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彼がベッドへ入ってくる。
俺は彼を腕の中に抱きしめる。
腕の中で彼がじっとしていて、肩が微かに上下するだけの呼吸で、俺の腕の中にすっぽりと収まっているのを、静かに見守る。
彼が俺の背中に手をそっと伸ばす。
それを合図に、俺は彼にキスをする。
何度も。
角度変えて。
啄ばむように。
そして、少し顔を離して
「好きだよ」と囁く。
彼は恥ずかしがって顔をそらすので、次は首筋にキスをする。
首筋から胸元へ。そしてさらに腹部へ。
徐々にキスを落としながら、「好きだ。愛してる」と囁き続ける。
彼が俺の顔に両手を添えて、自分の唇へと誘導する。
俺は体を起こしてそれに応え、さっきよりは深いキスをする。
絡み合うだけ。
熱を交わし合うようなキスはしない。
「可愛い」
顔を離して、にっこりと微笑む。
彼は、俺の背中に回していた手に力を込めて抱き寄せると、胸に顔をうずめてしまう。
「恥ずかしがらないで」
クスリと笑って囁くと、彼が俺の背中をつねる。
「痛いよ…?」
いたずらを責めるように彼の耳に口を寄せ、舌を這わせて甘噛みする。そこからまたキス。
耳元から首、肩、腕。隙間なく幾度も唇で覆っていく。
彼が少し呼吸を乱して、それを隠そうと手の甲を口元に持っていく。
「触っていい…?」
彼が俺から目線をずらしたまま頷く。
俺はそれを確認して、一呼吸してから、そっと彼の部分へ手を伸ばす。
彼の華奢な身体。
大人の男のそのものとしては、あまりに幼い。
片手でそれを包んで、握る。
芯を感じる程度にしかない反応に、俺はやや落胆する。
ゆるゆると撫でさすりながら、身体へのキスを再開する。
腕から胸、胸から腹部。更にその下へ。
彼は慌てた様子で俺の額に触れ、顔を上げた俺に、首を振って拒絶を示した。
「でも、これじゃ…」
彼はもう一度首を横に振って、静かに微笑んだ。
ああ…その微笑み。
幾度も幾度も。
彼を想ったのは、その笑みだった。
日暮れ時の庭先で。
校舎の影の中庭で。
土砂降りの夜の公園で。
彼の笑みの静けさに、俺は飲み込み切れない想いを募らせるしかなかった。
長い間、その微笑みの欠片すらも愛させてくれないこの人のことが、俺は大嫌いだった。