デュロンの大森林 その終
いつの間にか月嫌いは真っ二つに斬られていた。あまりに一瞬の出来事にルーエはそう感じていた。
「シーナさん 今のて…」
シーナに歩み寄りながらラキが訪ねた。
「あー、今のは………」
質問に答えようとしたらシーナはふらつきそのまま倒れそうになりクライネが受け止める。
「わるいな… クライ……」
言葉はそこで途切れシーナは意識を失った。
「お疲れ様 シーナ」
クライネが優しく声をかけているとそこに下から上がってきたオールが顔を見せる。
「終わったか…」
「オールさん!」
ルーエはオールに気がつくと側に近寄った。
「怪我ないか」
「大丈夫です!」
その答えにうなづくオール
「ラキも怪我はないか」
「はい シーナさんとクライネさんが側にいてくれましたから」
「クライネ、シーナの容態は」
「今は魔力と体力の消耗で気を失っているだけだけど 早くちゃんとした処置をしないと傷跡が残ってしまうかもしれない」
「チッ! なら急がないとな!」
するとオールは魔法収納鞄から矢筒を取り出した。
「クライネ お前も一緒に来るか?」
「いや ボクはまだやらなければいけない採取が残ってるから」
「そうか じゃあまた今度な…」
「うん 今度はオールの家でみんなでゆっくりとしたいよ」
あいも変わらずニコニコで話すクライネ
「あー… それと2人共 ここまで連れてきて勝手ですまないけど 『ヒュールメイダの球根』の依頼は延期にさせてくれ きっとこの埋め合わせはするから」
オールは2人に頭を下げて謝った。
「いえいえ! 頭を上げてくださいオールさん!」
「そうですよ! 今は依頼よりも! シーナさんの身体の方が大事です!」
2人はオールに頭を上げるように言った。
「そうだな じゃあ! 急いで街に戻るぞ」
「オール もしかしてここに来た目的て 『ヒュールメイダの球根』の採取に来たとか?」
クライネが首を傾げながら訪ねてきた。
「あー、そのつもりだったけど…」
「ならちょうどいいかな」
するとクライネは自分の魔法収納鞄から何かを取り出しそれを1番近くにいたラキに手渡した。
「これは何ですか?」
「これが、『ヒュールメイダの球根』だよ」
クライネのその言葉に驚く3人
「なあ! 何で都合よく持ってんだよ!」
オールが訪ねるとクライネは
「たまたま、見つけたから他の薬草採取のついでに採取しておいたんだ」
「あー…… そう……… なにはともあれ これで心置きなく街に戻れるな」
そしてオールはルーエにシーナを背負わせてできるだけ自分の側に近寄らせた。そしてオールは矢筒から1本の矢を取り出し。弓を空に向けて構えた。
「2人共 俺の側から離れるなよ それからルーエ ちゃんとシーナを背負ってろよ」
「はい!」
「じゃあ 行くぞ! 移動先決定!ムーブショット」
オールが空へと矢を放った瞬間、オール達の周りが光に包まれそのままその場から姿が消えた。
1人その場に残ったクライネは空を見上げながら
「フフ またねみんな…」
そして光に包まれその場から姿を消したオール達は街の西門の前に移動していた。
「オールさん 今のは転移魔法ですね」
「あーあ、 さっき放った矢は特別で矢には転移の魔法が施されているんだ ホントはモンスターとの戦闘中とかでやばくなったら使う 緊急脱出用の特別な矢なんだけど 今回はそんなこと言ってる場合じゃないからな」
そしてオール達は街の病院まで走って向かう。街の病院は冒険者がいつ来ても大丈夫なように24時間フルで治療を行なっている。街に着いた時点ではすでに朝の6時を過ぎていた。
病院にたどり着くとすぐにシーナの治療が始まり、その間俺達3人は病院の待合室で仮眠を取っていた。夜通しでの戦いのせいで俺もラキとルーエの2人もすでにクタクタであったため横になったらすぐに寝てしまった。それから看護師さんに起こされるまでの間ずっと寝てしまっていた。
