拾伍
週三回ほど更新していきたいと思います。
母の罰とはウカノミタマノオオカミにお礼をすることだった。緊急事態とはいえ、迷惑をかけたのだから、しっかり謝罪とお礼をしてくるようにと念を押されたのだ。
鬼を倒した翌々日、朝早くにウカノミタマノオオカミを訪ねてあらためてお礼を言うと、ウカノミタマノオオカミは少し思案し、二人にこう告げた。
「礼ならば態度で示してもらおうか?」
「「え?」」
そんなわけで夏休みの間、毎日観光客で賑わう伏見稲荷大社でアルバイトをすることになった。達筆なかなでは御朱印を書くための授与所で、みやびはお守りなどを扱っている社務所でそれぞれ働くことに。もちろんアルバイト代はもらえるらしい。
そして、詩織もみやびと同じ社務所でアルバイトをすることになった。千本鳥居と呼ばれる朱の鳥居が連なる道を登っていくと奥宮がある。その付近にある社務所に二人は配置された。夏休みの間だけでも、ウカノミタマノオオカミの守護があれば安全だと判断してのことだ。
「ようこそお参りくださいました」
大量にお守りを購入してくれた外国からの観光客の男性に手渡ししながら、みやびは頭を下げる。
「アリガト。ミコサンカワイイネ」
にっと笑って手を振ってくれた男性を笑顔で見送る。
白小袖に緋袴。伝統的な巫女装束は夏用とはいえ暑い。後ろに扇風機が置かれているが、京都の夏は暑いのだ。
「あ~暑い!」
昼の休憩になり、ウカノミタマノオオカミの神域にきたみやびはごろんと横になる。神と神使であるキツネ以外は入れない領域なのだが、元々神であるみやびはあっさりと入ることができた。
「京の都は盆地で暑いからな。って! なぜ当然のように神域に入ってきて、くつろいでおるのだ?」
ウカノミタマノオオカミはごろごろしているみやびの横で仁王立ちをしている。
「ここは涼しくていいね。ウカちゃん」
「わたくしの話を聞いておるのか?」
あまりに心地が良いのでうとうとしかけたみやびだったが、ウカノミタマノオオカミのそばに狐太郎と狐次郎がいないことに気が付く。あわよくば、彼らをもふろうと思っていたからだ。
「狐太郎と狐次郎は?」
「あやつらは七城邸に遣わしておる。わたくしの依り代を守護しておるのだ」
昼間は伏見稲荷大社でアルバイトをしているので問題ないが、夜は家に帰る詩織を守るためにウカノミタマノオオカミが七城邸に稲荷社を設置したのだ。小さな社だが、ウカノミタマノオオカミは神格が高いので、七城邸全体を結界が覆っている。鬼といえども簡単には入り込めない。
「何から何までお世話になるね。ありがとうウカちゃん。姉妹っていいね」
みやびの生い立ちを父から聞いたウカノミタマノオオカミはその言葉にはっとする。つい最近まで親と離れて暮らしていたのだ。みやびは家族というものにあこがれていたのかもしれないと思い至る。
神といえども父であるスサノオは家族を大切にしている。母は違えども神であった頃からかなでとみやびはウカノミタマノオオカミと仲が良かった。
「腹違いではあるが、姉妹だからな。本当に困った時は頼ってもよい」
ウカノミタマノオオカミがみやびに目を向けると、彼女はすやすやと寝息を立てていた。
「こらっ! もうすぐ休憩は終わりであろう? 起きろ!」
◇◇◇
アルバイトが終わると、かなでとみやびは詩織を家まで送っていく。伏見稲荷大社と七城邸の道のりは二人で詩織を守るためだ。
「ウカノミタマノオオカミ様が夢枕に立った時は驚いたな。神様って本当にいるのね」
そう語る詩織の目の前にも神がいるのだが、その辺りはウカノミタマノオオカミがぼかしてくれたらしい。元々見える体質の詩織は狐太郎と狐次郎の姿も見えている。しかも彼らの言葉も聞こえるとのことだ。狛達の言葉は聞こえないので、この辺りは神格の違いなのかとみやびは思った。
「みやびとかなでちゃんはどこに泊まっているの?」とアルバイトの初日に聞かれたので、近くに別邸があるとごまかしておいた。実際は伏見稲荷大社と都内のタワーマンションをつなぐ鳥居を使ってアルバイトに来ている。
「二人ともいつもありがとう。お礼にお茶を淹れるから家に上がって」
七城邸に到着すると、詩織に誘われる。まだ夕食前なのでありがたくお茶をいただいていくことにした。
「詩織、帰ってきたか? 今日も主神の元での務めご苦労であった」
詩織が稲荷社の近くにくると、狐太郎と狐次郎が駆け寄ってきた。
「あ! もふもふ見つけた!」
みやびは彼らをみとめるとにやりと笑み、手をわきわきさせた。狐太郎と狐次郎にみやびの魔の手が迫る。
「おまえは黄泉神! なぜここに!?」
「詩織を送ってきたんだ。とりあえずもふらせて!」
逃げようとした狐太郎と狐次郎だが、みやびが彼らを捕らえる方が早かった。
「寄るな! 触るな!」
キツネたちの悲鳴が虚しく響く。残念ながら彼らの声は普通の人間には聞こえない。
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