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無人島のダンジョン その6

 

 その場の状況整理…


 うつ伏せの状態で倒れているシーナ。 その右側の水晶(クリスタル)にもたれ掛かりぐったりとしているアルフォード。 その少し後ろで守りを固めているネヴィとその後ろでハイドの治療に当たっているウィーリア達。


 そして倒れるシーナの正面に位置するクリオネ。


 ここで時間を数分前に戻す…


 シーナ達前衛の3人は一定の距離を保ちつつクリオネに対して攻撃を開始した。シーナとアルフォードの左右から連携それに合わせてハイドが大振りの一撃を放つも触手で防がれる。


 だが、シーナは攻撃の手を休めずにクリオネに向かっていく。それに続きアルフォードとハイドが連携を仕掛ける。


 しかし、それに対してクリオネも新たな技を発動させる。


「おっと!」


 いきなり飛んできた水晶(クリスタル)の破片を咄嗟に躱すシーナ。


「大丈夫か!」


「大丈夫! けど気をつけてあの飛んでくる水晶(クリスタル)ずいぶんと鋭利なってるから」


「まさか、水晶(クリスタル)の破片を飛ばしてくるとは」


「触手に飛んでくる水晶(クリスタル)の破片って、手数が多すぎるだろうが!」


「確かにちょっと3人だけじゃカバーしきれないかも 戦っているのが3()()だけならね」


 と呟いたシーナ。


 そうここに居るのは3人ではなく…


「パンサーネイル!」


 サトラはネヴィの守りの後ろから飛びまわる水晶(クリスタル)を砕きシーナ達のサポートをしていた。


「サンキュー! サトラちゃん!」


「えへへ!」


 思わず笑みが溢れるサトラ。


「…サトラ  ……次、右からのやつ」


「はい! ネヴィさん」


 さらに、レタルさんとキャロさんの2人も遠距離魔法による触手と水晶(クリスタル)の排除のサポートをしていた。


 敵の手数の多さに対して数の多さでうまく対抗するシーナ達。


 しかし、ここでクリオネの動きに変化があった。


「ん!?」


「どうしたシーナ?」


「なあ、アルフォード さっきから触手の攻撃が減ってきてないか」


「そういえばさっきよりも数が減った気がする」


 すると後ろから…


「…シーナ! 下!」


 叫ぶネヴィ…


 すると地面が盛り上がり地面の中から触手が大量に現れシーナとアルフォードに襲いかかった。だが、ネヴィの掛け声のおかげで触手をうまく避けた2人。


「ありがとうネヴィ! おかげで助かったよ」


「ほんとサンキューなあ!」


 とグッドポーズとるシーナ。


「にしてもずいぶんと姑息な手を使いやがって!」


「だけどシーナ。 今のところ優勢なのは相手の方だよ。 このまま攻撃を続けてもこっちは消耗していく一方だよ」


「けど、引こうにも通路も塞がれてるしな」


「確かに… って? えっ!」


 思わず驚くアルフォード。


「ん? なんだアルフォード気づいてなかったのか? ほれ、後ろ見てみ」


 シーナの言葉に従い後ろを振り向くとさっき自分達が出てきたはずの入り口が影も形も消えていた。


「!!? 嘘! いつから?」


 と半ば早口になってシーナに訪ねた。


「さあ〜 あたしもさっき気がついたから おそらくあたし達を逃がさないためだと思うけど。 通路だけじゃなくたぶん転移系の魔法も封じられてると思うよ」


「なるほど、だから誰もこのダンジョンから帰って来なかった訳か…」


「うん、逃げようと思えば転移の魔法が使えるやつなら逃げ帰ってこれるはずだもん。 それすらできないってことは、移動阻害の能力か技を相手が使ってることだもんね」


 そう言いながらクリオネを見ている2人。するとクリオネにまた動きがあった。


「おい… またなんかするみたいだぞ」


「何かする前に一撃入れてやる」


 そしてクリオネに向かい駆け出すハイド。


「待ってハイドさん! ここは慎重に…」


 アルフォードの声に気づかないまま1人突っ込むハイド。


「ハイドさん…」


 ネヴィの後ろにいるウィーリアも心配そうに視線を向ける。


「アルフォード! こうなったらあたしらはサポートするよ!」


「ああ、わかったよシーナ」


 そして2人も前に出る。


 ハイドの動きを見てクリオネは触手をハイドに集中する。


斬空(ざんくう)!」


震動交波(しんどうこうは)!」


 2人が後ろから触手を攻撃し道をあける。


「すまない」


「いいってことさ。 それよりちゃんと一撃かませよ!」


「わかってる。 ワイルドブースト!」


