無人島のダンジョン
―朝―
昨日の一件以来どことなく風邪を少しひいた気がするオールだが何事も無かったかのようにしていた。
その後、船で朝食を済ませてから前日から決めていた2チームに分かれて島の東西にあるダンジョンの入り口へと向かう。正確に言うとこのダンジョンに入るための入り口は3つ存在するがそのうちの1つが海中にある。
そしてシーナ達のチームが西の入り口へと向かい俺達は反対側にある東の入り口へと向かった。東の入り口は島の高い位置にあり、反対側にある西の入り口は島の低い位置存在する。
いよいよ本格的にダンジョン内の探索が開始された。ダンジョン内で連絡を取り合う際はキャスさんとレタルさんが通信魔法で連絡を取り合うことになっている。
「通信魔法・コンタクト こちらレタル、こちらレタル。 キャロ応答できますか」
「はいこちらキャロ。 通信には問題なさそうだな」
「そのようだ。 ではこちらは探索を開始します!」
「はい了解。 こちらも探索を開始します」
「お互いにご武運を」
「了解」
そしてシーナ達側では…
「では皆さん行きましょう」
「よーし! 行こう!」
今日は一段とウキウキしているシーナであった。
「楽しそうです。シーナさん」
「だって冒険は楽しくないとつまんないでしょ」
「シーナが元気で俺は嬉しいよ!」
「アルフォードさんはお加減大丈夫なんですか」
ウィーリアが訪ねた。
「あー、船の上では不甲斐ないところを見せたがこれからはチームのために頑張るよ」
「うん! その勢だよ アルフォード」
シーナ達が好調にダンジョン内を進む頃、オール達はと言えば…
「あーあ…… 入って早々になんでこうなるんだろうなぁ…」
「まったくですよ。 何故ワタシがあなたと2人きりにならなければいけないのだか」
そんな話しをするその場にはオールとデュープの2人しか居なかった。
「まあ、早いところダンク達と合流したいものだな」
「ああ、それが一番だろうなぁ…」
なぜ、俺がデュープと2人きりになったのかを話すとダンジョン内部に入った矢先に転移のトラップが発動し全員バラバラにダンジョン内に飛ばされてしまった。それで俺と同じ場所に飛ばされたのがよりによってデュープであった。
一方他のメンバーはというと…
「デュープ! 何処だあー!」
「あのさあ、こんな狭いところであんまり大声で叫ばないでくれる」
「ああ…すまん」
「……あんた案外物分かりがいいね。 体格からしてもっと反論するかと思ったけど」
とダンクの意外な一面を褒めるリュオン。
「デュープのやつ無事ならいいが」
「それは一緒に飛ばされた人によるでしょ まあ、運悪く1人だけだったら ちょっとあれかもね」
一方ネヴィの側では…
「全員バラバラにされてしまいましたね。 どうしますかネヴィさん」
「……早急に …チームで …集まる …1人だと …モンスターに …狙われる …リスクが高い」
「そうですね。 急いで皆さんと合流しましょう!」
だがそんな2人の前にモンスターが立ちはだかる。
「ああ! ス…スケルトン!」
行手を阻むようにスケルトン達が現れ2人に向かって襲い掛かってくる。その状況にキャロさんは少し動揺していた。なぜなら…
「ど…どうしよう 僕はサポートとして今回一緒にやってきたけど。 攻撃系の技はほとんど使えないんです。 ネヴィさんは攻撃系の技を持っていますか?」
と訪ねるキャロさん。それに対してネヴィは…
「……大丈夫 ……これくらいのモンスターなら ……簡単に倒せる」
それもそのはず、ネヴィは守りに特化した冒険者ではあるが、伊達にSランクの冒険者をやっている訳ではない。
「…形態変更 …攻撃の型 ……フォーメイション1 …ドラゴン・ネイル」
ネヴィの言葉に反応して六面盾は形態を変え、左右三面ずつに分かれた。簡単に説明すると一ノ面・ニノ面・五ノ面と三ノ面・四ノ面・六ノ面と分かれている。
そしてネヴィはスケルトンを次から次へと倒していく。その後ろで脆弱ながらキャロさんも攻撃に参加していた。(大半はネヴィが倒しました)
