寝て起きたって大草原
空に浮かぶ3つの月。
時刻は23時を迎えようとしているのに、まだ若干明るさが残っていた。
少なくともあと1時間ほどで真夜中、という暗さではない。
何時間も歩き続けた体は疲労の限界を迎えていた。
ましてや精神の疲労となれば、とうに限界を超えていたかもしれない。
非日常、非常識にさらされ続けたから当然だ。
そこに現れた3つの月。
三日月。
全て同じ形。
男のココロにトドメをさすような、これぞまさに非常識だった。
「マジでどこなんだよ・・・・・」
日本じゃないのは100歩譲って受け入れよう。
飲み込もう。
それでも、だ。
月が3つもある?
なんだそれ。
地球じゃないのか。
何惑星なんだ。
どうしてこうなった。
「どう考えっておかしいだろ」
よし、もう今日は寝てしまおう。
すでに寝転がってはいるけれども、倒れそうだった。
本気で気分が悪い。
これ以上目を開けていたくはなかった。
見える景色が己の現実だとは飲み込みたくもない。
いやいや飲み込めない。
目を固く閉じた。
寝ようと思うものの、都合よく眠れるはずもない。
もしかしたらと考えてしまうのが怖い。
不安な想像に引きずられぬよう、無理やり自分を納得させようとした。
単に長い夢を見ているだけだろ。
そうだそうそう。
しかし何とも悪い夢だ。
このところ忙しかったからストレスでも溜まってたんだろう。
そうか夢か。
夢なのか。
次はアパートで何事もなく目覚めるはず。
なんとか思い込もうとした。
だがそれでも感じる、喉の渇き。
空腹。
やさしい風の気配に。
草がさわさわと揺れるかすかな音に。
どうしても不安な気持ちが抑えきれなくなっていた。
戻れないかもしれない。
夢じゃないかもしれない。
だったら俺はどうなる・・・・・・。
目覚めたら今度はまた違う所にいるかもしれない。
草原の次ならどこだろう。
海か砂漠か山なのか。
大自然シリーズで攻めてくるんだろうか。
せめて街にしてくれないか。
誰かに会いたい。
助けてくれ。
水をくれ。
何が正解なのか全くわからなかった。
固く目をつぶったままぐるぐると考える。
やがて思いつくこともなくなった頃、男は意識を手放した。
そして数時間後、男はゆっくりと目覚め始める。
なんだか変な夢を見ていたような気がしていた。
俺の安眠を返せ・・・・・。
夢ごときが俺の眠りをじゃますんな・・・・。
もう少し寝る・・・・・。
ぼんやりと意識を浮上させつつ、寝返りを打つ。
その時はっと気づいた。
ここ、どこだ!?
地面に手をつき、勢いよく体を起こしつつ目を開ける。
「っ・・・・・」
薄闇の中、目の前には草原があった。
またもや大草原。
残念ながら見間違えてはいない。
見渡す限りの草、草、草。
そろそろ明け方に近い時間帯のようで、あたりはしっとりと気持ちよい空気が漂っている。
信じられなかった。
いや、信じたくもなかった。
しばし呆然と草原を見つめた後、男は空を見上げる。
今度は月が2つあった。