 ここで身体能力向上を使用する。


 そして一気に距離を縮めると張り上げた大剣を勢いよく振り下ろす。そしてハイドの一撃は見事にヒットした。その一撃をくらいクリオネの身体も少し後退する。


「よし!」


 相手が後退したことにハイドは少し手応えを感じていた。だがそこで少し油断してしまった。


「ハイドさん! 後ろ!」


「はっ!」


 振り向くと纏まった触手がハイドの背後から迫っていた。気づいたが空中ではうまく躱すことができなかった。そして触手に腹部を貫かれた。


「グワァ! ……グゥ」


「ハイドさん!!」


「チッ!」


 シーナはすぐに動いた。


「離れろー!」


 シーナはハイドの身体を貫いていた触手の纏りを斬り除ける。そのままハイドの身体をキャッチして素早くクリオネから距離をとる。


 見たところ急所は外れていた。どうやらハイドは貫かれる寸前に空中で身体を動かし急所を外させたらしい。


「ハイドさん! 聞こえる!」


 呼びかけるシーナ。シーナの邪魔をされないようにアルフォードが敵の注意を引く。そこにネヴィの守りの後ろからウィーリアが駆け寄る。


「ウィーリアさん後は任せます」


「はい! わかりました任せてください絶対に死なせわしません!」


 ウィーリアのその眼は真剣だった。


「じゃあ、ネヴィ2人をよろしくね」


「…任せて ……シーナも …油断せずに」


「わかってる任せたよ!」


 とグッドポーズとるシーナ。


 そしてすぐにアルフォードの加勢に入る。ネヴィが守りながらキャロさんとレタルさんがハイドを慎重に運びその間もウィーリアは治療の手を休めずに回復にあたる。


「震動波!」


 攻撃は当たっているが一向にクリオネにダメージが入っている実感が湧かないアルフォード。それどころかさっきからこちらの攻撃を防ぎも躱しもしなくなったクリオネ。


「チッ! イラつく!」


「アルフォード」


「シーナ… 見ろよ! アイツさっきまでは俺の攻撃を触手でガードしたくせに… 今は何もせずにただ攻撃を受けやがる! 余程己の防御力に自身があるみたいだぜ…」


「んー 違うんじゃないかな?」


「えっ?」


「だってそれなら最初から攻撃を受けても大丈夫なはずでしょ!」


「それはそうだが…」


「きっと、あえて攻撃を受け続けてるんだと思う」


 真剣な眼差しでクリオネの動きを伺うシーナ。するとまたしてもクリオネに動きがあった。その瞬間シーナは直感で次の動きを予想した。


「まずい! アルフォード! ネヴィのところまで後退するよ急いで!」


「おい! どういうことだ!」


「走りながらシーナが完結に説明する。


「あんたも気づいたと思うけど今クリオネのやつ、魔力を一点に集中させてる」


「ああ、確かにやつの力が集中してるのは感じだけど…」


「おそらく、その力の半分くらいはさっきまで受け続けたあたし達の攻撃によるダメージを利用してるはず」


「まさか! やつは!?」


「そう、おそらく相手の攻撃を吸収してそれを自身の攻撃に変換することができるってこと!」


 チラッと後ろ振り向くと何やら魔力の凝縮帯らしきものが今にもこちらに向かって放たれそうになっていた。


「ヤバァ! それにたぶんアイツ元々のHP(エイチピィ)が相当高いからちょっとそっとの攻撃でも余裕のよっちゃんで全然平気なんだと思う」


「かあー! なんてやつと戦っているんだかあ俺達!」


 と髪をかき乱しながらアルフォードが叫んだ。


 そしてネヴィのところにたどり着く前にクリオネは魔力の凝縮帯を放った。それはまさに魔力の砲口と呼ぶに相応しい攻撃であった。そして放たれた砲口は一直線にシーナ達へと向かっていく。


「ヤベェ!」


 咄嗟に身構えるアルフォード。するとシーナがアルフォードの正面に立った。


「シーナ!?」


「動かないで! あたしがなんとかする!」


 するとシーナは小さく呼吸をして息を整えると刀の構える。


 次の瞬間には放たれたはずの砲口は消え去りその場に()()()()()いた。


 その光景を見ていたサトラは…


「何!? 今何が起きたの!?」


「…今のは ……無灰(むはい) ……シーナだけが使う防御技で…」


「その防御力はネヴィの六面盾に相当するほどの技… けど、この技は…」


 するとシーナはその場に膝をつき刀でふらつく身体を支えた。


 無灰の防御力は確かに高いものだがその分身体にかかる負担も大きい。故にここまでの連戦により蓄積された疲労と合わせると月嫌い(セレデュオン)との戦いの時に使用したよりも遥かに身体にかかる負担は大きいものである。


