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デュロンの大森林 その10

 

 クライネがオールの眼についてルーエ達に説明していた間、上で戦いを繰り広げていたシーナと月嫌いにも進展があった。


「はぁ…はぁ… ちょっとやばい まさかここまで手こずるなんて あたしもだいぶ身体が鈍ってるみたいだわ…」


 すでに身体のあちらこちらから出血しているシーナだが、動きだけは最初の戦闘時に比べてかなり鋭さが増している。むろん月嫌いもそのことに気づいていた。


 その状況は下で造形魔法を使っていたクライネや森の中でアングホーネット(怒りぽい蜂)を射抜いていたオールでさえも一瞬でわかった。


「ん!」


「どうしたんですか? クライネさん」


 ラキが訪ねた。


「んーと… 上の気配が()()()()みたいだから… シーナのスイッチが入ったのかな?」


「!?」


 不思議そうな表情を浮かべる2人であった。


「やっと 本領発揮か… 」


 弓を引きながらオールが呟いた。


 そして上ではシーナが、呼吸を整えていた。


「フー…… フー…… よし! やるか!」


 そう言ってシーナは刀を月嫌いに向ける


あんた(月嫌い)と戦い 良い運動になったは あたし自身の(なま)りも自覚できたしホントに良い機会になったは… けど、そろそろ終わりにしようか…」


 するとシーナの周りの空気が変わる。その瞬間、月嫌いはシーナの背後に、いるはずのない鬼の姿を見た。そして、その鬼からの威圧に耐えきれずに月嫌いはシーナに攻撃を仕掛ける。


「おっと!」


 それを難なく躱したシーナは足場を素早く移動して一気に距離を縮める。それに対して月嫌いはまた口から紫色の炎を放つ。


「斬空!」


 斬撃で炎を払いのけたシーナはすぐに攻撃へと転じる。


 そして攻撃を放つや否やシーナは月嫌いの真下に入っり、今まで使っていた刀を鞘に納めると両足の太ももにつけていたサバイバルナイフへと持ち替えた。


「ワイルドブースト!!」


 ここでシーナは攻撃力増強の技を発動させ持ち替えた2本のサバイバルナイフで、月嫌いの足元を攻撃した。


 一方、その戦いを下で見守っているクライネは戦いの最中で破損した足場を素早く修復してシーナが不利にならないようにしていた。そしてもう一方では、オールが未だにアングホーネット(怒りぽい蜂)と戦いを繰り広げていた。


「チッ! 数が多すぎる! 持ってきていた矢筒を3分の2も使かっちまうし 後でクライネに矢の代金請求しとくか」


 そんなことを呟きながらオールは確実に1匹ずつ敵を倒していく。対するアングホーネット(怒りぽい蜂)は発達している嗅覚と触覚の器官で相手の位置を把握して攻撃を仕掛けてくる。


「シーナの方はどうなった」


 オールは木の間から足場の上で戦っているシーナの様子を確認しようとするが、場所の角度が悪く確認することができずにいた。


 そこでオールは、上の状況を把握しているはずのクライネに今上はどんな戦況か訪ねた。


「クライネ! 上の状況はどうなってる」


 声に反応したクライネは…


「シーナが優勢みたいだよ!」


 と答えた。


 だが、クライネがそう答えた次の瞬間…もの凄い雄叫びとともに上から大量の木片が落ちてきた。クライネは咄嗟に樹でアーチ状の屋根を作り新人2人を守る。そして下にいた全員が上の状況を確認する。


 見ると、足場の一部が紫色の炎に包まれており。その足場の端にシーナが立っていた。どうやら月嫌いが足場を燃やしシーナの動ける範囲を狭めたようだ。


「まずいな…」


 そう呟いたのはシーナであった。武器を持ち替えてから怒涛の勢いで攻撃を行なっていたが、月嫌いが尻尾で足場を破壊した際に脇腹に飛散した木片の一部が突き刺さり。さらに追い討ちをかけるように周りを炎で包まれた状態になってしまった。木片が突き刺さった脇腹からは血が滲み木片を伝ってポタポタと血が流れていた。


「ホントーに アンラッキーだよ… 今良いところだったのに…」


 息づかいもさっきより荒くなっているシーナだが、そんな状態にもかかわらず彼女の表情(かお)は笑っていた。


「でも、負ける訳にはいかないね… まだ依頼(クエスト)の途中なんだ… だか…っら 勝つ!」


 そう自分に言い聞かせるているシーナを尻目に月嫌いは、()()あのモーションに入っていた。


「たく、何が『灰色(はいいろ)夜叉(やしゃ)』だ… いったい誰がそんな二つ名をつけたんだよ。ホント…鬼神の如く……強かったらよかったのにな…」


 そんなことを呟きながらシーナは手からナイフを足元に放った。そして眼を閉じ、静かに深く呼吸をする。それを3回繰り返してから眼を開ける。


「よし!」


 覚悟が決まったといった表情になったシーナは脇腹に刺さっている木片に手をかけ、勢いよく引き抜いた。当然傷口から大量の血が流れはじめる。


 するとシーナは腰につけていたポーチタイプの魔法収納鞄(マジック・バック)から液体の入った瓶を取り出した。瓶の蓋を開けると中の液体を傷口にかけるとすぐさま足元に放っていたナイフの片方を持ち傷口にかけた液体をナイフにもかける。


 それからもう片方のナイフを拾うと2本のナイフの刃を重ね勢いよく擦ると。液体をかけた方のナイフに火がついた。


 そう、シーナが魔法収納鞄(マジック・バック)から取り出した瓶の中身は、アルコール。正確に言えばアルコール度数の高い酒である。


 シーナはアルコールを傷口の消毒に使用し、さらにナイフの片方にアルコールをかけそこにもう一方のナイフの刃を重ね、刃と刃の擦り合わせて生じた火花でアルコールを発火させたのだ。


 こうして発火させたナイフの刃を傷口に当てて傷口を()()少し強引に傷口を塞いだのである。これにより傷口から流れていた血の流れを止めることに成功した、シーナであった。

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