紫女と赤男
オール達がクジュリ港で過ごしている頃…
ノース・グラウンド北西部のとある草原の中央に2人の人影が存在した…
「そっちいたぞ!」
「了解!」
片方は紫色の長い髪を後ろでに束ね、自身の背よりも長い片側が槍もう片側が斧の形状になっている武器を軽々と片手で振り回す女。
「おーらよぉ! 今度はそっちいたぞ!」
「了解」
もう片方は炎の如く赤く長髪で両手には2本の片刃剣が握り、正面から突っ込んでくる物体をすれ違いざまに一刀両断にして見せた長身の男。
「おい見たかリュオン、俺の華麗なる剣さばき!」
「ん? なんか言ったかアルフォード?」
リュオンはアルフォードを見る事なく次々とモンスター達を狩っていた。
「いやなんでも……」
リュオンが見てない中で不貞腐れた表情になるアルフォード。
リュオンとアルフォードは無人島での1件の後、たまたま出会したウィーリア、サトラ、ハイドの3人と一緒に依頼を行い3人と別れそのまま西へと進み現在に至っている。
今2人が相手しているのはアグレッシブホーンと言った名前の猪型モンスターであった。
「アルフォード、そっちに3頭行ったぞ」
「はいはい」
向かってきた3頭のアグレッシブホーン軽く狩るアルフォード。
「はぁー疲れた…… おーい! リュオン、少し休憩しようぜぇ」
疲労の色を見せながらアルフォードがリュオンに訴えかけるがリュオンは
「なに言ってんの、まだ目標討伐数の3分の1も猪達を狩ってないでしょ! 気合入れてやんないと今日中には終わんないって感じでしょ」
リュオンは話しながらもアグレッシブホーン達を狩っていく。
「今日中って… 後何頭狩るのかわかっていってんだよなぁ…」
「えっ? なんか言ったか?」
「いえ別に」
仕方なさそうな表情を浮かべつつアルフォードは両手の剣を振っていく。
「リュオン、くれぐれも電撃で焦がすなよ。 質が落ちたら困るからな」
「アルフォードこそ、間違って斬り刻んだりすんじゃないよ」
「わかってる」
アルフォード達はただ単にアグレッシブホーンを狩っている訳ではなく、それなりのやり方で狩をしていた。
アグレッシブホーンは獰猛なモンスターではあるがノース・グラウンドでは食用として食べられることが多く、さらに毛皮は服などに使用され、屈強な2本の牙も様々な物に使用されているためアグレッシブホーンは無駄なところが無いモンスターとしても有名である。
そのため捕獲の際は出来るだけ質の良い状態で捕獲することが多い。そのためアルフォード達は殺さずにアグレッシブホーン達を仕留めていた。
猛進してくるアグレッシブホーンに対してアルフォードは剣の峰を使い傷が付かないようにしている。
「剣技・震動波!」
アルフォードは距離を詰めさせてから傷つけないように刃ではなく峰での斬撃を放ち震動波によって起きる震動でアグレッシブホーンの頭を揺らし軽い脳震盪を起こさせている。それから脳震盪により動きが鈍ったところを剣の峰を使って複数ある急所の1つを突き気絶させていた。
一方リュオンは
「放電花蝶!」
紫陽花を回して発生させた電撃でアグレッシブホーン達が焦げない程度に調整して脳に電撃を与え麻痺状態にしている。脳をショウトさせたことによりアグレッシブホーン達はその場で気絶し少し電撃のせいか身体がピクピクと痙攣しているのがわかる。
このようにして2人は確実にアグレッシブホーンの捕獲数を伸ばしていた。だが…
「なあ! リュオンやっぱり休憩しようぜ!」
「はぁ? 何言ってんの休憩してたら終わんないってさっきから言ってんじゃん」
「だってよ。 本来ならこの依頼は団体向きの依頼なのによ。 俺達は2人だけで狩ってるんだぜ。 しかも朝からぶっ続けで4時間も!」
よくよく周りを見てみると一部に捕獲され暴れないように施されているアグレッシブホーンの山ができていた。
「アルフォードだって組合の掲示板で依頼書見たときにいい鍛錬なるんじゃないかって言ってたろ!」
捕獲を続けながら口を動かすリュオンに対してアルフォードは
