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グリーン・ウィッチ その2

 

「あーー、やっと終わった…」


 解読開始から10分程過ぎた頃にようやく暗号の全文が読めるようになった。


「お疲れ様、それで解読した文にはなんて書いてあるの?」


「あーと、最初に指示らしき文が書いてある」


『暗号を解きし者よ。 道を塞ぎし顔石を動かしたければ歌え。 察すれば顔石はその場から起き上がるであろう』


「歌えって? 何を?」


「たぶん文の続きに書かれているのがその歌う歌の歌詞だと思う」


 オールは解読した文が書かれた紙をユスノア達に見せる。


「これって、『母なる祈り』?」


「ああ、やっぱりその曲だよなぁ…」


「これをあの石に向かって歌えばいいの?」


「たぶん……」


「よし! そう言うことならわたしが歌います!」


 自信満々で石に近寄るユスノアはちょっと石から距離を開けて立ち止まり、2、3呼吸を繰り返し少し発声をしてから歌い始めた。


 ユスノアの歌声は悪くも良くもなく普通な歌声であった。ユスノアが歌い始めて1分経ったが石は一向に動く気配はなかった。


「はぁーー、わたしじゃダメみたいだね。 ちょっと納得いかないけど… ふん! はい、次オール君ねぇ!」


「えっ……」


「ほら、早く!」


 完全に自分の歌で微動だにしなかったことへの当て付けである。


「まいったなぁ、歌は苦手なんだ」


 そう言いつつも発声練習をして歌い始めたオール。その歌声は本人が評価するよりも上手いと思われる歌声であった。しかし、顔石は微動にもしなかった。


「ダメかぁ」


「…上手だったよ」


 背後からネヴィに言われた。


「残るはネヴィお前だけだ お前でもダメだったら、歌が上手いやつを探してこないいけないなぁ」


 まあ、ユスノアまでのタイムリミットがあるからネヴィでダメなら、迂回して別の道で行くかダイアナと直接連絡を取って中に入れてもらうしかないなぁ…


 そしてネヴィの歌唱が始まった。その瞬間俺の耳は驚いた。初めて聞くネヴィの歌声はなんとも綺麗で洗礼された歌声であった。


「ネヴィちゃん……綺麗な声、わたしが歌ったのと違う歌みたい」


 思わずユスノアも口から漏らしていた。


 ネヴィの歌が始まって少し経った時に顔石が揺れ出し目の部分がカッと開いたかと思うと今度は傍から腕が出てきてさらに足まで出てきた。そして短い足で軽快に跳び回りだすと道の前から退けてネヴィの足元まで近づいてくるとその場でまた手足をしまい元の顔石へと戻った。


 ネヴィは歌を最後まで歌い切るとくるりとこちらを向き…


「…行こう」


 と一言言って先へと進みはじめた。


「ネヴィちゃんてめちゃくちゃ歌上手いねぇ……… オール君知ってたの?」


「いや初めて聞いた」


 ネヴィの意外な特技を目の当たりにしてまだ驚きが覚めないままゆっくりと先へと進んだ。


「ねえねえネヴィちゃん。 どこかで歌でも習ってたの?」


「…ん?」


 ユスノアの訪ねに対して首を傾げるネヴィ。


「だって凄く綺麗な歌声だったよ! ねえ! オール君もそう思ったよね!」


「ああ、正直驚いたよ… ネヴィにあんな特技があるなんて」


「…別に …ネヴィは …ただ普通に …歌っただけ …それに …ネヴィは …そんなに …良い声してない …ネヴィよりも …ユスノアの方が …可愛い声 …してる」


 自身の声に対して否定的なネヴィ


「確かにユスノアの声は可愛いかもしれないがネヴィの歌声は綺麗だった… まるで…」


「ん?」


「まるで… えーと、そのあれだあれ」


 上手く言葉が出てこないオール。そんなオールを見てネヴィは小さく微笑んだ。


「…いいよ …無理に言葉を …探さなくても …ネヴィは …なんとなく …わかったから」


「そっか… そうだなぁ」


「うん、そうだね! よーし! 次が最後だよねぇ!」


「ああ、そうだといいけど」


 たぶんダイアナはこの最後の空間には何も手を加えてないはず、何故なら加える必要性がないからだぁ


 通路を進んでいると次なる場所へと続くところに出た。


 その場所はさっきまでいた森とは全く違うように思える場所であった。


「何ここ?」


 3人の視線の先にはただ水面が広がっていた。ユスノアが躊躇してる中オールとネヴィは平然と足を水の中に入れてそのまま進み始めた。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 ユスノアも恐る恐る水面に足を入れると…


