全。

以上、安全対策。

完璧!!



深く考えることはない。

それでいいのか。

しかし疑問を持つこともなく、睡魔を待った。

ついでに安全について、青い空を眺めつつ、もう少し考えてみる。


昨日1日の経験と、今日の注意深い観察の結果、昼は安全だろう事がわかっていた。

人っ子一人いないし、獣の姿もない。

蛇も見なかった。


けれども絶対に普通の草原ではないはずだ。

午前中、頑張って歩きながらも探したが、虫の姿を一匹も見つけられなかった。

そう、一匹もいなかったのだ。

探し方がゆるいわけではないはず。

水問題がかかっているので、かなり真剣に虫を探した結果だった。



潔癖じゃなくても、集める朝露は新鮮キレイだと信じたい。

アブラムシなんかがいたら嫌すぎる。

絶対に遠慮したい。



だからこの暑い中、必要もない革手袋を装着し。

草をかき分け、茎に顔を近づけ、葉をめくり。

結構細かく探したのだ。

それでも見つからなかった。



おかしい。

虫が生きていけないような草原ってあるのか?

絶対おかしい。



風が吹き、様々な草にあふれ、だが虫が一匹もいない草原。

ちょっと怖い。

いやいや、大分怖い。

はたして虫が生きていけない何かがあるのか。

どう考えても異様だった。

まあ月が複数ある時点で、今更という気もするが。


おかしな草も多い。


葉をめくってみると、裏が真っ赤だったり、紫だったり。

葉っぱの模様が蛍光ピンクの水玉という、なんとも言えないものだったり。

同じに見えても、うすく色づく葉脈が水色と黄色という違いがあったり。

意外と色とりどりの小さな花をつけている草もあった。

花をつけているものは、ハーブっぽい見た目が多い。

香りもそんな雰囲気だった。

しかし見たことのあるハーブとはどこか違う。


パッと見では緑の印象が強い草原だったが、実際には違った。

非常に色彩豊かな草原のようだ。


ただ、少し安心材料も出始めてきた。

触っただけで命にかかわるような、危ない草はないと思われるのだ。

昨日からの経験上、そう判断していた。


いくら長袖長ズボンに革手袋という完全防備スタイルだといっても、限界がある。

例えば手袋を外している時。

昨晩寝ていた時や、今朝、水を確保した時などだ。

気を付けてはいるが、草が素肌に触れる事は度々あった。


寝返りをうって、草が直接頬にあたる事もあった。

この草原ではじめて目覚めた時だって、うつ伏せで寝ていたのだ。

問題があるなら、とうに被害にあっているだろう。



だから、大丈夫。

虫には厳しいが、人には優しい大自然。

昼は安全。

そのはずだ。



男は随分と楽観的に結論をつけていた。


残るは夜の安全確認だ。

野宿の定番、テントもない。

火にも頼れない。

そもそも火種もない。

あったとしても、水もない草っぱらで火をつけたら大惨事だ。


したがって男にできる安全対策は、一人で不寝番をすること。

それだけだった。


数日前までは繁忙期、毎日2時間寝られればマシなほうだった。

徹夜だって慣れている。

料理コンテスト前には、厨房で一人、連日のように徹夜で頭を悩ませたものだった。

2日くらい寝なくても全然平気。



ただ今回は、運動もしているし。

働くこともできないし。

何かあった時のために体がキレよく動いたほうがいいだろうし。

だから念のため。

あくまでも念のため。



いろんな立派な理由を並べて、昼寝を決めた。



単に昼寝をしてみたかっただけではない。

たぶん。

誘惑に負けたわけではない。

おそらく。


男はいろいろと自分に言い訳をしつつ、眠りに落ちていった。


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