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異世界流浪の料理人  作者: 開けドア
男の日常
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プロローグ  一日の終わり

年の瀬もあと数日にせまった深夜。

入居時には新築物件だったアパートも、そこそこくたびれた姿をさらしていた。

薄汚れた壁の脇にスクーターを寄せ、エンジンを切る。

冬独特の何とも言えない静けさがあたりを包んだ。


疲れた・・・・・


ようやく今日が終われる・・・・・



男はのろのろとメットを取りつつ、夜空を見上げた。

残念ながらたいして星は見えないが、しばらくボーっと眺めてみる。

一つため息を吐いて、手袋をダウンジャケットのポケットに突っ込んだ。


おもむろに手首にひっかけたコンビニの袋から1本取り出す。

本日のご褒美、缶ビール。

キンキンに冷えている。



プシュッ!



スクーターのシートに座ったまま、勢いよく缶をあおった。



っあー。

旨い。



一気に半分ほど飲んでしまう。

この一杯の贅沢、部屋に戻るまでなんて待てなかった。

エンジンも切ったし、もう我慢はいらないだろう。

心置きなく味わった。


ちなみに、スクーターでの通勤は終電で帰ることなど叶わぬ男にとって都合がいい。

公共交通機関に比べ、通勤時間もよほど短くて済んだ。

しかしその分、仕事終わったからといって帰るまでは気が抜けない。

事故ったらシャレならないからだ。


「無事に帰宅するまでがお仕事です。」

数年前にタイヤがパンクした経験から、特にそんな気がしている。



いやあの時はつらかったなー。

眠いし寒いし、押して帰るにも距離あるし、坂あるし・・・・・



深夜、24時間の会員制ロードサービスのセンターに電話したことを思い出す。

疲れと眠気が襲うふきっさらしの中、助けを待ち続けるのは本当に辛かった。

スクーターと共に自宅まで送ってもらうことで事なきを得たが、もう2度と経験したくない。

さっそうと助けに現れたおにーさんは、まさにヒーローだった。



人を助けて、感謝されるヒーローか・・・・・。

男としてはちょっと憧れる立ち位置かもしれない。

まあ俺はヒーローより料理人の方が性に合ってるよな・・・・・



つらつらと益もないとを考えつつ、月のない夜空をみながら残りの苦みをしみじみと味わった。



今日も旨かった。

お疲れさん。

さあ部屋に帰るか。



持っているコンビニの袋に、ビールの空き缶を無造作に突っ込んだ。

原付から降り、スタンドを立て、倒れないようしっかり停める。

座面のメットインボックスからしわしわになった紙袋も取り出し、かわりにメットをしまった。


長い一日の終わり。

三十路をとうに超えた男の体は、ほんの少し動くだけでも重かった。



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