北の都市『フィヨル』
―フィヨル―
ノース・グラウンドで最も栄えている都市である。冬になれば外気温は氷点下を下回るほど寒い都市でもある。地理的に表すとノース・グラウンドの北東部に位置する。
さらに、ノース・グラウンドの最北には『スノーディア』という名の島があり。その島では1年を通して雪が降り続き、夏の数日間だけ稀に雪が降らない日が存在する。
そして、2人を乗せた馬車はフィヨルの街へと入ったのは手紙を読んでから2日後であった。
「あー、やっとついた……」
疲れきった声でオールが喋った。
「くうー! 久しぶりだなー フィヨルに来るの!」
馬車から降りてきたシーナが辺りを見渡しながら言った。
「お前 よく疲れてないなぁ……」
「オール ちょっと鍛えて直した方がいいんじゃない?」
オールが何故疲れているかというと、フィヨルに到着するまでの間にモンスター達の襲撃を7回も受け、そのたびに戦っいたのでその疲れが蓄積されたことにより疲れきっていたのだ。
「ほーら、早くフィヨルの冒険者組合に行こうよ!」
シーナに勢いよく引っ張られていくオール。
そして、フィヨルの冒険者組合の建物の前まで到着した2人。
「前から思ってたけど、ここの組合の建物って、いつ見ても綺麗だよな!」
シーナが言ったようにフィヨルの冒険者組合の建物の外観は白く細かい造りの模様など、まるで神殿にある彫刻のような造りである。
「あーあ、言われてみれば」
「だろ! オールもそこはわかるんだな!」
「その、もってなんだ!(怒り)」
俺には、美的センスが無いと言いたいのかコイツは…
「さーてと! 中に入りますか!」
建物の扉を開けようと歩み寄ろうとしたシーナだったが、何かを感じ咄嗟に後ろへと飛び退け刀の柄に手をかける。
「ん? どうした?」
「いや、なんか扉の向こうから。 殺気を感じて…」
「はっ? 気のせいだろ」
「いや、だけどこの気配は…」
何やら考え込むシーナを尻目にオールは建物の扉に手をかけた。
「別になんともないだろ」
そのまま扉を開けたオールだったが、すぐに扉を閉めて、シーナに一言。
「うん お前は正しい だから、今すぐ街に帰ろう」
「いったい 扉の向こうに何があったんだ?」
「俺の嫌いなヤツが居た」
「嫌いなヤツって?」
オールは説明をせずに建物から離れようとしたが、そのタイミングで建物の扉が勢いよく開き中から1人の男が出てきた。
「ん?」
「会いたかったよー シーナー!!」
男は抱きつく勢いでシーナに近づいた。
「あー! アルフォードじゃん! 久しぶり!!」
あーあ、やっぱりクライネはコイツも呼んでたか… 確かにコイツは戦い慣れしてるけど… コイツと俺は… などとオールが考えていると。
「んん… チッ! やっぱりクライネはお前も呼んだか!」
と俺を見るなり舌打ちをしてきやがった。
そう、俺とコイツは馬が合わない。それはなぜかと言うと、アルフォードは見ての通りシーナに熱を上げており、そのシーナと一応仲が良い俺のことを嫌っているのである。 要するにただの嫉妬である。
だけど、シーナが言ってた、殺気てアルフォードのことなのか? 俺がさっき中を覗いた時はアルフォードしか見当たらなかったけど…
すると、また建物の扉が勢いよく開くと同時に中から1人の女が現れた。
「やっほー! シーナ」
「リュオン!」
「久しぶり そして、さようなら!」
そして、女は背中に背負っていた武器でシーナを攻撃した。だが、シーナも素早く鞘から刀を抜き、攻撃を受け止めた。
「久しぶりに会って、いきなり不意打ちとかないでしょ」
「その不意打ちを受け止めてるくせに!」
なるほど、さっきシーナが感じた殺気はリュオンのものだったのか…
そして、一旦その場はそれで終わり。4人で建物の中に入り椅子に座り込みながら話しを始めた。
「改めて、久しぶりオールとシーナ」
「なーにが、久しぶりよ! 会っていきなり紫陽花で攻撃してきたくせに」
「ほんの挨拶がわりよ」
「そのわりには、ずいぶんと殺気だってたわね」
「あら、そうだった…」
リュオンはシーナのことを本気で嫌ってる訳ではないがこの2人は性格が合わないだけである。さっきシーナが言っていた『紫陽花』とはリュオンが使用している武器の名前である。片方の先が槍になっていて、もう片方の先が斧になっていると言った少し変わった武器であり、2メートルほどの長さを保有しているが、リュオンはそれを軽々使いこなしている。
ちなみに、リュオンの容姿は紫色の長い髪を後ろで束あり前髪の左側を一部三つ編みにしている。目元はキリッとしており、身体は細身で身長はシーナより少し低いくらいである。
リュオンは出身がノース・グラウンドであり、階級はSランクの冒険者である。
「ところで、2人はいつからフィヨルの街に来たんだ」
「あたし達がフィヨルに来たのは今から3日前だけど、ここに来る前もノース・グラウンドで依頼こなしてたんだ」
「アルフォードも一緒に?」
「ああ、そうだけど何か!」
リュオンと違いアルフォードは完全に俺のことを嫌っている。アルフォードがシーナに熱を上げている理由は戦いの最中にシーナに助けてもらったらしく、その時に一目惚れしたらしい。
ちなみに、アルフォードの容姿は茶髪の長髪を後ろで束いる。右耳に赤いピアス2つをつけており。顔立ちもよくイケメンといえば確かにそうであり、街中でよく女性に声をかけられているのを見たことがある。赤を中心とした服を着ており、本人も赤い色が好きだそうだ。
「それで、クライネに呼ばれたのはこの4人だけなのか?」
「さあな、あたしが確認しているのはここにいるメンツだけだけど」
「そうか…」
「どうしたのオール?」
「いや、もしも、クライネが手紙を出したのがこの4人だけなら 依頼の内容からして少し大変そうだと思って」
「そうだな 誰かさんは後ろから矢を放つことぐらいしかできないし!」
「いや、そんなことより 俺達の中に回復役がいないだろ」
「確かに、20名以上の冒険者が帰ってこないほどのダンジョンなら 回復役の人は1人は必要だな」
「それなら 心配いらないわよ」
そう答えたのはリュオンであった。
「ん? あてでもあるのか、リュオン」
「あてもなにも 誰もこの4人だけでそのダンジョンに行くなんて言ってないわよ!」
ん? それは初耳だな…
「ええっ、そうなの! 知らなかった!」
素直に驚くシーナ、その表情を見て微笑むアルフォード。そしてリュオンが話しを続ける。
「あたし達はクライネに呼ばれてきたけど ここの組合からも何人かの腕の立つ冒険者を呼んだみたいよ」
すると、俺達が座るテーブルに1人の男が歩み寄っていた。そして男は…
「リュオンさん!」
「ああ、組合長さん」
リュオンのその言葉を聞いたから後ろを振り返るとそこには冒険者組合の制服を着た男が立っていた。