樹の上の家
あの出来事から2日後……
街からそう遠くない森の中の小さな水場があり、そのすぐ側にある立派な樹の上にオールの家があった。
「あっ、飛龍雲だ…」
屋根の上で日向ぼっこしながら本を読んでいたオールが空を見て呟いた。
(飛龍雲は飛行機雲のファンタジー版だと思ってください)
2日前に家に帰ってきてからは何事もなくのんびりと過ごしていた。
「やっぱり… 我が家が1番落ち着くよね〜」
日の暖かさでウトウトとし始めたオールだったが、そこに足音と共にあの声が迫ってきていた。
「おーい! オールゥーー!」
「ん? 嫌な予感がする…」
そして恐る恐る下を覗くとそこにはシーナが立っていた。
「おーい、おーい! 聞こえてるなら返事しろー!」
その言葉を聞いてオールは両耳を手で塞ぐ。これで何も聞こえな〜いてね。
「あっ! やっぱり屋根の上にいた!」
いつの間にか樹の根元にいたはずのシーナが家の中に上がっていた。
「オール! 居るなら返事くらいしろよ!」
「で、なんでお前がここに来てるのかなぁ? まだ病院で寝てるはずでしょ」
そう訪ねながら俺は屋根から家の中へと入った。
「ん? 治ったから 病院を退院してきただけだよ」
どんな回復力だよ! てか、なぜ俺の家に来た?
「ほら! 見て見て!」
そう言ってシーナは服をまくって腹をあらわにする。
「ね! 傷跡が無いでしょ!」
「わかったから… 服をまくるのをやめろ…」
「もお〜 照れちゃって」
照れてねーよ!……でも、傷跡が残らなくてよかった…
「それで、ここに何しに来たんだ?」
俺が訪ねるとシーナは魔法収納鞄から1つの包みを取り出した。
「はい、これオールの分の報酬だよ」
「俺の分て…」
「なんと言われても、これはオールの取り分だよ!」
シーナは包みを俺の胸元に押しつけた。
「受け取るでしょ! 受け取りなさい!」
「あー…… わかったよ……」
俺はしぶしぶ包みを受け取った。
おそらくシーナは自分の取り分を半分にして俺に渡してきたのであろう。本来ならば自分も受け取る予定ではなかったはずの報酬を受け取ってしまい。それで俺にも報酬を渡しにやって来たのであろう。
だが、俺はそれよりも気になることがあった。
「それはいいとして、その後ろの荷物の山はなんだ」
「ん? 何って、あたしの荷物だよ」
「なんでお前の荷物がここにあるんだ」
「えーとね… 簡単に説明すると。ほら、あたして家に居ることよりも依頼に行ってることの方が多くて、家を開けっぱなしにしてるから。 このたび、家を人に貸すことにしました!」
「はっ……」
しばしの沈黙の後…
「どういうことだ…」
「だから、人に家を貸したんだって」
「いや… その話しはわかった。それで何故俺の家に荷物を持って来たんだ」
「えっ、ここで生活するからに決まってるじゃん!」
「んん!? 今なんと」
「だから、これからあたしもこの家で暮らすんだよ」
「うん! 帰れ!」
「じゃあ! 空き部屋使わせてもらうわね」
勝手に部屋のドアを開け荷物を入れ始めるシーナ。
「おい! だから、帰れと…」
俺がシーナを止めようとした時、下から声が聞こえてきた。
「オールさん! 居ますかー!」
ん? あの声は!
声に反応してベランダから下を覗くと、樹の根元に郵便配達員のアオツバさんが立っていた。
「あっ、オールさん!」
「すみません今取りにいきます」
ベランダから下に飛び降り枝を足場に下へと向かう。根元につくとアオツバさんから直接手紙を受け取った。
「はい、こちらになります」
「すみません いつもこんなところまで届けてもらって」
「いえいえ 仕事ですから」
挨拶も早々にアオツバさんは次の配達がありますので、と言って駆け足で帰っていった。俺はアオツバさんの姿が見えなくなると上と戻った。
「あれ? オールどこかいってたの?」
「ああ、手紙を受け取りに下へ………て!」
「ん? どうしたのそんな顔して?」
「どうしたのて、少し眼を離しただけなのにお前は……」
戻ってみるといつの間か空き部屋が完全にシーナの部屋へと変わっていた。
「あー、もうなんかめんどいから このままでいいわ」
「それって、ここで生活して良いてこと?」
「あーーうん……」
どうせ何を言っても変わらないだろうし…
「やったー!! オールから許しが降りたー!」
喜びはしゃぐシーナ。
「それより 早くその手紙の中身を確認しないの」
「そうだな」
俺は手紙の封蝋を見て冒険者組合からの手紙である事は気づいていた。
「俺、なんかしたかな?」
「階級の昇格についてじゃないの?」
「だから、俺は階級とか別にどうでもいいのに…」
そう呟きながら手紙を取り出して中身を確認する。
「で、なんて書いてあるの?」
「ん、ああー 相談したいことがあるから組合の建物まで来てくれたさ それと…」
「なに?」
「お前も一緒に来いと書いてある」
俺は手紙をシーナに渡した。
「どれどれ あー、本当だ。 でも、なんであたし達が一緒にいるってわかったのかな」
「手紙にもしも、シーナも一緒にいれば来てくれって書いてあるだろ」
「もしもって、いなかったどうしたのかな?」
「知るかよ! あーあ、今日もゆっくりと過ごそうと思ったのに…」
「いいじゃない 2日も家でゆっくりしてた訳だし!」
「いったい 何の相談なんだか…… はぁ〜…」
ため息をつきながら、出かける支度をはじめたオールだった…