無人島のダンジョン その終り
「ふあーあぁ、んー おはよう皆んな……むにゃむにゃ…」
目元を擦りながらシーナが言った。そして眼をパチクリパチクリとさせてから正面を向くとそこには…
「あれ? どうしたの2人共?」
シーナの正面に居たのはアルフォードから逃げ回って疲れ切っているオールとオールを追いすぎて傷が悪化してウィーリアに治療をしてもらっているアルフォードがいた。
「あたしが寝てる間にモンスターでも出現したの?」
「えーと、とりあえずあんたは気にしなくていいと思うよ… ただのいつもの事だから」
「ん??」
首を傾げるシーナ
そして皆んなで朝食を済ませて奥の通路を進もうとしていた。
「それでどうやってダンクを運ぶ」
「ちょっとキツイが4人で担架に乗せて運ぶしかあるまい」
「それでこの中に担架を持ってきてる人居る? 居たら挙手して」
それに対して誰も手を挙げなかった。
「……だよね」
当然の結果である。
「仕方ないから、木材でも探して作るしかないな」
「だが、こんなところに木材が有るとは思えないのだが」
見渡してもこの空間に有るのは水晶と岩ばかり。するとここでネヴィが手を挙げた。
「どうしたのネヴィ」
「…運ぶなら …六面盾を …フロートの形態に変えれば …運べる」
「あっ…」
その場にいたフロートの形態のことを知っている4人は同じ反応を示した。
「そうだね それが1番早いもんね」
それから六面盾をフロートの形態に変え、その中にダンクを寝かせて運び出す。
「おーい、オール行くよー!」
「あー、すぐに追いつくから先に通路進んでてくれ」
オールは皆んなと少し離れたところであることをしていた。
「オールのやつ何やってんの?」
「ああ… オールやつ慰謝料とか言ってここの水晶を少しだけ持ってくって言ってたよ」
「慰謝料…… 相変わらずそう言うところはせこいな……」
「…でも ……純度の高い水晶なら ……良い素材になる」
「まあ、確かに結局宝箱や宝物庫があった訳ではないからその代わりと言っちゃあ言えるけど」
「結局このダンジョンは水晶が採掘ができるダンジョンってことでこの先知られるようになるんだろね」
「わざわざ、危険を犯してまで採掘に来る冒険者とかは、多そうだけどな」
「そういえば、このダンジョンって結局何階層に分かれているんだ?」
「今思えば確かにそうだな」
「でしょ!」
「あたし達はダンジョンに入ってすぐに転移トラップで別々の階層に飛ばされたから、ちゃんとした階層の把握はしてないわね」
「あたし達も最初は普通に進んであのスケルトンが最後にあたし達を転移させて」
「転移された場所がここだったし」
「……シーナ達は何階層まで普通に進んだの」
「えーと、いくつだったかな? ウィーリアさん覚えてますか」
「確か……… ごめんなさい、実は私もちゃんと把握してなくて」
「おそらく、順当に進んだのは3階層だと思いますよ」
「レタルさん」
「その後はシーナさんが床を崩してネヴィさんとキャロがいた吹き抜け状の部屋に落ちたんです。 それからあのスケルトンの転移術で一気にこの階層まで飛ばされてきたんですよ」
「レタルさんよく覚えてましたね」
「いや〜、これくらいはダンジョンの広さなどを測るのも私達の仕事の一環でしたから」
「それにこのダンジョンは東と西で最初に入る階層の層にも違いが有りますし」
ここでキャロさんも話しに加わる。
「えっそうなの?」
「はい、東の入り口は島の高い位置にあり、逆に西の入り口は島の低い位置にあります」
「そっか、シーナ達は2つの入り口の確認をしてないから知らなかったのか」
剣を杖代わりに立っているアルフォードがそう言った。
島に上陸した日に薪拾いのついでに2つの入り口を確認していたアルフォード達は入り口の高低差があることを知っていたが、オールやシーナ達は夕食の準備をしていたためそのことを知らずにいた。
「確か2つの入り口には2・3階層くらいの位置の差があったはずだが」
「そうです。 おそらく東の入り口から入った階層がこのダンジョンでの最高層に当たると思われます」
「けど、最高層って言ってたところで入り口を入って数十メートル先で飛ばされたから、あんまり実感がないけどね」
「それじゃあ、あたし達が普通に進んだ階層は順当にいって5か6階層になるってことか…」
「…そこから …吹き抜けの部屋に落ちて ……プラス2階層分 …だから」
「結局、何階層なんだ? だって皆んなこのダンジョンで1回は転移のトラップとかで飛ばされてる訳だから…」
「ざっくり20階層ぐらいでいんじゃない」
「ほんとざっくりしてんな!」
「おーい、待たせて悪かったな」
採掘を終えたオールがこちらに歩いてきた。
