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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
大草原脱出編
15/169

安心と安全なお住まいを


水が飲めてパワーもアップ。


飲んだ水はたったの一口。

たかが一口、されど一口。

力が湧いてくるようだった。



「今日も頑張るか」



空の瓶と水の入ったペットボトルは、大切にスポーツバックにしまった。

タオルはちょっと迷った結果、明日の為に一旦乾かす事にする。

地面につかないよう気を付けながら、両手首にくくりつけた。

振り回しながら歩けば、それほど時間もかからず乾くだろう。

この陽気に期待したい。


目指す山は、かなりはっきり見えるようになっていた。

その事が男の背中を押してくれる。

見えてきたのは、単体の山というより横に広がっている山脈のようだ。

全体的に低い。



もう何日か頑張れば山に入れるだろう。

今日は距離を稼いでおきたい。



少しずつペットボトルの水を飲むのに立ち留まる他は、休憩も取らずに歩き続けた。

途中でタオルも無事に乾き、スポーツバックにしまう。

水を飲んでから時間が経っても、腹の調子は問題ないようだ。

漠然とした不安は消えていた。

何も考えず、歩くことだけに集中する。


昼の13時を過ぎた頃、男は早めの昼食にとることにした。

いつもなら職場で昼食を取るのは15時前である。

ランチ営業終了後に打ち合わせをしながら、当番の作る賄いを食べるのが料理人のスケジュールだった。

だから男の腹時計的に、昼飯には大分早い。

腹は全く減ってなかった。



「でも今日は昼寝するからな」



男は今日、昼寝をすることに決めていた。

本日の大イベント、昼寝。

随分楽しみにしていた。

午前中はこの時間を目指して、一心不乱に歩いていたのだ。



昼寝って贅沢だよな。

昼から寝れるなんて何年ぶりだろうか。



これがプライスレスということかと考えつつ、男はパンをかじって水を飲んだ。


今食べているパンは1つを3分の1に割ったもの。

残りのパンは大きい塊4つと3分の2。

水の残りはペットボトルに半分ちょっと。



着実に食料が減っていく。

だが男はあまり気にしていなかった。

山がかなりはっきり見えてきているからだ。



山に入ればなんとかなる。



もちろん具体策など一つもない。

だが、民宿の爺さんの教えを弟子は愚直に信じていた。



さて急ぐ旅にも関わらず、男が昼寝を決めたのにはちゃんとした理由があった。

単に強制的な休日に浮かれていただけではない。

たぶん。


目の前の現実を受け入れた男は、大雑把ながら前向きに考えていた。

ここで生き抜く為のあれやこれやである。


人間が生きていくために必要といわれる衣食住。

緊急の課題であった水の確保を少ないながらもあっさりと解決し、食料問題も数日ならば問題ない。

だから「食」は大丈夫。


充実したお泊りセットがあるから「衣」も問題ない。

洗濯がいつできるのかわからないが、贅沢は言ってられない。

汚れていたって服は服。


つまり問題は「住」の部分である。

今のところ、大草原に住んでいると言って良いのだろうか。

しかしながら、小さい家も大きい家も大草原には存在しなかった。


昨日は野宿。

今日も明日も野宿。

決定。

大草原から脱出しない限り、明後日も野宿だろう。



『安心、安全な住環境を約束します』

新築住宅のチラシでよくみた宣伝文句を思い出してしまう。



「誰か約束してくれよ。

 俺に安全と安心を・・・・・」



残念ながら、独り言に応えてくれるヒーローはいなかった。

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