「冷たい!」


 ユスノアの漏らしたその言葉にオールは


「ユスノア、これは幻だぁ… だから冷たく感じるが実際は冷たくなんかないし濡れてもいない、ただの錯覚だぁ」


「ここはどう言う場所なの…?」


「ここは森と館の間に造られた空間、俺達は『水面鏡(すいめんきょう)』と呼んでる」


「水面鏡……」


「ユスノアここからは何も考えずにただ真っ直ぐ俺達の後に続いてきてくれ」


「えっうん、わかった」


「…何も考えちゃ …ダメだよ」


「うんわかった……」


 オール君達が言うんだから何かあるんだよねぇ。


 そしてオール達は幻の水面の中を無言のままただ真っ直ぐ進む。幻といえど完成度が高く動く度に水面には波紋が立ち水の中を進む独特な音もし本当にこれが幻なのかと疑うくらいである。


 見渡す限り同じ空間が広がりどれほど進んだかも全然わからない、でも前の2人はどんどん前に進んでいく。錯覚のはずの冷たさのせいでか足先の感覚がよくわからなくなってきた。


 オール君達は何も考えずに進めって言ってたけど、だんだんこの静寂が逆に怖く感じてくる。


 すると背後から雫が水面に滴った時のぽちゃんという音が聞こえ誰かいるのではとすぐさま振り向いたがそこには誰の姿も影もなかった。


 気のせいと思い前に向き直ろうとした瞬間、再び背後から雫の滴る音が聞こえ振り向いたがやはり誰も波紋すら立っていなかった。


「…ユスノア」


 動揺しているユスノアにネヴィが優しく話しかける。


「ネヴィちゃん……」


「…動揺しちゃ …ダメ …ここでは …何も考えずに …進むのが …1番」


「うん、わかってるけど」


「…水面鏡(ここは) …心の動揺 …写出す …空間 …だからネヴィ達を …揺さぶる …ために …水の音 …風 …話し声 …視線 …臭い …動揺を誘うための幻が …いくつも …仕掛けてあるの」


「はぁー、せめてヒューちゃんがいれば安心して進めるのに!」


 ユスノアのその言葉に先頭を歩いていたオールが立ち止まりすぐさま振り向いた。


「ユスノア、いまヒューララのことを頭で想像したか!」


「えっ、うん! だってヒューちゃんがいれば話ししながら」


「ユスノア、それいじょ……」


 オールは言葉を言い終わる前に突然背後に現れた気配に気づき弓を構える動作をしながら振り返るとそこには水面すれすれで浮遊しているヒューララの姿があった。


「まずい……」


「ヒューちゃん? いつの間に出てきてたの?」


 歩寄ろうとしたユスノアをオールが静止するとネヴィに対して…


「ネヴィ、ユスノアを頼む」


「…わかった」


「えっどうしたの…?」


「ユスノア、まず先に言っておくがあれもこの空間が作りだした幻で、そしてあの幻はお前が思い浮かべたものをそのまま投映している」


「もしかしてオール君達が最初に何も考えずに進めって言ったのは…」


「ああ、こうなるからだぁ」


「でも、幻くらいなら大丈夫なんじゃないの? だって要するにヒューちゃんの幻が惑わしてくるってだけじゃないの?」


「…違う …ここでの幻は …その者が …抱いた …心の動揺が投影されたもの」


「つまり、動揺による恐怖心を煽りその者の恐れている者又は動揺による恐怖心から幸福へと逃れようとして親しい者、例えば家族や信頼している仲間など安心感を持てるものなどを思い浮かべさせ、それを幻として出現させられる」


「…そして …出現した幻は」


「その者又は同伴者に襲いかかる」


 風刃(カマイタチ)


 幻のヒューララが本物のヒューララと同じ攻撃を放ってきた。オールは瞬時に躱しネヴィは六面盾でガードする。


「ヒューちゃんと同じ技……」


「例え幻であってもその者と同じ技が使えるってところがまた厄介だよなぁ」


 しかし、よりによって幻とは言ってヒューララと戦うことになるとは……


 突然の事に腰を抜かしてしまったユスノアに対してネヴィが


「…ユスノア …動揺しちゃダメ …あれは幻」


「う、うんわかてっる。 平常心だね、ネヴィちゃん!」


「…うん」


 ネヴィの差し出した手を取りその場に立ち上がるユスノア。


 さて、ユスノアのことはネヴィに任せるとして面倒くさいがヒューララとほぼ同じモノを相手にしないといけない… にしてもダイアナのやつは何て空間を作り出すんだか… 前に俺が来た時も散々な目に遭わされたのを今も覚えてる、まぁ思い出したくもないんだけどなぁ…