 だが、あの場合はシーナが無灰を使用していなかったらアルフォードと一緒に2人とも大ダメージを負っていたはず。


 慌ててシーナに駆け寄るアルフォード。


「シーナ! 大丈夫か!」


「ああ… なんとかね……」


 シーナは俯きながら小声で答えた。


 アルフォードはクリオネに顔を向け動きがないことを確認してからシーナを背負いネヴィの方へと移動しだした。



「アルフォード……」


「シーナ喋っちゃダメだ。 今ならやつは攻撃の反動で動きが鈍ってる。 鈍ってる間にネヴィのところまで後退する」


 後ろのクリオネの動きを確認しつつネヴィのところまで一気に向かおうとしたが…


「なぁ!」


 急ぐアルフォードの周りを水晶(クリスタル)の破片が囲み込む。


「アイツ!」


 アルフォードはクリオネの方へと顔を向けクリオネを睨みつけた。そして背負っていたシーナを下ろし地面に寝かせると腰の剣を抜くアルフォード。


「シーナには絶対に当たらせない」


 そして静寂がその場に訪れる。アルフォードは両手に剣を構えたままじっとその場に立っている。その眼差しはじっとクリオネへと向けられている。


 そしてその静寂は天井から滴ったり落ちてきた雫が地面に落ちたと同時に破られた、次の瞬間にはアルフォード達の周りを囲うように浮遊していた水晶(クリスタル)の破片が一斉にアルフォード達を目掛けて飛んでくる。


 それに対してアルフォードは剣で素早く一つ一つ斬り砕いていく。数に対して剣速で対抗するアルフォード。さらに自分だけではなく地面に寝かせているシーナへと飛んでくる破片を第一に排除していくアルフォード。


 その光景をネヴィに守られながらサトラは黙って見ていた。けれどこの高速な戦いをサトラははっきりと自身の眼で追うことができなかった。実力がある冒険者からすればそれほどまでに速い訳ではないが、サトラの眼ではまだ動きの全てを見ることが難しかった。


「ネヴィさん! 今どっちが優勢なんですか」


 サトラは隣で防御に専念していたネヴィにどちらが優勢なのか訪ねた。無論ネヴィにはアルフォード達の動きを全て眼で捉えることができていた。


「……今はね ……アルフォードが少し押されてる」


 そう…いくら剣速が速くてもシーナを守りつつ()()()()のアルフォードでは相手の手数には勝つことは難しい。剣を振るうたびにちょっとずつ速度が低下していき…

 見れば捌き切れずに残った破片による傷がどんどんとアルフォードの身体に現れ、傷口からは微量ながら血が滲み出し。いつのまにか顔半分が血で紅く染まっていた。だが、本人は血で顔が染まったことに全く気づいていなかった。今はただシーナを守ると言うことだけに集中しているせいで自分のことに気づかずにいるアルフォード。


 ネヴィ達もアルフォードのサポートをしたいが水晶(クリスタル)の破片がそれを邪魔していた。六面盾は六面の盾がそれぞれ一面ずつに分かれることができるので、ネヴィは六面盾のうちの何面かをアルフォードのサポートに回そうとしていたが、予想以上に破片の攻撃が激しい上に先ほどと同様の魔法砲口による攻撃を放ってくるかもしれないので迂闊に六面盾を分散させることができずにいた。


 そしてついにアルフォードはその場に膝をついた。呼吸は荒く微量の出血による軽い貧血を起こしていた。だが、そんな状況でもクリオネは攻撃を止めることはなかった。アルフォードは膝をついた状態で飛んでくる破片を斬り砕いていた。

 だがここで破片が集中してアルフォードの左肩を貫いた。そのせいでアルフォードは左手から剣を手放してしまう。そして容赦なく今度は右肩を狙い破片が飛んでくる。


 しかし、右肩を破片に貫かれるとアルフォードが思った瞬間、破片はアルフォードに当たる寸前に斬り裂かれた。そしてアルフォードの目の前に先ほどまで地面に寝かせていたはずのシーナが立っていた。


「ごめんね、アルフォード」


「シーナ…」


「それとありがとうね! ずっと1人であたしを守ってくれて」


「……… いや俺はなんもできてないよ…」


 俯きながらアルフォードが答えた。それに対してシーナはアルフォードに近寄ると手を差し出した。


「そんなこと言っちゃダメだよ。 まだあたし達は負けてなんかいないんだから!」


 その言葉を聞きアルフォードは小声で…


「やっぱり好きだわ…」


 と呟いた。


 シーナには聞き取れていなかった。そしてアルフォードはシーナの手を掴みその場を立ち上がった。


「にしてもアルフォード ずいぶんとやられたんじゃない?」


「なぁにこれくらいならまだ全然平気だよ」


 ホントは立ってるのもしんどいけど…


「ならいいけど。 無理しちゃダメだからね」


「ああ、わかってるよ」


 それからネヴィの方を向くと…


「ネヴィはそのまま後ろのみんなを守っててね!」


「……任せて」


 そして振り返るとシーナは刀ではなくスピード重視のサバイバルナイフ2本を手に持っとアルフォードと背中合わせになる。これによりどの方向から破片が飛ばされてきてもカバーできるようにした。


「背後は任せたよ…」


「ああ、お互いになぁ」


 シーナが立ち上がったことにより攻撃を一旦止めていたクリオネ。その場にまた静寂が訪れたが、それもすぐに途切れた。


 何事もなく一つまた一つと水晶(クリスタル)ので破片がシーナ達に向かって飛んでくる。それを2人は息のあった動きで捌いていく。

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