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クジュリ港で その2

 

 組合の中庭は案外広く2階からも多くの冒険者達が手すりにもたれかかりながら今から行われる手合わせを見物していた。


 そして俺達の後に続き中庭に出てきた冒険者達でぐるりと囲われる形で手合わせをする2人が対峙していた。


 ネヴィが六面盾の包みを取ると周りの連中がまたガヤガヤしだした。


 すると、ネヴィの正面に立っていたあの男が喋り出した。


「ほおー、それが噂に聞く六面盾か。 確かに素晴らしい盾だな!」


「………」


「では、手合わせする前に互いに名ぐらい言っておこうか!」


「…ネヴィ」


「ああ、俺はゴラだ! ちなみに冒険者の階級はA+だぜぇ!」


 そしてゴラは自分が使用する武器を腰のマジック・バック(魔法収納鞄)取り出す。


()()()が俺の相棒だぁ!」


 やつが取り出したのは片刃斧かぁ… どうやら戦斧使いのようだなぁ……


「それじゃあー! 互いに名乗り終えたところで始まるとするかぁ!」


 威勢よく大声で言う相手に対してネヴィは


「…いつでも …いいよ」


「なら、行くぞー!!」


 踏み込み一気に戦斧が届くまでの距離に詰め、すかさず一撃を振るう。


「オラァー!!」


 が、戦斧が当たる前にネヴィは攻撃を躱す。だが、ゴラもすぐに反応しネヴィが動いた方へと追撃をかける。けれど、ネヴィはこの追撃もあっさりと躱す。


「チッ! まあ、最初はこんなもんだろうな。 だが、ここからさらに攻めるぜぇ!」


 ゴラが次なる攻撃を仕掛けようとししていた際にネヴィは


「…形態変更 …フォーメイション………」


 ん? ()()形態は……


 ネヴィが六面盾で何かしていたことに気づいた冒険者も何人かいたようだが肝心の手合わせをしてるゴラはそれを見逃していた。


 その後もゴラは怒涛の攻撃を仕掛けるも、ネヴィはそれを全て()()()いた。


「チックショー! これならどうだ!!」


 ゴラは斧の先に魔力を溜め、一気にそれを振り放った。


「ジャイアント・スマッシャー!!」


 けれどこの一撃もネヴィはあっさりと防ぐ。


「……もう …終わり?」


「ぐぬぬ… チックショー! こうなりゃあー! ()()()出番だぜぇ!」


 ゴラのその呼びかけに対して周りにいた冒険者の中から数名の冒険者が前に出てきた。


「ハハハ! 悪く思うなよあんたは強いんだからこれくらいの()()()をもらっても悪くないよな!」


「出た出た… 自分が不利になると仲間を呼んで全員で攻撃するって言うゴラのいつものパターン」


 そして今出てきた冒険者達がネヴィを囲う。俺は一瞬ネヴィに加勢しようかと思ったが、ネヴィこちらにアイコンタクトで大丈夫と合図してきたので俺はそれに従った。


 数名と言ってもたった10人程度の相手にネヴィが負けるとは俺は思ってもいないし、それにやつは未だに気付いていないが、今のところやつの攻撃はネヴィはおろか六面盾にすら()()()()はいないことに…


「オラァー!」


 だが、ここでやっとゴラもあることに気づいた。


「何!?」


 その光景を見てゴラだけではなく周りにいた冒険者達もガヤガヤしだした。


「なんで斧の刃が盾に当たる前に空中で止まってんだ!?」


「どうなってんだ!?」


 やっと気づいたみたいだなぁ… あれは単に六面盾と斧の間に空気の壁…いや、空気の()があると言ったほうがいい… ネヴィがさっき六面盾の形態変更をしたのはフォーメイション5(ファイブ)ウィンドシールド(疾風の型)… あの形態は風や空気を利用して防御をする形態であり、そして今ネヴィが使っているのは空中に盾を張るエアークッション(空気の盾)て技…


「なるほど、見えない障壁を張ってやがるってことかぁ! 小癪なマネしやがって!」


 ゴラもやっと理解したようだなぁ… けれど、エアークッション(空気の盾)には欠点がある、それは威力が強すぎる攻撃だと一撃で破られてしまうということだ…

 そもそもエアークッション(空気の盾)は相手の攻撃の威力を落とすために使う技であり、防御技というには少々脆すぎる欠点がある… 最大で6枚まで張ることが可能だが、前にシーナが一撃で全ての盾を破ったことがあった… まあ、さすがに六面盾にダメージを与えられてはいなかったけど…


「だが、見えない障壁があろうとも俺達の集中攻撃を防ぎ切れるか!」


 確かにやつの言ってることは正しい……けど1枚張っただけのエアークッション(空気の盾)も単体で破れないとなると口先だけでやつの攻撃はほとんど大したことがないのがわかる…