その後その場に現れたスケルトンは全て倒し終えた。
「いやー、さすがSランクの冒険者。 お強いですね! でも、てっきりネヴィさんは攻撃は苦手なものだと思っていました」
「……攻撃は ……最大の ……防御 …って前にシーナが言ってた」
「なるほどなるほど。 確かにそうですね。 では、またモンスター達が現れる前にチームのメンバーと合流しましょうか」
「…うん …みんな …心配」
といった感じで現在ダンジョン内に実質4チーム存在していることになった。そして現在最も下の階層に居るのはオールとデュープの2人であった。無論2人はそのことに気づいてはいない。逆に現在最も上の階層に居るのはリュオンとダンクの2人であった。この2組の階層差はおよそ10階層差である。その間の階層にはネヴィとキャロさんのペアとシーナ達のチームが居る。このまま順当に進むと1番最初に出会すのは間の階層にいる2組である。
ちなみにダンジョン内は通路には松明広い場所などの空間には発光性の苔や岩などが天井から照らしているので基本的には外と同じくらい明るくなっている。
さてそんな中シーナ達に迫る影があり。
「なんかモンスターとか全然出てこないよね」
「いいじゃない。 それだけ安全な通路を選んだってことなんだから」
「けど、スケルトンが1体ぐらい出てきてもおかしくないのに足音すら聞こえてこないな」
「でしょ!」
その時ハイドが何かに反応した。
「ん?」
「どうしました。ハイドさん」
「足音が聞こえる」
その言葉に全員が身構える。
「どっちの方から音はする!」
アルフォードが訪ねる
「前からだ。 この足音はおそくスケルトンだな。 音の数からしたらおよそ4・5体ぐらいか」
「4・5体か どうせなら100体ぐらい出てこないかな」
「さすがに100体は多すぎでしょ…」
「それにしてもさすが獣人だな。 遠くの物音まで聞こえるなんて」
「逆にこれぐらいしか取り柄がないがな」
「それはさておき。 ほーら、来なさった」
通路の前方からこちらに向かってスケルトン達が走ってくる。
「ここは俺に任せてもらうよ。 昨日の挽回といきたいからね」
そう言ってアルフォードが皆んなの前に立つ。そして腰から2本の剣を抜く。
アルフォードは二刀流の剣士であり。その剣速の速さはシーナも認めている。
「それでは… 剣撃・震動波!」
剣を交差させ斬撃を放ち一撃でスケルトン達を倒す。アルフォードはこのような斬撃に揺れを加えた技が得意である。
「いやー、張り合いがないね〜」
「アルフォード! 次にモンスターと遭遇したらその時はあたしが戦うからね」
「うんうん! シーナの好きなようにしていいよ」
「よし! 先に進もう!」
一方リュオン達は…
「あんた、なんであんなやつと一緒に組んでんの」
ダンジョン内を下の階層に向かって歩きながら唐突に質問をするリュオン。それに対して少し戸惑うダンクだがすぐに…
「デュープとは昔からずーっと一緒に居るんだ。 だから冒険者になっても2人で一緒に組むのは当たり前みたいなものだった」
「ふーん… あんた、やつと一緒に居て疲れない?」
「デュープは昔からあんな感じだからもうとっくに慣れてるよ」
「付き合いが長いとあんまりそんなことを気にしなくなるのね」
「ああ、だけどアイツは強いぜ。 まあ、俺も同じくらい強いけどな!」
一方で現在最も下の階層にいるオール達はというと…
現在大型モンスターと戦闘中である。
「あーあ、ホント今日はとことんついてない日だなぁ…」
「ちょっと、後ろからではなく。 君も前に出て戦いたまえ!」
「ああ、ワルイ これが俺の戦闘スタイルなんで…」
「何を言ってるんだ! 格下は上の者の指示に従いたまえ!」
とモンスターの攻撃を躱しながらデュープが怒鳴る。
「だから、援護するから お前の背後に居させろよ」
「そうやって自分に攻撃がいかないようにワタシを壁にするからだろ!」
「あー… めんどくさ」
しかし、どうするかな… サクッと倒したいところだけど コイツとの連携が上手く取れるかなぁ?
