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一日空いてしまいました。

 空港へかなでを迎えに行くのに、結局オオクニヌシも強引についてきた。今日はいつもの高級車ではなく、父の運転するスポーツカーだ。スポーツカーとはいえ、跳ね馬がついた赤い車は高い。


「パパ。スピード出しすぎじゃない?」


 そろそろ通勤ラッシュになる直前で道路は混雑し始めている。しかし、それをものともせず車を巧みに避けながら、運転する父だ。一目で高級車と分かる車に周りが避けていると言った方が正しいのかもしれない。


 後部座席に座るオオクニヌシは楽しいのか「ひゃっはー!」とか騒いでいる。


「みやび。そいつ簀巻き(すまき)にして、外に放り出してもいいぞ」


「いや。死ぬから」


 オオクニヌシは神体のため、霊力のない人間には見えない。おそらく放り出されても死なないはずだ。たぶん……。


 父のとんでも運転のおかげで空港に早く辿り着くことができた。国際線のターミナルで時間をつぶす。ターミナルにはなぜか西園家専用の待合室があった。自家用ジェットで到着するかなでをそこで待つ。ちなみに自家用ジェットを格納する専用倉庫も空港内にあるそうだ。


「どれだけVIP待遇なの?」


「空港を改装する時に西園グループも出資しているからな。特別に作らせた」


 インテリアは外国から輸入した高価なそれだと分かる。落ち着く色合いの絨毯にガラス張りのローテーブル。ソファはふかふかで座り心地がいい。


 オオクニヌシは窓から見える飛行機を見てはしゃいでいる。


「人間はすごいな。あんな鉄の塊が空を飛べるようにしてしまうのだからな。あ! また飛んだ!」


「あいつうるさいから、簀巻きにして滑走路に転がしてくるか」


 窓に張り付いて飛行機に夢中なオオクニヌシを父が指差す。


「いや。死ぬから」


 いかに神体でも目の前に飛行機が迫ってきたら、恐怖するだろう。みやびは考えただけでぞっとした。それにしても父はオオクニヌシに対して辛辣だ。図書室で借りた神の系譜を思い浮かべた。いかに娘を奪われたといっても、オオクニヌシはスサノオの血を引いている。子孫が可愛くはないのだろうか?



 そろそろ西園家の自家用ジェットが到着する時間なので、専用ロビーに向かう。ロビーにはレッドカーペットが敷かれていた。著名人が到着した時に使われるものだ。


 しばらくすると、かなでがレッドカーペットの上を著名人のように悠々と歩いてくる。ロープが張られ、周りに人がいればどこの著名人だと思うだろう。


 かなではみやび達に気づくと手を振り、少し小走りになる。


「パパ! みやび! お迎えありがとう……って! えっ! オオクニヌシ!? 何でいるの?」


 オオクニヌシの姿をみとめると、かなでは顔を顰める。嫌いなものを見るような目をしていた。


「君を迎えにきたのだ。愛しの妻よ」


 オオクニヌシは「さあ、私の胸に飛び込んでおいで」と両手を広げている。


「言っておくけど! 人間に転化している間はあなたの妻じゃないから!」


「人間に転化しても妻に変わりはない!」


 ああだこうだと言い争いをしているかなでとオオクニヌシを見ると、まるで夫婦喧嘩のようだとみやびは思った。実際、夫婦なのだが。


「とにかく! あなたとは一切関わる気はないから!」


 かなではぷいと背を向ける。


「神様の時は一応夫婦だったんだよね? いいの?」


 よよよと泣き崩れるオオクニヌシを置いて、さっさと立ち去ろうとするかなでを引き留める。父に至っては「ざまあみろ」とオオクニヌシを蹴っている。ひどい。


「いいのよ。だいたいそいつはね。神代の頃、国のためとか言って各地に妻を持っていたのよ!」


 いわゆる地方妻というやつだ。


「うっわ! サイテー!」


「でしょう?」


 神代の頃、神々が一夫多妻だったのは神話で読んだが、現代に育ったみやびには信じられない話だ。


「結婚する時は『君一人を大切にする』と言っておきながら、結婚した途端にあちこちに側妻を作り出したのよ」


「この際だ。こんなクズ夫とは離婚しろ」


 自身も一夫多妻だった父は自分のことは棚に上げて、オオクニヌシを睥睨する。


――パパも他人のことは言えないんじゃないかな?


「そうね。やりたいことが山ほどあるし、今のうちに離婚しましょうか?」


「そんな! スセリ、私を捨てるのか!?」


 芝居がかったようにオオクニヌシはかなでに手を伸ばす。こんなところで修羅場に立ち会うとは思っていなかったみやびはいたたまれなくなる。気の毒なものでも見るように、オオクニヌシに目をやると床に伏して泣いていた。


「そんなことより、少しお茶をしていきましょう。美味しいカフェがあるのよ」


 かなではみやびの手を引っ張って、空港内にあるカフェに連れて行こうとする。


「あれ、放っておいていいの?」


「いいの! そのうち勝手に浮上するわよ」


 オオクニヌシを放ってとっととカフェに向かう三人だった。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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