「オール、いったいどれくらい取った?」
「ああ、あー… 冒険者組合への手土産とその他いろいろ採掘したから5塊ぐらいかなぁ それと一緒に細かいのも拾った」
ほんとはもう数塊多く取ったけど……
「それじゃあ、進んでみますか」
どこへ繋がってるかわからない通路をシーナが先頭きって進み始めた。通路は大人2人が一緒に通れるくらいの幅があり、俺達は2列になってその通路を進んだ。俺はいつも通り1番後ろを歩いていた。
通路入り組んでおり、右へ左へ右へ左へを何度も繰り返し坂道になったり、段数の多い階段になったり、いきなり幅が狭くなったりとなったが、通路は基本的に上を向いており、確実に上に向かって進んでいることだけはわかった。
ただ、通路を進み始めてから何分若しくは何時間経ったのか、今俺達はどのくらいの位置まで上がってきたのかがわからないまま、ただ歩みを止めずに進んでいた。
しかし、ここでウィーリアさんが足の付け根を痛めたらしく一旦その場で休憩を取ることにした。
「痛みますか?」
レタルさんがウィーリアさんの足に触り、痛めた箇所を確認していた。
「うぅ…… どうやらそこみたいですね」
「余りこれ以上動かさない方がいいですね」
「そうですね。 まさかここで私が怪我をするなんてヒーラ失格ですね。 フフフッ……」
ウィーリアは思わず苦笑いをした。
「となると、誰かに背をって移動してもらうしかないですかね」
その時
「じゃあ、俺が背をっていきますよ」
と手を挙げたのはハイドであった。それに対してウィーリアは動揺する。何せ自分を運んでくれるのが好意を持っている相手だと思うと心臓がドックンドックンと鳴りはじめていた。ウィーリアは動揺が悟られないように表情に細心の注意を払った。
「うん、確かに適任だと思う」
そう言ったのはウィーリアがハイドに好意を持っていることに薄々感づいているリュオンであった。
「それじゃあ、ハイドさん、ウィーリアさんのことよろしくね」
ハイドはゆっくりとウィーリアに近づくとその場に屈み背をウィーリアに向けた。
「さあ、どうぞ」
「……… で、では… 失礼します」
そしてウィーリアはハイドに背をわれる形でまた少し距離を縮めることに成功した。
そして一行は再び上へと繋がる通路を進み出した。
通路を進み出してからおよそ5時間後、シーナ達は広い空間へと出た。特にこれといったものもモンスターもおらず、単に奥に通路の続きの道があるだけの他には何もない空間にたどり着いた。
一行はそこで昼食を取ることにした。昼食といっても皆んなから集めた物の残りをうまく分けるだけであったが誰も文句を言わずに昼食を済ませた。
昼食後はまたしばしの休憩に入り、各々身体を休めていた。
「さて、あとどれくらいで出口に出ると思う?」
「と言わされてもなぁ ほんとに出口に続いているかどうかもはっきりしてないとなるとなぁ……」
「でも、こんだけ歩いて、『はい、出口じゃありませんでした』なんてことだったら。 あたしは天井を1つ1つぶち破ってでもここから出てやるわ」
「…でも、リュオン ……1つ間違えば …皆んな生き埋めに …なるかもと …ネヴィは思う」
「それにここの外は海中 間違って壁にひび割れなんかさせたら」
「間違いなく、水没するな」
「そん時は泳いで海上に出ればいいじゃない」
「って、ここが海中の底の底だったら、海上に上がるまで息が持たんだろう」
「チェ、ダメか…」
「けど、今日中にはここを出たいもんだな」
「そのためには前進あるのみ」
シーナが立ち上がるそれに続き皆んな立ち上がり、再び上へと続くであろう通路を進み出す。
そしてさらに時間は進み再び歩き出してからおよそ4時間半ごろ。
「やっと外に出たー!」
シーナは両手を挙げて背伸びした。その後ろに続き皆んなも外に出た。シーナ達が出てきたのは島の西側の入り口であった。
「やっと外か… はぁー、疲れた…」
「全く君と同意見だ」
「んーん! やっぱり外は気持ちいいねぇ!」
「ほんとね。 フフフ」
「外に出たのはいいが、俺は足がくたくただぜ」
アルフォードはゆっくりとその場にあった岩に腰を下ろす。
「確かに足はくたくただな。 それはさておき、レタルさんキャロさん、迎えの船への連絡をお願いします」
「そうですね。 すぐ取り掛かりますから皆さんは休んでいてください」
「あー、喉がカラカラだぜ」
「はい、お水をどうぞ!」
「ああ、ありがと…… って!?」
「えっ!?」
オール達はアルフォードの後ろに立っていた人物を見て驚きの表情を浮かべる。
「なんでお前がここの島にいるんだ!?」
その人物とは…