 さて気を取り直してネヴィの方に集中するか…


 ネヴィを囲んだ冒険者のうち、剣士3人、魔法使い2人、メイスその他の武器を使う者が5人くらい… 後は隠れているが上に弓でネヴィを狙ってるやつが1人…


 無論ネヴィはそのことも把握していた。


 魔法使いの遠距離攻撃を軸にその他の接近戦連中がネヴィに一斉に攻撃を仕掛ける。


 しかし、その攻撃をするりするりと簡単にかわしていくネヴィはさらにダメ押しで


「…ウィンド・カーテン(円風の壁)


 ネヴィは円状に風の壁を張り連中を寄せ付けないようにしている。


「ぐぬぬ…… お前ら何やってる! ちゃんと攻撃しろー!!」


「けどよ… どうやっても攻撃が防がれちまって…」


「だよな…」


「なら! 盾ごとあの女を吹き飛ばすぐらいの威力で攻撃を仕掛けろ!」


 へー… 良い点に気づいたなぁ… そう確かに六面盾の守りは固いがそれなら盾の守りごと使用者を吹き飛ばせばいい… 現に今までネヴィが受けてきた戦闘でのダメージは基本的に六面盾ごと吹き飛ばされて負傷した場合が多い…


 ゴラの指示の通り魔力を溜めた威力の高いと思われる攻撃を一斉にネヴィへと放つ冒険者達。


 冒険者達による一斉攻撃を六面盾で受けるネヴィ、それと共に攻撃の直撃による衝撃のせいでネヴィの周りが土煙に覆われる。


「今のはさすがにやったんじゃないか」


「いくら、盾が凄くてもあれだけの威力の一斉攻撃は無理だろ」


「フン! どうだ! おい、早くこの土煙をどかせぇ!」


 ゴラが仲間の冒険者に土煙を払うように言った。


 しかし…


 土煙が晴れた先では先程と全く同じ位置にネヴィは立って平然とした表情を浮かべていた。


「なぁ…んだと…」


 だろうなぁ、その程度の人数が束になった一斉攻撃で六面盾の守りを破ることはできまい…


「なんてやつだ!?」


 そう呟きその場に膝をつけるゴラ


「…そろそろ …終わりに …しない」


「ぐぬぬ! おい! お前ら何へばってやがる!!」


 ゴラは後ろを向きながら仲間達に言うが…


「無茶言うなよ。 さっきの一斉攻撃でもうほとんど魔力を使っちまって、動けねぇよ」


「なんだと!?」


 ゴラが振り返るとネヴィは


「…ネヴィは …持久戦が …得意 …なんだよ」


「まさか!? 最初から俺達の魔力消耗を狙っていたんじゃ!」


「…うん …みんな …動かないなら …もう戦えない …だから …終わり」


 そしてネヴィはその場を去ろうとするがゴラが大声でこう言った。


「まっ、待てよ!! 今この場から去るってことはつまりは手合わせを投げたしたと一緒だ! てことは、この手合わせは俺の勝ちってことでいいんだよな!」


 それに対してネヴィは振り向きもせずに


「…別に …いいよ …ネヴィはそれで構わない」


 と言いながらオールの元まで歩み寄っていた。


「んだと!? ぐぬぬ……」


 その時ゴラは2階で隠れていた弓使いに指で指示を出した。その指示通り弓使いはネヴィへと狙いを定めて弓を射った。


「くたばれー!!」


 矢が射られた瞬間にゴラはネヴィに対してそう言った。だが、その射られた矢は空中で撃ち落とされ、矢を射った弓使いは正面から飛んできた矢が当たりその場に倒れた。


「なっ…んだと!?」


 もちろん、今矢を放ったのは俺である。そして2階にいた弓使いは正面から俺の矢を受けたが、幸いにも俺が放ったのは矢の先端が綿になっているので当たっても怪我をすることは無い… 今の矢は本来、先端の綿に油などを含ませてそこに火をつけて放つ矢である。


「これで懲りたら、大人しくしてるんだなぁ…」


「チックショー!」


 そう空に向かって大声で叫ぶと勢いよく立ち上がり、こちらに突進してくる勢いで迫ってくる。


「くたばれー!!」


「…形態変更 …攻撃の型(アタックモード) …フォーメイション2(ツー) …ボア・フェイス(猪の顔)


「ん!?」


 そしてネヴィは迫ってくるゴラに向かって逆にこちらから一気に近づいた。


「!?」


 シールドチャージ… 盾を前面に出して突っ込む形で盾で相手に体当たりする盾使い特有の技… そしてその手の攻撃を得意としたのがボア・フェイス(猪の顔)形態である……


 そしてそのままネヴィはゴラに突っ込み、その勢いのままゴラを前方の壁へと吹っ飛ばした。勢いが強くそのまま壁に身体がめり込んでしまったゴラは完全に気を失っていた。


「…終わったよ …オール」


「お疲れさん それじゃあ、本来の目的を果たしに行くか」


「…うん …行こう」


 こうして唐突に始まったネヴィとゴラ達による手合わせはネヴィの完勝で終わりを迎え、オール達はやっとソファ山へと向かうことができたのである…

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