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姫神様はもふもふ達とあやかし退治をします~お社はタワーマンションの屋上です~  作者: 雪野みゆ


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拾参

やっと更新できました。

 茶会の日の夜、みやびはホテルからこっそりと抜け出し、七城邸に向かおうと思ったのだが、ホテルのロビーでかなでが待ち構えていた。


「かなで。どうして?」


「私達は双子でしょう。何となくみやびの考えは分かるの。七城邸に行くんでしょう? 私も行くわ」


 先日、オオクニヌシにかなでを守ると約束したみやびは躊躇う。かなではオオクニヌシと同じ縁結びの神のはずだ。闘神であるみやびと違い、戦う神ではない。


「でも……かなでを危険な目に遭わせるわけにはいかない」


「これでも元神よ。狛達の代わりに結界くらいは張れるわ」


 みやびはまだ完全に神としての力に目覚めているわけではない。ゆえに現在の戦闘スタイルは、狛達と連携して、あやかし退治をするというものだ。


 今回は狛彦と狛丸は連れてきていない。神使である彼らは基本、自分たちの主神が不在の時、社を守る義務があるからだ。狛達の代わりにかなでが結界を張ってくれれば、いざという時に心強くはある。だが、七城邸に潜んでいるあやかしはおそらく大物だ。


 なおも言い募ろうとするみやびを、かなでは強引に引っ張っていく。


「時間が勿体ないから、行くわよ」


 双子の姉は、可憐な見た目とは裏腹に父に似て豪快だった。


◇◇◇


 七城邸に近づくにつれ、あやかしの気配が濃くなっていく。今までみやびが対峙してきたあやかしより強い気配だ。


「この気配は……もしかして」


 かなでは漂ってくるあやかしの気配に心当たりがあるようだ。


 急いで七城邸の門に向かうと、詩織を守っている付喪神の一柱が飛び出してきた。頭と手足は狸で胴体は茶釜の付喪神だ。付喪神はみやびとかなでの姿をみとめると、詩織を助けてくれと涙目で訴える。


 一刻を争うため、不法侵入を承知のうえで、みやびは塀を飛び越える。飛んでいる最中に目にしたものは、信じられない光景だった。


 体長二メートルほどある鬼が詩織を大きな手で掴んでいた。他の付喪神たちは、詩織を鬼から離そうと必死に奮闘している。


 みやびは塀から近くの木に飛び移り、刀を呼び出す。抜刀の態勢を取りつつ、着地した枝を蹴り、詩織を掴んでいる鬼めがけて飛ぶ。


「あんたたち、どきなさい!」


 鬼と闘っている付喪神たちに、鬼から離れるよう促す。付喪神たちはみやびの姿をみとめると、助けがきたとうるうるした瞳を向けつつ、急いで鬼から離れる。


 みやびは付喪神たちが鬼から離れたのを確認すると、詩織を掴んでいる鬼の腕へ刀を一気に振り切る。鬼の腕は斬り落とされ、詩織とともに宙に舞う。腕を斬り落とされた鬼は凄まじい咆哮をあげる。


 投げ出された腕を追って、みやびは詩織を助けようとするが、届かない。鬼の腕ごと地面に叩きつけられる前に、詩織の体を金色の光が覆う。


「間に合った!」


 かなでと茶釜の付喪神がこちらに駆けつけてきた。金色の光はかなでの結界のようだ。


「かなで! ありがとう!」


 みやびは宙に浮いている詩織を抱きとめる。詩織は気絶していた。


「よこせ……その娘……」


 鬼がこちらに迫ってきている。だが、足取りはおぼつかない。みやびが腕を斬ったので、ダメージがあるのだろう。


「みやび! 詩織ちゃんを連れてここから離れるわよ!」


「分かった!」


 みやびは詩織を背負い、かなでと付喪神たちとともに七城邸を離れた。


◇◇◇


 すでに終電を迎えた京阪線隣の道路は静まり返っている。にもかかわらず、街灯に照らされた民家の壁を三つの影が走っていた。正確には二つの影が走り、その一つにもう一つの影が重なる形だ。