「だってまさかこんなに数多いって記載されてなかったろ!」
「今更言っても後の祭りだぁ。 とりあえずは見える範囲が片付くまで粘るしかないぞ」
「マジで言ってんの? 俺元々持久戦型じゃないんだけど…」
「あたしだって持久戦型じゃないよ。 ぐだぐだ言ってないで少しでも早く片付けられるように尽力しなさい!」
「あーー、シーナが居ればやる気が出るって言うのに…」
と空を見上げながらシーナの顔を思い浮かべるアルフォード。
それから小1時間程で狩を終えた2人は草原のど真ん中で横になっていた。
「あーーーー疲れたぁぁーーー…」
「ほんと疲れたわね。 はい水」
リュオンがアルフォードに水の入った大きめの水筒を差し出しそれを受け取ると少し口に含み残りを顔にかけるアルフォード。
「はぁ、生き返る。 ………なあリュオン」
「なんだ」
「今度やる時は何人か呼んでやるのを俺は勧める」
「フフフッ、あたしもそれに賛成。 てか、今更思ったがこの量だと借りてきた馬車の荷台に全部乗り切らなくない…」
チラリと横にある2人が乗ってきた馬車に視線を向けたアルフォードは小さく
「だなぁ…」
と呟いた。
2人が約5時間頑張って捕獲したアグレッシブホーンの数は大小合わせて350頭を超えていた。
「もう少し休んだら、組合に連絡して運ぶの手伝ってもらうか」
「それしかないな……」
草原を横切るように風が吹き始めた。
「シーナ何やってるかな」
「あの馬鹿なら、オールと2人で何かやってるだろ」
その言葉に反応して上体を起こすアルフォードは少々怒り気味に
「なんでシーナの横にはあいつが居るって決まってんだよ! 別々に居るかもしんねぇだろうがぁ!」
「なにムキになってんの? たんなる例え話しだろ」
「例え話しでも、あいつのことを考えるのは嫌だ!」
「あーあ、そうかそうか… それは悪うございました」
それから2人は暫しの休息を取り、アルフォードが草原に残りリュオンが近くの組合へと向かい、組合員と手伝ってくれる冒険者を連れて戻ってきた。
全員で捕獲したアグレッシブホーンの積み込みが終わるとそのまま1番近い町であるオルタへと向かった。
オルタはノース・グラウンド北西部にある町であり、リュオンとアルフォードが度々訪れる町でもある。
組合で捕獲したアグレッシブホーンの数の報告を上げ、その場の報酬を受け取り、その足で滞在している宿屋へと戻った2人は受け取った報酬を広げて均等に分けていた。
「依頼に記載されていた報酬とアグレッシブホーンの売却で得た報酬、それらを合計して2人で分けると… よしこれで半々だなぁ」
「確かに… いやー、きつかったけど予想より多く報酬が貰えたからこれはこれでラッキーってもんだよなぁ」
「それでその報酬の一部を持ってどこに行こうって訳」
今分けたばかりの報酬の一部が入った袋を片手に足早に部屋から出ていこうとするアルフォードに訪ねるリュオン。
「ちょっと酒場に行くだけだよ…」
「そんなこと言ってナンパする気なんじゃないの、さっきだって…」
ちょっと場面は戻り組合の建物内で報酬を受け取って宿屋に戻る前に掲示板に貼り出されている依頼書を見ていると2人の背後から…
「あの〜 ちょっといいですか」
若い女の声に反応して振り返るアルフォード。
「はい、なんですか?」
「あのもしかしてアルフォードさんじゃありませんか?」
「はい、俺がアルフォードですが…… それがなにか?」
困惑気に首を傾げるアルフォードに対して若い女は、
「やっぱり!」
急に声のボリュームを上げ素早くアルフォードに近づきアルフォードの右腕を身体で包むように掴むと女はアルフォードの顔を見つめて喋り出した。
「突然で悪いとは思いますが、これからワタシと一緒にお食事でもいかがですか?」
「はあ? また、急すぎるけど、どうして?」
「だってかの有名なアルフォードさんに出会すなんて滅多にありませんから!」
すると女の言葉を耳にしてその場に居た他の女性達がざわめき出した。