「えっ、だってボクが皆んなに手紙を送ったのにその本人が来ないのはどうかな〜、って思って。 まあ〜、実際の話しはボクの用事が終わったから、久しぶりに皆んなに会いたくて来たようなものだけだったりして」
「来るのが遅えよ… クライネ」
「ごめんごめん、そして久しぶり皆んな! あっ、知らない人は始めましてだね〜」
そして深々とお辞儀をし顔を上げると…
「では、知らない人のために自己紹介といきましょう。 クライネです! 以上です!」
「いや、早くね! やるならもっとちゃんとやれよ!」
「クライネ、水ちょうだい!」
「あたしも」
「は〜い、どうぞ!」
「それでいつこの島に上がったんだ?」
クライネはニコニコした表情をこちらに向けながら
「着いたのはちょうど今し方だよ。 ちょっと島の植物を見ながら来たら遅くなったけど」
「相変わらずだなぁ… ところでクライネ… 船は?」
その言葉にクライネははっ!とした表情になる。
「まさか、お前1人だけで船は港に帰したなんて言わないよなぁ…」
「いや、クライネのことだからありうるぞこれは」
心配な表情でクライネを見つめるオールとアルフォード、だがクライネははっ!とした表情をやめて今度は笑い始めた。
「アハハハ、2人ともそんな顔をしないで。 今言ったのはほんの冗談だから!」
その言葉を聞いたオールとアルフォードはクライネに詰め寄ると
「おい、俺らの状況見て行ってんだろうなおい!」
「今この場でその冗談は無いだろ!」
半ば半ギレ状態の2人がクライネに顔を寄せて言った。
「ハハハァ……ごめんごめん、今度からは気をつけるよ。 それより〜アルフォードずいぶんと傷があるね」
そう言ってクライネは自信の魔法収納鞄から何個かの小瓶を取り出すとそのうちの何個かをアルフォードに手渡した。
「この塗り薬を使うといいよ! あと、この傷にはこっちで、そこの傷はこれね!」
アルフォードに薬が入った小瓶を手渡してからすぐに、シーナの元に近寄るとシーナの身体をまじまじと見てからアルフォードと同様に小瓶を取り出しシーナに手渡した。
「はい! シーナにはこれとこれとそれからこれもおまけするね〜」
「サンキュー、クライネ!」
「えーと、リュオンの方は………見た感じ大丈夫そうだね」
「ああ、あたしはいいから六面盾で運んでるやつのことを見てやってくれ」
リュオンはそっと六面盾の中で横になっているダンクに視線を向けた。
「……彼どうしたの?」
「モンスターとの戦闘で身体を貫かれたんだ… 幸い一命は取り止めたけど、これから港に帰ったらすぐにちゃんとしたところで治療してもらうところだ」
「六面盾の中の彼を心配そうに見守っている彼は?」
「やつの仲間だよ。 昔から一緒に居るんだってダンク自身が言ってた」
「ちなみにメンバーの中にヒーラはいないの?」
「彼女がそうだよ!」
シーナがウィーリアを指差した。
「ウィーリアさんって言うだけど…」
「ウィーリア………んーと、確かその名前は……えーと、確か……」
「……ウトナの雪上戦」
「あ〜あ、そう言えばそうだったね。 なるほど彼女が…」
するとクライネはウィーリアにどんどん近づきそのまま手を彼女に差し出した。
「どうも、あなたがウトナの雪上戦で多くの冒険者を救ったと言うヒーラさんですね。 前から1度あってみたいなと思ってたんですよ! 今度、暇な時に薬草の話しでもしましょ!」
「はい、喜んで。 改めましてウィーリアです。 そしてこちらが妹のサトラです」
「よろしく!」
「うんよろしくね。 それからそっちの君がハイド君だね」
「どうして俺を?」
「君の毛の色と背中に抱えてる大剣を見ればわかるよ! ウトナの雪上戦で活躍した獣人の冒険者と聞いた人相が同じだからね」
「そうですか、あなたの様な冒険者に名を知られていて嬉しいです」
次にクライネはデュープとダンクの元に近寄る。
「彼の具合はどうだい?」
デュープハイド俯いていた顔をクライネの方へと向ける。
「……ああ、今は一応は安定している」
「始めましてクライネです」
クライネはデュープに手を差し出す。デュープはその手を掴み握手を交わした。
「あなたのこと知ってます。 冒険者の中でもあなた達は有名だから」
「そんなことないよボクは… ちょっと彼の容態を見ていいかい」
「ええ、いいですよ」
「ネヴィ盾を開いてくれ」
「…わかった」
そして六面盾の一部が開きそこからクライネはダンクの容態を確認してから、また何やら小瓶を取り出しそれをダンクの傷口に塗ると六面盾の外に出てきた。
「何か変わったことはありましたか」
「いや、彼女の処置はばっちりだったよ。 ただ念のためにボクが持ってた薬を傷に塗っといたよ」
「そうですか」
「それじゃあ、皆んな船のところまで行こうか」
こうしてオール達のダンジョン探索は終わりを迎えた。