「まあ、いい機会だ! とくとSランクの… いやワタシの強さをその眼に焼き付けるがいい!」
と言い捨ててデュープはモンスターに向かって走り出した。
ちなみに今俺達が戦っているモンスターは『アイスゴーレム』とにかく身体が硬い氷でできてる。だけど火や熱にはめっぽう弱い。
「さあー! ワタシの前にひざまずくがいい!」
デュープが使用しているのはレイピアかぁ…
「フレアボール!!」
コイツもしかして…
デュープの放ったフレアボールは見事にアイスゴーレムをとらえた。さらにデュープは攻撃を繰り出す。
「どんどんいきますよ! フレアボールレイン!!」
自身の目の前に無数のフレアボールを出現させ、それらを一気にアイスゴーレムへと叩き込む。そしてアイスゴーレムは倒されその場には水だけが残った。
「見たまえ、まるで溶けた雪だるまのようだろ」
「ああ まさかお前が魔法剣士だったとはなぁ…」
魔法剣士とは、剣士でありながら魔術師の素質も持つ剣士のことである。
オールの言葉を聞いてデュープは少し怒り気味にこちらを指差しながら口を動かした。
「そのまさかとは失礼じゃないかい」
「そんなことより前からまた来たぞ…」
とオールは前方を指差した。
「フッ 懲りないやつらだ。 今度も君はワタシの後ろに隠れているといいさあ」
「はっ!」
その発言に少しイラッときたオールは弓を構える。それを見てデュープがさらに煽る。
「まあ、せいぜい1体くらいは倒せるといいがな」
「なら、どっちが多く仕留めるか 試してみるか…」
「愚問だな! そんなのワタシの方が勝つに…」
とデュープが最後まで言い終える前にオールは矢を放つ。
「レッドフェザー」
オールは一度に3本の矢を放ちその全てがアイスゴーレムを射抜く。
「これで3対1だなぁ…」
「チッ! 調子に乗るなよ格下がぁー!」
「格下格下って うるさいヤツだなぁ…」
俺は別に階級なんてどうでもいいと思うんだけどと思いながらオールは弓を射る。
その後…
「結局、8対6で俺の勝ちだなぁ」
「調子に乗るなよ! それにワタシが倒したヤツは大きいのが多かったから事実は8対12くらいだろ!」
おいおい… どんな負け惜しみだよ。 ここまでくると逆にすごいなコイツ… まあ、いいか
「じゃあ、先に進むか…」
「オイ、ワタシの指示に従いたまえ!」
一方上の階層では…
ネヴィとキャロさんは通路を進んだ先にあった広い場所に出たのだがその場所に入った瞬間にスケルトンに周りを囲まれ、現在2人で戦っていた。
「……キャロさん ……大丈夫」
「いや、実を言いますとけっこうピンチでした。 連戦による疲労はさすがに身体にはこたえます」
キャロさんの疲労を回復させるためにネヴィは六面盾の形態を全方位防御に切り替えていた。この形態は昨夜使用したフロートと同じで中から攻撃ができないようになっている。そのかわり外部からの攻撃はほとんど受けつけないので回復などで時間稼ぎをする際には最適である。
「ネヴィさんの方は大丈夫ですか。 僕と同様かなり魔力を消費したように思ったんですが」
「…ネヴィ ……元々持久戦得意」
「そうですか、きっと元々の魔力量が多いんですね。 羨ましい限りです」
「……だから …これくらいの攻撃なら …全然平気」
ですが、このままの状態をずっと維持しててもネヴィさんに負担をかけるだけだ。 それにここより下の階層にもっと強いモンスターがいたとしたら、ここで魔力を消費し過ぎたら後々の戦闘を左右させるかもしれない。
その2つ上の階層では…
「サケ〜 サケ〜 ヒック!」
「ん!」
「どうしました。 ハイドさん」
「奥から、鼻歌が聞こえる」
「鼻歌? こんな場所で?」
「オールさん達では?」
「いや、聞き覚えのない声だ。 それに足音は1つだ」
「もしかしたら、私達以前にここに入った冒険者かもしれませんね」