「ねえ、今アルフォードって?」
「うん、ワタシも聞いた聞いた!」
また別の女が
「アルフォードですって」
「あの方がそうなのねぇ」
さらに違う女達が
「こうしちゃいられない」
「ええ、これはチャンスだわ」
そして組合内の建物のその場に居た女達が一斉にアルフォード目掛けて波の如く押し寄せてくる。
その状況にリュオンは巻き添えをくらわないように瞬時にその場から移動する。アルフォードと言えば押し寄せてきた女達の波によって動けないまま波の中心に囚われていた。
「ち、ちょっと落ち着いて!」
周りの女達を落ち着かせようとするアルフォード。それを瞬時に2階へと移動したリュオンが頭に手を当てながら眺めていた。
「やれやれ、またこれか…」
それから数分後…
騒動が一段落したのを見届けてからリュオンが2階からアルフォードの元へと降りてきた。
「おーい、大丈夫かー?」
「これが大丈夫に見えるのか……」
髪も服も少し乱れ俯いた顔は疲れきった表情をしているアルフォードが小声で呟いた。
「あんたはシーナのことが好き好きって言って振り向いてもらえないのに、他の女達からはこんなに好かれるとは、本当可哀想だな」
「それを言うなよ…… それに王都や他の大地だとこんなに寄ってくることはないのに」
「確かにせいぜい数人に声をかけられる程度だが、北の大地では他よりもあんたもあたしも知名度が高いからなぁ」
「1人1人断るのは骨が折れる作業なんだぜ」
俯いていた顔上げてリュオンの顔を見ながら語る。
「あんたは優しいから1人1人ちゃんと断ってるから時間がかかるのよ。 1人1人なんて面倒だから一気に断れば早いのに」
「俺は女性には優しくする性分なんでね」
ニコッと微笑み白い歯を見せながらリュオンへと堂々と話すアルフォード。
「はいはいそうですか… それはいいけどさっさと宿屋に帰ろぜ」
「ですね」
そう言って立ち上がるアルフォードと共に2人は組合の外に出ていった。
だがその道中でもアルフォードは歩く度に女性から呼び止められ、断ればまた呼び止められ、断れば呼び止められ、そんなことを宿屋に着くまでに10数回繰り返した。その度に一緒に同行していたリュオンも足止めをくらい宿屋に着く頃には気怠そうにあくびをかいていた。
そして話しは報酬を持って部屋を出ていことするアルフォードの場面に戻る。
「あれは逆ナンでしょうが! それに俺にはシーナと言う心に決めた女性がいるんだよ!」
「ちょっとした冗談だろ。 そんなムキになんなよ」
ちょっとご機嫌斜め気味のアルフォードに対してリュオンは不敵な笑みを浮かべるように見える。
「で、どこの店にいくんだよ」
「さあーなぁ、適当に空いてる店に入るさ」
「そ…」
「なんだ? 行くなら一緒にいこうぜ」
アルフォードが誘うがリュオンは
「今夜はやめておくよ。 軽く汗を流してから近場の食堂か宿屋で軽く済まして早々に寝ることにする」
「そうか、ならそろそろ行っていいか」
「あー、足止めして悪かったなぁ」
「じゃあ遅くなると思うから用が有れば明日の朝にしてくれ」
「あー、また明日」
「それじゃなぁ」
アルフォードはドアが閉まる直前にそう言って部屋を後にした。部屋に残ったリュオンは自身の荷物から着替えの服を取り出すとそのまま宿屋の浴場へと向かう。
ちょうどリュオンが来たときには混雑している時間帯からずれていたので脱衣所には誰の姿もなかった。それを見てリュオンは
「まあ、元々女性客は少ないからなぁ」
と誰もいない脱衣所で1人呟いていた。
無論脱衣所に誰の姿もないので浴場内にも誰もおらずリュオンは1人でゆったりと湯船に浸かっていた。
「あーー、極楽極楽…」
暫く湯船に浸かっていたリュオンはようやく湯船から上がり浴場内から出るかと思われたがその足は浴場内にある、ある扉へと向かっていた。
「さてと… いきますか」
リュオンはそう言って扉のノブに手をかけると扉を開けてその中へと姿を消した。
久しぶりの投稿