「かなで! あの鬼を置き去りにして大丈夫かな?」


「あの鬼は詩織ちゃんが狙いなのよ。必ず追いかけてくる」


「ところで、どこに向かってるの?」


「伏見稲荷大社よ。鬼は神域には入ってこられない」


 二人が走っているのは、京阪選に沿った伏見稲荷大社に向かう道だ。詩織の家は伏見にあるので、伏見稲荷大社が近い。


 伏見稲荷大社は千本鳥居で有名な観光スポットだ。主神はウカノミタマノオオカミ。近年、外国からの観光客で賑わっている。


 昼間は観光客で大賑わいだが、真夜中はさすがに人ひとりいない。


「ウカちゃん、いる? いるなら出てきて!」

 

 かなでは伏見稲荷大社の鳥居をくぐると、大声で呼びかけた。


「ウカちゃん?」


「ここの主神ウカノミタマノオオカミよ。私たちとは腹違いの姉妹神なの」


 みやびは神の系譜を思い出す。ウカノミタマノオオカミは父とカムオオイチヒメの間に生まれた神だ。母は違うが、かなでとみやびの姉妹にあたる。


「その声はスセリか? 相変わらず騒がしい」


 目の前に少し変わった巫女のような着物を着て、七色に光る羽衣をつけた美しい女性がふわっと現れる。女性が地面に着地すると、シャランと澄んだ音がした。長い銀髪のサイドにつけた金色をした水琴鈴すいきんりんの髪飾りの音だ。耳に心地良く癒される音色。


「ウカちゃん、久しぶり! ちょっと助けてほしいの」


「突然、訪ねてきて助けてほしいとは……厄介ごとではあるまいな? ん? スセリにそっくりなそちらの娘は?」


 みやびは顔を向けたウカノミタマノオオカミにお辞儀をする。


「みやびよ。ハシハナヒメノミコトが人間に転化した姿よ」


「ハシハナか。其方そなたが人間に転化するとはな。黄泉は平和になったのか?」

 

 ウカノミタマノオオカミは形の良い桜色の唇に笑みを浮かべる。


「すみませんが、私は神様時代のことは覚えていないのです、ウカちゃん」


「ウカちゃん言うな!」


 今度は頬を膨らませる。わりと可愛い神様だとみやびは思った。


「フルネームは長くて呼びづらいので。じゃあウカノカミ様? ウカ姫?」


「……腹違いとはいえ、姉妹だ。ウカちゃんでよい」


 ウカちゃんで妥協したようだ。


 ウカノミタマノオオカミは豊穣の女神で神格が高い。稲荷神なので、もふもふのけも耳を想像していたみやびは少しがっかりした。みやびは勘違いしているのだが、稲荷神=キツネではない。キツネは稲荷神の眷属なのだ。


 かなではかいつまんで、ウカノミタマノオオカミに経緯を話す。ウカノミタマノオオカミは真剣に耳を傾けてくれる。そして、頷く。


「承知した。ハシハナが鬼を倒す間、その詩織という娘を預かればよいのだな?」


 みやびは詩織を背中から降ろすと、静かに横たえる。


「詩織をよろしく、ウカちゃん。大切な友達なんだ」


「待て。あれたちを連れていくがよい。良いサポート役にはなろう」


 ウカノミタマノオオカミが指差した方向を見ると、白いキツネが二匹佇んでいた。二匹のキツネの毛並みは狛たちに負けず劣らず、白くてもふもふだ。


「か! 可愛い! もふもふしたい!」


「……それは後にしておけ。見よ。鬼が来たようだ」


 鳥居の向こう側を見ると、先ほどの鬼がきょろきょろと辺りを見回している。月明りで鬼の金色の瞳が怪しく光った。切り落としたはずの腕は再生している。


「腕が生えてる!」


「あれは黄泉の鬼だな。なにゆえ、黄泉の国からやってこられたのか?」


「黄泉の門が開きかけているのよ」


 鬼の腕が再生していることに驚いているみやびとは別に、かなでとウカノミタマノオオカミは鬼の素性が気になっているようだ。


「真か? 黄泉の門は千年以上昔に完全に封印されたはず」


「詳しい話は後でしましょう。行くわよ! みやび」


 鳥居に向かって駆け出すかなでの後に続くみやび。その後をキツネたちが追う。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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