「警戒した方がいいかもな」
「ああ」
身構える3人。 そして足音はどんどんとこちらに近づいてくる。
「サケ〜 サケ〜 旨い酒はないかな〜 ヒックヒック」
そして奥から声の主が姿を現した。
「ん〜♪ お前ら〜ヒック! スケルトンじゃねぇな…」
「そうだが、どうやらお前はスケルトンみたいだな」
「ん〜 オレ様がスケルトン? なぁに言ったんだお前は…ヒック! オレ様はちゃんとした人間…」
「なに言ってんの? どう見てもスケルトンでしょ!」
「ヒック! 違う違う〜 オレ様は… アレ?」
そしてそのスケルトンは自分の姿を見て…
「あー!!? そう言えばオレ様スケルトンだったぁー! ヒック」
「ええー なにコイツ自分がスケルトンだって忘れてたって訳なの?」
「とりあえずサクッと倒すか」
そう言ってアルフォードはスケルトンを攻撃する。
「じゃあな、間抜けなスケルトン。 震動波!」
「あっ?」
スケルトンはその剣撃をゆらりと躱した。
「なに!」
「うぉとと… いけねいけね、足元がふらつくぜ〜 ヒック」
「なんだただ酔ってふらついてるだけか?」
そしてハイドがスケルトンの周りの匂いを嗅ぐ。
「確かにコイツからは酒の匂いがする」
「確かにここからでも匂うな」
とシーナも鼻をスンスンさせて匂いを嗅ぐ。
「こんなヤツ、アタイでも倒せるよ!」
そう言ってサトラがスケルトンに飛びかかる。だが、サトラの攻撃が当たるよりも早くスケルトンは彼女を攻撃していた。
「えっ……」
その瞬間サトラの身体から血が吹き出しサトラはその場に倒れた。
「サトラ!!」
ウィーリアはサトラの名を叫びすぐさま側に近づこうとしたがハイドがそれを止める。
「離して! 早くあの子を回復をしないと死んでしまうは!」
「ダメだ! 今ヤツに近づけば君も斬られる!」
「でも、あの子が!」
「斬空!」
「震動波!」
シーナとアルフォードが立て続けに攻撃を放つ。
「おっとと… ヒック」
スケルトンは後ろに跳び攻撃を躱す。そしてすぐさまシーナが倒れているサトラを抱き抱えウィーリアの元まで下がり、アルフォードが追撃されないようにスケルトンとシーナ達との間に入る。
「サトラ!」
ウィーリアが抱き抱えられているサトラに声をかける。すると眼を閉じた状態で姉の声に反応する。
「ごめん… ドジっちゃった…」
「いいのよ無理しなくて。 私がすぐに回復させてあげるからね」
ざっと身体を見たところ傷口は浅いようで少し冷静さを戻すウィーリア。どうやら斬られる寸前に少し後ろに下がり急所への一撃を防いだようである。
「後は任せます あたしはヤツを倒す」
「俺も一緒」
「いや、ハイドはウィーリアさん達の側にいて 他にもモンスターが来るかもしれないから レタルさんもウィーリアさんのサポートをしていてください!」
「わかりました」
「さてと…」
シーナはゆっくりとサトラを腕から下ろすと立ち上がりスケルトンの方を向く。向いた先ではすでにアルフォードがスケルトンと戦っていた。
「お前スケルトンの割にはけっこう強いな」
「さっきから スケルトンスケルトンって オレ様にはちゃんと名前があるんだぜ〜 ヒック!」
そしてお互いに一旦身を引いたところでシーナがアルフォードの横に立つ。
「どうだアルフォード ヤツの力は」
「今までの連中に比べるとなかなか手強いかもしれないな。 それでサトラちゃんの状態は」
「今ウィーリアさん達が全力で傷口を塞いでいるよ」
「そうか」
「お〜い 聞いてたのか ヒック!」
とヤツがこちらにサーベルの刃を向けながら喋りだした。
「あーわるい、なんか言ってたのか」
「聞いてなかったならもう1度言ってやるよ。 オレ様の名前はキャプテン・ジョー 偉大なる海賊の名前だ〜 ヒック!」
「いや、誰だよ!」