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この物語はフィクションです。

実際の日本神話とは異なります。

 滝つぼから現れたのは巨大な白い蛇だった。みやびは好んで飼おうとは思わないが、爬虫類が苦手ではない。だが、目の前に現れた蛇は巨大すぎる。滝の上に頭が出ているということは体長三十メートルを優に超えているだろう。


「ゆ、UMA?」


 恐怖から我を取り戻し、絞り出した最初の言葉がそれだった。


「ある意味当たっている。八雲は元怪物だからな」


 おかしそうに笑いながら父が言う。みやびはその言葉を聞き逃さなかった。


「怪物!? この巨大な大蛇が! 納得!」


「納得するのかよ。今は違うぞ。こいつは俺の眷属だから神使だ」


 足元にいる狛彦と狛丸を見てから、再び八雲を見上げる。神使というからには神獣のはずだが、狛犬と蛇では差が大きすぎる。確かに白蛇は神の使いだというが、目の前の八雲は怪物と言われた方がまだ納得できた。スサノオノミコトに縁のある怪物と言えば、あれしか思い出せないみやびだ。


「昔は怪物だったと仰いましたが、まさかヤマタノオロチですか?」


「正確にはヤツマガタマノオロチだ。額に勾玉の形をした紋が八つあるだろう?」


 八雲の額を見ると、確かに八つの赤い勾玉の紋が円を描いていた。ヤマタノオロチについては諸説あるが、多くの文献は八頭八尾の怪物だったと記している。神話は奥深いとあらためて思うみやびだった。


 父は八雲と何かを相談しているようだ。八雲は「ヘビ! ヘビ!」と頷いている。


――あれ? 蛇って発声器官がないから鳴かないよね。シャーとか出る音は尾だし。


 八雲は元怪物だが今は神使だ。人間の言葉を理解していたとしても、「ヘビ」と鳴いていたとしても不思議ではないのだろう。深く考えるのをやめたみやびだった。



 八雲と相談を終えた父は再び元いた山頂へと歩き出す。とりあえず今日のところは滝に飛び込まずにすみそうだ。


「父よ」


「何だ? 娘よ。パパで構わないぞ。かなでもそう呼んでいる」


「ではパパ。八雲と何を話していたのですか?」


 神様が父の場合、なんと呼べばいいのか迷っていたみやびはとりあえず「父」と呼んだが、父は「パパ」でいいと言う。そういえば、かなでも父母のことを「パパ。ママ」と呼んでいた。今までそう呼べる存在がいなかったみやびは何やらくすぐったい気持ちになる。同時に嬉しくもあった。


「お前の武器を作ってもらうように頼んだ」


「はい?」


――あのお蛇様は鍛冶屋だったのか。そういえば退治された時に尾から剣が出てきたっていうエピソードがあったな。


「あの辺りには上質な玉鋼の材料があってな。八雲は体内で武器を精製することができるんだ」


「つまり蛇でありながらチートな鍛冶屋でもあると?」


 ヤマタノオロチの尾から出てきた剣はアマテラスオオミカミに献上し、現在は神器として祀られている。


「まあ、現代風に説明するとそうなるな」


 次に八雲の元に行く時はみやびの武器ができあがっているそうだ。しかし……。


――なぜ武器が必要なのかな?


◇◇◇


 山頂の鳥居から家に帰宅したみやびは父からこれからのことを聞かされる。


「これからお前にはこの辺り一帯の土地神をやってもらう。だが、この辺りは魔の巣窟だ。中には危険なあやかしもいる。対抗するには神剣が必要だ」


 八雲が体内で精製しているのは神剣だという。特訓は欠かさず、土地神としてこの一帯を守る。それがみやびの使命だと父は語る。


「ちょっと待ってください。学校は?」


「何だ。勉強がしたいのか? 近くに富裕層の子供が通う学校があるから編入手続きをしてやる。学業のかたわら土地神をやればいい」


 富裕層の子供が通うような学校に、みやびのような庶民の鏡みたいな子供が馴染めるわけがない。


「今の学校がいいんですけど」


 通っていた高校は進学校だ。国立大学に進学するには有利だった。


「通学時間が勿体ない」


 みやびの希望はバッサリと切られた。父の言うとおり富裕層の子供が通う高等部に編入することになるだろう。今まで高校に通うために支給されていた奨学金は父が返してくれるそうだ。


――猛勉強して入れた高校だったのに! さらば栄光の我が母校よ!


◇◇◇


 毎日、山で特訓をしているうちに飛躍的にみやびの身体能力は上がっていった。


「あやかしの中には鬼がいる。鬼は人間の何十倍いや何百倍も力が強い」と丸太を担がされ、筋力もついた。


「丸太なんて普通人間が担げるものですか?」


 樹齢千年は越えていそうな丸太を担ぎながら、いつもどおり岩の上に座る父に尋ねる。


「軽いものなら担げる人間もいるだろうな。だが、お前は元々神だ。既に神の力に目覚め始めている。身体能力や筋力が上がっているのはそのせいだろう」


「私は何の神様だったんですか?」


 父はしばらく考えると意を決したように話し始めた。


「お前は闘神。闘いの神だ。ちなみに神話には名が出てこない神だ」


――闘いの神。なんかかっこいいかも?


「黄泉比良坂を守る最強の闘神ハシハナヒメノミコト。それがお前だ」


 黄泉の国に行ってからのスサノオノミコトの暮らしは謎に包まれている。かなでとみやびは双子の姫神で黄泉の国で産まれた。


 ちなみにかなではオオクニヌシノミコトと結婚したスセリヒメノミコトだそうだ。


「そういえばお前とともに黄泉平坂を守っていたハシツキヒコノミコトも人間に転化したと聞いたが、まだ見つかったという情報がないな」


 ハシツキヒコノミコトは父の子供ではない。黄泉の鬼神の子供で、みやびが人間に転化するのであれば自分も転化するとついてきたそうだ。


「ハシツキヒコはお前の夫だったからな。妻一人で人間に転化させるのは心配だったんだろうな」


――なんですと!? 私の夫?

ヤツマガタマノオロチは造語です。皆さん信じないように!


ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)


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