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成瀬君は何者?

 成瀬は狛彦と狛丸が見えているようだ。みやびはもう一度聞き返してみる。


「成瀬君。この犬達が見えるの?」


「え? 小さい犬だけど見えてるよ。可愛い子犬達だね」


 成瀬は屈むと狛彦と狛丸の頭をよしよしと撫でている。狛彦と狛丸は嬉しそうに目を細めていた。


「つかぬことを聞くけれど、成瀬君は何かふよふよしている物とか見えたりしない?」


「ふよふよ? 塵とかかな?」


 父に説明しろと顔を向ける。父は肩を竦めた。どういうことだろう? 詩織のようにあやかしが見えるのではないのか?


――八雲も見えるのかな? 一応神使だし。


 見えたところで「UMAかな?」と言いそうだ。


「稽古を始めていいかな?」


 成瀬は狛彦と狛丸をひとしきりもふった後、満足そうな笑顔を浮かべて、居合いの稽古をしようと誘いをかける。


「あ、うん」


 父の監視付きで刀の抜刀から、いろいろな動作を丁寧に教えてくれる。みやびは半日かけて簡単な型を覚えることができた。


「来週も教えてくれる?」


 できれば全部の型を覚えたいみやびだ。成瀬は頷くと今日持ってきた女性用の刀を預ける。来週ももちろん父の監視付きの元、この屋上で稽古をつけてくれると約束して帰って行った。



◇◇◇


 成瀬が帰った後で父を問い詰める。


「パパ。どういうこと? 成瀬君は狛彦と狛丸は見えるのに、あやかしは見たことがなさそうなんだけど?」


「ああ。確かに変だな。神獣は見えて付喪神やあやかしは見えてなさそうだな」


 父も成瀬のことが分からないらしい。神様は何でも知っていると思っていたが、万能ではないのか?


 う~んと父娘が悩んでいると、母が仕事から帰ってきた。日曜日でも休みがないとは経営者は大変だ。母を労うためお茶を淹れる準備をしていると、父と母の会話が聞こえてくる。


「マンションの住人に聞いたのだけど、この界隈に最近大きな影みたいなものがうろついているらしいの」


「そうか。調べてみるか。みやび出番だぞ」


 お茶を母の元に持っていくと、父にぽんと肩を叩かれる。


「え?」



 住んでいる住人の憂いを晴らすのも土地神の務めだと父に教えられた。


 だが――。


「これはムリ!」


 うろついていた大きな影とはムカデの付喪神だった。しかも体長三メートルはある。八雲に作ってもらった刀を携えて夜の街に父と出かけてきたみやびだが、ムカデを見た途端、ぞっとした。


「頑張れ! 今日成瀬に習った居合いを思い出すんだ」


 父は高い所から優雅に観覧している。みやびの手助けをする気はなさそうだ。ムカデの急所は心臓と思われがちだが、大抵どの生物もそうなように頭を狙えと父は簡単に言う。最も普通のムカデは頭をつぶしても体がしばらく動くのだ。全体を潰さないと完全には退治できない。


 小学生の頃、ムカデに刺されたことがあるみやびはムカデが苦手だった。


「パパ! 代わって!」


「ここの土地神はお前だ。お前が守らないとダメだろう?」


 胡坐をかいた膝に頬杖を付いて、にやにやしている父を張り倒してやりたいと思ったみやびだ。


「姫神様、我らが結界を張ります!」


「我らが押さえているうちに彼奴を倒すでごじゃりまする!」


 狛彦と狛丸はムカデに突進していくと、大きな狛犬の姿に変わる。顔がいかつい。いかつい顔をした犬達が本来の狛犬の姿なのだ。


 ムカデの左右につくと狛彦と狛丸の体から稲妻のような光が走り、ムカデの周りに円を描く。


「あれが狛犬の結界だ。今のうちにあいつの頭を斬れ」


 簡単に言ってくれる。だが、みやびがムカデの頭を落とさないと、狛彦と狛丸が体を張ってくれたのが無駄になってしまう。


「やってやろうじゃない!」


 助走をつけて地面を蹴る。父との特訓で飛躍的に上がったみやびの身体能力は高い。ムカデの頭付近まで跳んだみやびがムカデに迫る。成瀬に習ったように刀を抜刀するとムカデの頭を袈裟切りした。ムカデの頭は関節から離れ断末魔を上げて、体ごと消え去った。


「え! 消えた?」


 みやびは地面に着地すると刀を鞘に収める。


「お見事! いやあ。よくやった!」


 いつの間にか観覧していた場所からみやびのところに移動してきた父が頭を撫でる。


「どういうこと? ムカデは頭をつぶしてもしばらくは体がうねうね動くんじゃなかった?」


「神剣の力だ。あやかしや付喪神は神器に触れると消滅するんだ」


 あのお蛇様はいい仕事をしてくれた。この刀はみやびの手によく馴染んで使いやすい。


「姫神様、お疲れ様でした!」


「お見事でごじゃりまする!」


 いかつい顔をした狛犬達がどかどかと走ってくる。


「ストップ! 飛びつくなら普段の可愛い姿に戻って」


 ぽんと可愛いポメラニアンの姿に戻るとてちてちとみやびの元に戻ってくる。戻ってきた彼らを労うように懐に抱く。


――このもふもふが堪らない!


「姫神様はこの姿がお好きですか?」


「小さい方がお好みでごじゃりますか?」


 そんなことは決まっている。


「もふもふが正義なの!」

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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