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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
大草原脱出編
12/169

腹を決めたら腹が減る


明けの明星ならぬ2つの月。


片一方の月は傾き、かなり地平線に近づいている。

辺りは明るくなってきており、夜明けが間近に感じられた。



「・・・・・」



男はしばし月を眺めた。

思い出したように腕時計を見る。


午前3時23分。


日本ならばまだまだ暗いはずのこの時間。

最後に時計をみてから、まだ4時間程度しか経っていない。

それでも、十分寝た気がするし体も軽くなっていた。

普段から少ない睡眠時間のせいなのか、しっかりと目覚めてしまっている。


もう一度、大草原に目を向ける。

これが現実。

目をそらしようがなかった。



「・・・・・よぉーしわかった。

飲み込めた。飲んだぞ俺は。」



唸るような声が出る。

男は腹を決めた。



ここは日本ではない。

地球でもない。

誰もいない。

納得はしてない。

だが、受け入れよう。

どこであっても生きていく。



「もう何があっても驚かんぞ。」



自分に言い聞かせた。

考えてもわからないなら、考えなければいい。

これで悩みはなくなった。

悩むのは料理の事だけでいい。

なかなかに乱暴な結論であった。


男は元来、あまり物事を気にしない性質だ。

よく言えば細かいことを気にしない、悪く言えば大雑把。

そうして生きてきた。

料理についてだけ、人が変わったように細かいのでよく驚かれたものだ。


そうと決まれば、猛烈な腹の減りに、そして喉の渇きに気付く。

昨日の昼に食べたパンが最後だった。

腹が減ってはなんとやらだ。

考えるのは後にして、まずは食事をすることにした。



今こそファイトな飲み物を。



温存していた茶色い瓶の栄養ドリンクを、いそいそと取り出す。

続いて昨日食べた残り半分のパンも取り出した。

ペットボトルと同じような値段で買えるドリンクに、いかほどの栄養があるのかはしらない。

それでもたまに職場に差し入れられたそれは、男にいつも力を与えてくれた。


うっすらと明るくなる中、揺れる草をみながらパンを食べ、栄養ドリンクを飲む。

風が気持ちいい。

いろんな事に棚にあげてしまうと、体調万全、なかなか気持ちのよい1日の始まりだった。



今日も元気だ、パンがうまい。



乾いた体には、200ccにも満たない栄養ドリンクでは到底足らない。

それでも男は十分に満足できた。


食べ終わって空を見上げると、月が一つになっていた。

もう一つは完全に沈んだようで、残る一つも地平線に近づいていた。

振り返って反対側を見る。

辺りはかなり明るくなっているが、太陽はまだ姿をみせていなかった。


この惑星でも太陽が東から上るなら、目指す山は北にあるはずだった。

改めて山のある方向を見つめる。

うっすらと、だがしっかりと山の形が確認できた。

かなり低い山のようだ。



「まずは水だな・・・・・・。」



腹も満たされやる気は十分。


草をよくよく観察すると朝露が確認できた。

気温差があまりないようだったので、心配していたのだ。



これは助かった。



男はパンの入っていたビニール袋を丁寧に折りたたみ、スポーツバックにしまった。

瓶の蓋もしめ、これも大切にバッグにいれる。

かわりに緑のいわゆる泥棒柄の風呂敷を取り出した。

「お風呂セット」である。

風呂敷をほどき、スポーツタオル2本を残してバッグにしまった。


タオルは1本ずつ、ふくらはぎにぐるぐると巻いて結んで固定する。



よし、準備完了。



男は満足げに頷くと、スポーツバッグを斜めがけにし、立ち上がった。

カーゴパンツのポケットから革手袋を取り出して装着する。

ざっと地面を見回し、忘れものがないか確認し。

今日もまた。

山に向かって歩き出した。



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