看護師さんに起こされてからシーナがいる部屋まで案内してもらい2人を先に部屋に入ってからオールはシーナの治療にあたってくれた医師にシーナの容態を確認した。
その後、医師にお礼を言ってからシーナがいる部屋の中に入った。
「オッ! オール 遅かったじゃん! 何してたの?」
入るなりシーナに質問された。どうやら普通に会話ができるようなので少し安心した。
「いやなに、お前の治療にあたってくれた医師にお前の容態を聞いてたんだ」
「へー それであたしの身体がどうだって 言ってたの?」
「医師によると……」
傷が浅かったおかげで大事には至らなかったが、あと少しでも傷が深かったら危なかったと医師は語り。それから傷の悪化を抑えてくれた塗り薬を作った人に感謝することそれと傷口を焼いて塞ぐのはいい判断だけど今度やる時はもうちょっと丁寧にやってほしいと、じゃないと傷跡が残りやすくなってしまうからねと医師は語っていた。
オールは医師からの話しを言い終えるとシーナに2人と組合に行ってくると言って病院を出た。
組合の建物に到着すると早速受け付けで今回の依頼の達成と月嫌いとの戦闘についてをいつもの受付さんに話した。
「わかりました。 では、今回の依頼の報酬に加えてシーナさんの怪我の治療費は全て組合側で支給させていただきます」
「それは助かります」
「それでは、依頼内容に記載されている物の現物と月嫌いとの戦闘を証明できる物の提示をお願いいたします!」
そしてオールはラキがクライネから渡された『ヒュールメイダの球根』と転移する前に剥ぎ取っておいた月嫌いの皮膚編と採取した血を受け付けに出した。
「はい! ありがとうございます。 では、確認が終わり次第報酬をお渡しいたしますので少々お待ちください」
「あ! それと今回の報酬の分配についてなんだけど」
「はい 何でしょう…」
「分配の仕方は報酬の半分をシーナに渡して、残りを全てこの2人に渡してくれ」
その言葉に2人は驚いていたが、受付さんは笑顔で
「わかりました!」
と返事をした。そしてそのまま奥の部屋へと姿を消した。受付さんが居なくなると2人が慌てて話し始めた。
「オールさん! 今の話しじゃあ オールさんの取り分がありませんでしたよ!」
「そうですよ! それにわたし達はなにもしていないですし!」
「いいんだよ… 元々はこっちのミスであんなことに巻き込んじゃったし それに月嫌いを最後に倒したのはシーナな訳だし…」
「でも、オールさんだって 僕達を守ってくれたじゃないですか!」
「俺が守ってたのは最初だけで、後はシーナとクライネに任せてたろ それに俺が貰うならクライネにも取り分があるだろ!」
「た…確かにそうですけど」
「それに シーナとの話しでは最初から報酬は全て2人に渡す予定だったんだよ」
「えっ! それってどういうことですか」
「最初から今回の依頼で出る報酬は全て2人に渡すことにしようてシーナが言ったんだよ」
「シーナさんが…」
「今回の件を踏まえて2人がこれからどんな風に冒険したりするのか 今の自分達に何が必要で何が足りないのかを知ってもらいたいていうのが今回一緒に依頼に行った理由だよ。 ってシーナが言ってた」
「そうだったんですか…」
その話しを聞いてラキの顔は今にも涙が流れそうになっていた。
「おいおい 泣くなよラキ…」
「泣いてませんよ」
「そうか じゃあ報酬を受け取ったら お別れだなぁ」
「そうですね 本当に今回はありがとうございました!」
「ありがとうございます!」
ラキとルーエは頭を下げてお礼を言った。
「ああ、縁があればまた一緒にな…」
こうして、新人2人とシーナと俺を含めた4人によるデュロンの大森林での1日は終わりを迎えた……
1日て長いよね…