 しかし動揺による恐怖か安心かで思い浮かべたものに襲いかかられるとしたら嫌なもんだよなぁ、何せ自身が恐怖するってことはトラウマや何かがあるはずだし、逆に安心させてくれるものが現れるってことは恐怖心を上回るほどのものってこと、つまり単純に言って恐怖心で現れるものよりも強い何てことも言える…


 風刃(カマイタチ)


「おっと!」


 そしてユスノアは恐怖心による動揺をなくすためにヒューララのことを思い浮かべた、けっか戦ったらヤバい相手が出現してしまった…


 オールは攻撃を躱しながら矢を放つ。


 旋風壁(つむじかべ)


 風のガードで弾かれてしまう。


「ダメかぁ」


 幻といえど倒さない限りは攻撃を止めないから困るんだ… 唯一の救いと思うのは同時に複数体で出現しない事だなぁ、そこだけは感謝する……


 風刃・嵐(オオカマイタチ)


「チッ!」


 身体を前方に伏せて攻撃を回避しつつ矢筒から手にした矢を素早く放つオール。だがあっさりとヒューララに躱されてしまう。


 ヒューララは風の精霊… 使う技も風などを利用している… なら、その風を射抜くしかない…

 オールは一時的に矢を射る手を止め、攻撃を回避しつつ自身の魔力を貯めている。さらにその間には他のことにも目を動かしていた。


 一方、オール達が向かっている森緑の魔女館(グリーン・ウィッチ)ではダイアナが自室のスクリーンに映し出されたオール達の現状を尻目にお茶を飲んでいた。


「んーー、暇つぶしに様子を覗いて見たら面白そうなことになってたよ」


 お茶を口に含み右手に持っていたカップをテーブルに置くダイアナ。


「それにしても、オールを呼んだら一緒にネヴィまで来てくれるとはラッキー。 一応ネヴィが居そうな場所に複数手紙を送ってたけど、まさかオールと一緒に来てくれるとは思わなかったな〜… まぁ、呼んで無かったユスノアも一緒なのはこれはこれでありがたいねぇ〜 戦力は多い方がいいし」


 ここで再びカップに手を伸ばすダイアナ。


「おや? どうやら、他の誰かが水面鏡の空間内に入ってきたみたいだ。 さて誰らが来たかな」


 その間、オールはヒューララに矢を放ち続けていたが風でガードされて未だにダメージを与えられずにいた。


 ダメだ、矢は弾かれ少しでも隙を見せればそこを狙われる…


 魔法収納鞄(マジック・バック)内の特殊な矢が入っている方の矢筒に手を伸ばすが途中でやめ普通の矢筒の方を取り出すオール。


 面倒くさいが幻相手に貴重な矢を使っていられない…


 しかし、さっきから探してはいるが()()のありかが未だにつかめん…


 オール達が幻のヒューララと戦っている後方で3人の人影が水面鏡内へと足を進めていた。


「あれぇ〜 まだあるの? いったいいつになったら森緑の魔女館(グリーン・ウィッチ)に辿りつけんのよー!」


 そう言ったのは3人の中で1番背が低い女性。


「まあ、落ち着け。 進む道は恐らく間違ってはいないはずだ」


「え〜、歩き疲れた〜、少し休憩しようよ〜」


「まったく…… ロザンヌ、何か感知したか」


 訪ねた女性の正面で目を瞑り魔力感知をしているロザンヌと呼ばれた女性。


「少々お待ちくださいもう少しで…… ん?」


 ここで少し表情が変わるロザンヌ。


「どうしたの〜?」


「ここから700メートル先に魔力を感知」


「誰のかわかるか」


「これは……」


「ねえねえ、知ってる人なの?」


「ええ存じている方の魔力です」


「ダイアナか?」


「いえ、違います。 この先にいるのはおそらく3人、どの方も知っています」


「ねえねえ、回りくどい言い方はいいから誰がいるのか教えてよ!」


「いるのは、六面盾のネヴィ…」


「なにネヴィが来てるのか…!」


「後は確かシャルエルと同期の精霊使いの()…」


「ユスノアがいるの!?」


「それとシャルエルが好きな男性ですね」


「!? えっそれって!」


「オールのことか」


「ええそうです。 だからと言って1人で先に行かないでくださいね…… って、遅かったか」


 ロザンヌが言い終える前にオール達の方へと駆け出したシャルエルは頬を赤らめていた。


「まったく、シャルエルのやつは…」


 呆れ口調で言う


「では、我々も追いかけますか」


「仕方あるまい、行くぞロザンヌ」


「了解です」


 そして2人もシャルエルの後を追い走り出した…

最近は寒い…

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