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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
大草原脱出編
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それでも陽はまた昇る


理想はひざ丈くらいの草が密集する所。


男はあえて背の高い草の中を選び、草を蹴るように歩いていた。

蛇行しながらも、しっかりと山にむかっている。

歩きながら、今後のことを考えた。



パンの残りは5つ。

一つが大きいから、一日1個食べれば空腹に苦しむことはないだろう。

もちろん節約すればもっと伸ばせるが、今度は賞味期限的なアレが問題になってくる。

風味がおちるのもパンが固くなるのも仕方ないが、カビが生えるのは頂けない。

絶対にやばい。

幸いにして暑さや湿度はそれほど気にならないから、5日程度なら日持ちするのではないだろうか。

5日をメドに、他の食料をなんとか確保しよう。



昨日は見えるか見えないかという程度だった山も、今はっきり見えているのが心強かった。

頑張ればパンを食べきる前に近づけるのではと期待する。

黙々と歩き続けた。



山があれば川もある。

木があれば森をつくり、木の実をつける木もあるはずだ

実や種を食べる小さい動物がいる。

それを食べる獣もいるだろう。



食糧事情を考えると、早く山に入らねばならなかった。

山に入ればなんとかなる。

男は山に絶対の信頼を寄せていた。



『山に入れば絶対に助かる』



男がそう思い込むには理由があった

大雑把な性格も影響しているが、それだけではない。

ある種の実感が伴っていた。

高校時代、まとまった休みの度に働いていた山奥の民宿での経験がモノをいうのだ。


そこは電車に乗ろうと思えば、1日2本のバスに1時間は乗る必要があるような閉ざされた山里。


車社会になったからこそ、山奥の民宿には都会からたくさんの客が訪れていた。

猪鍋をジビエだと喜び、兎肉にはこわごわとかじりつく。

山菜の天ぷらに舌鼓を打ち、その苦みを旨いと受け入れる。

これらは全て、豊かな時代だからこそできること。

孫のように可愛がってくれた爺さんは、酒を飲みつつ男を相手に若い頃の思い出をよく語ってくれた。


やせた狭い土地しかない山里では、米の収穫はたいして期待できない。

蕎麦を育て、細々と野菜をつくり。

爺さんが幼い頃には、満足に食べていくことはできなかったらしい。


老若男女問わず、皆が必死に働いてようやく飢えをしのぐ生活。

女は乳飲み子を背負って畑を耕し家を守り、男は罠を手に獣を求めて山に入る。

子供達は大人達について山に入り、山菜や木の実、山芋などの食べられるものを探したそうだ。



「山というものはおそろしい。

だが山は人の生きる糧を与えてくれる。

山に頼れば生きていける。

生きていけるんじゃよ。」



爺さんの話の〆はいつも同じ言葉だった。

すっかり覚えてしまった。



歩き始めてまもなく、地平線から太陽が顔を出した。

赤い太陽。

一緒だ。

日本と一緒。

地球と一緒。

たったそれだけが泣きたくなるほど嬉しかった。


振り返って月を探す。

残り一個。

月の数を「残り何個」と数えるのもおかしな話だ。


時計を見る。

午前4時17分。


男は荷物を下ろし、座り込んだ。

ゆっくりと太陽を見つめる。



こうして太陽を眺めるのはいつぶりだろうか。


「ご来光」


詳しい語源は全く知らないが、なんとなく有難い気分になる。

新年じゃなくとも、目の前の光景にはぴったりの言葉だ。


どことも知れない土地であっても。

月がいくつもある地球じゃない星であっても。

太陽はちゃんと昇ってくれた。

ありがたい。


今日も風が気持ちいい。

男はしばしこの瞬間を堪能した。


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