灰色の女
その後オールは受付さんが報酬を持ってきてくれる間に部屋の片付けをして時間を潰していた。
(本当は片付けをしないと部屋の中に入らないほど散らかっていたからである)
オールは雪崩のごとく崩れてきた本の山を部屋の空いている隙間という隙間に積み重ね始めた。しかし、ただ積み重ねているだけなので、本はグラグラしていてかなり不安定な状態であるので強い衝撃を与えればすぐにでも崩れる事は間違いないがオールは気にせずに本を積んでいく。
オールが部屋の片付けをしていた頃、1人の女が組合の建物に訪れていた。そして女は建物の中に入るなり誰かを探しているのか辺りを見渡していた。
そんな女を見ていた1人の冒険者の男が隣に座っていた仲間の冒険者の男と女に聞こえないぐらいの声で話し出した。
「おいおい! 見ろよあの灰色の長い髪の女 結構美人じゃねぇか!?」
「確かに美人だけど… あの女はやめておいた方がいいぜ!」
「あん! 何でだよ?」
「だってあいつは…」
と片方の男が訳を話そうとした時、後ろに座っていた冒険者が話しに混ざってきた。
「あの女がバケモノ並みに強いからだよ!」
「はぁ〜? てか誰だよ、急に人の話しに混ざってきて!」
「まあまあ… そう言わずに! あんた達他のところからここに来た冒険者だろ!」
「ああー 1日前にこの街に来たんだよ!」
「なら、あの女のこと知らなくてしょうがないか」
「だから 何なんだよあの女が!」
少し怒ったような態度で後ろに座っていた冒険者に訪ねる男。だが、後ろに座っていた冒険者はクスリと笑みを浮かべてから立ち上がると男達のテーブルへと席を移した。
そして女について話し始めた。
「あんた達も聞いたことぐらいあるだろ! 『灰色の夜叉』て異名を持つ冒険者のことをよ!」
「はあ〜? 名前くらい誰だって知ってるだろ『灰色の夜叉』を知らない冒険者なんか逆にいないだろ?
それで、その話しとあの女がどうしたって言うんだよ! まさかその夜叉の愛人何て話しじゃないだろうな!」
「いやいや 違う違う」
と手を振って否定する男
「じゃあー 何だよ!」
「あの女は夜叉の愛人なんかじゃなくて あの女が『灰色の夜叉』本人だって言ってんだよ…」
男のその言葉に驚きの表情を浮かべる男達 だがすぐに少し怒っていた方の男が喋り出した。
「おっ…お前 それ本当の話しか……」
「ああ、本当だとも!」
「マジかよ… てか 灰色の夜叉が女だったなんて初めて聞いたぜ…」
「そりゃそうだ 実際俺もこのことを知ったのはごく最近だし! 」
その時男はあることを思い出した。
「そう言えば さっき俺にあの女はやめとけて言ってたけど… お前! あの女が灰色の夜叉だって知ってたのか?」
と隣に座る冒険者仲間に訪ねた。
「いや違うんだ 俺も今日初めてそのことを知ったよ だけど…前に俺は見たんだよ あの女の戦っているところを…」
それは、約一年ほど前…多くの冒険者が参加した。
『腐と骨の丘』の激戦… この激戦は突如として大量に現れたアンデット系モンスター達の討伐を行う依頼であった。
この時の激戦は冒険者側は…約2000人が集まったが、それに対するアンデット系モンスターの数は冒険者を遥かに上回る約2万の軍勢であった。
こうして、腐と骨の丘での戦いが始まり…そして半日を超える長い戦いはその日の夕暮れと同時に冒険者側の勝利によって終わりを迎えた。
その激戦に男も参加していた。そしてその際に男は戦場で戦う女を見かけた。その時、女は周りをモンスターに囲まれていた。だが…女は他の冒険者が加勢に行くよりも早くその場を囲んでいたモンスターを全て倒してしまった。その光景を見ていた者は男の他にも何人かいたが、皆その光景を見て口々にこう思ったであろう…あの女はその場にいたモンスター達よりも恐ろしく思えたと。
「おいおい 何で今までそのことを仲間の俺に話してくれなかったんだよ!」
男の話しを聞き終わってから少し怒っていた方の冒険者が訪ねた。それに対して今話していた男は…
「だって 怖かったんだよ その光景を思い出すのが」
と男は少し怯えた表情で答えた。
「だけど… 今思えば確かにアレが『灰色の夜叉』だったと思えば納得がいく…」
そう言って男達は静かに女の方に顔を向けた。