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四文字で魔法を創造して  作者: 斗樹 稼多利
8/45

パーティー結成


 シューゴ達が冒険者学校に入学して、もう間もなく一月が経とうとしている。

 三年生の実力トップとの模擬戦で完勝した件もあり、あれからほぼ毎日のようにシューゴへの勧誘か模擬戦の申し込みがある。

 勧誘される度に自分はカズト達と組むつもりだと言って断るのだが、気が変わったらいつでも声をかけてくれ、諦めないからなと言い残される日々。

 さらには自称腕自慢の上級生や同級生から模擬戦を申し込まれる件については、ルールという枷があるとはいえ、実戦経験になると思って全て受けて全勝。それがさらに勧誘や模擬戦の申し込みを加速させてしまった。

 最初に負かしたワタリのパーティーは約束通り勧誘はしてこないものの、寮や学校で擦れ違う度に忌々しいという感情剥き出しの表情で睨んでくる。

 そうした日々にシューゴの我慢も限界だった。


「いい加減にしろってんだよ!」


 魔法の訓練をする授業で溜まった鬱憤を晴らすように、不満を叫びながら的へ魔法を放ち続ける。

 模擬戦では魔法の威力をセーブしなくてはならず、全力の接近戦では身体能力の高さもあって大抵一撃で終わってしまって鬱憤を晴らせない。

 放課後の鍛錬で少しでも発散しようと走ったり魔法を放ったりしているが、それだけでは発散しきれない理由がある。


「お陰で本を読む時間が削られてるじゃねぇか!」


 勧誘行為への不満だけでなく、それへの対応によって休み時間に読書をする時間を削られている事が苛立ちを倍増させている。

 同室のカズトとトシキにすれば、部屋であんなに読んでるのにまだ読み足りないのかと思うのだが、シューゴにとってはとても大事なこと。

 無詠唱による「螺旋廻弾」、「疾風刃来」、「火炎放射」を惜しげも無く放って的を破壊していく姿に、スゲェ威力だなと感心するカズトと、負けないように精進せねばと闘志を燃やすシノブ以外のクラスメイトはあまりの威力に引いてしまう。

 そんな中でもユウは教員として注意を促す。


「カタギリ君? 気持ちは分からないこともないけど、さすがにそれ以上壊されるとお金を請求しなくちゃならなくなるんだけど」

「……はい」


 現在のシューゴに支払い能力は無く、実家に迷惑をかけるのも悪いと思い、渋々ながら魔法を放つのを止める。

 破壊した的は全部で八つ。どれも穴だらけだったり、切り痕だらけだったり、焦げ跡を残して焼失していたりしていた。


「この威力は魔力の制御鍛錬の賜物だとは分かっているけれど、こうも壊されると困るわよ。学校の予算も有限なんだからね」


 壊れた的の残骸を拾い上げて回収していくユウの注意に頷くものの、まだ苛立ちはシューゴの中で燻っていた。

 魔法の訓練をする授業のため、走ったり筋トレをしたりしての解消は出来ず、威力を殺して魔法を放っても逆に苛立ちが余計に強くなりかねない。

 だからといって全力で魔法を放つ訳にはいかない状況に、「身体強化」して「具現短剣」で作った魔力の短剣でも振っていようかと考えながら頭を掻いていると、今にも消えそうなほど小さい声でアカネが話しかけてきた。


「あ、あの……」

「……何?」


 できるだけ苛立ちを抑えたつもりの声でも、少し威圧的なものが混ざってしまったのかアカネが怯えて一瞬身を引く。


「ひっ!?」

「こらこらカタギリ君。感情を表に出さないようにするのも、一人前の冒険者には必要な事よ。その苛立ちをもう少し自分の中に収めなさい」

「……はい」


 返事はしたが、そう簡単に収められれば精神修業の苦労は無い。

 どうにか落ち着こうと深呼吸を繰り返し、幾分かマシになるとアカネへ話しかける。


「悪かった、ハシマ。それで、何の用だ」


 幾分かはマシになったとはいえ、まだ少し目が釣り上がっているために若干の怯えを見せながら、先ほど言おうとした事を口にした。


「え、えっと、あの短剣を作る魔法で作った短剣を、思いっきり的へ投げたら、どうかなって」


 怯える様子を見せながらの提案だが、投げるのなら的の破壊を気にせず思いっきりできる上に、投擲という技術も練習できる。

 一石二鳥のこの案にシューゴは二つ返事で乗った。


「それだ、ありがとう」

「ど、どういたしまして」


 思わぬ良案にお礼を言い、「具現短剣」で短剣を作り出したところで、ふと思った。これは投げても大丈夫なのかと。

 「具現短剣」は投擲に使うことなど考えずに創ったため、これを投げたらどうなるのかが分からない。

 そのまま具現された状態を維持するか、はたまた手元を離れるか何かにぶつかったら消滅するか。

 解除しない限りは消えないようにはしているが、投げるという未知の領域だけにどうなるのかが不明だ。


(とにかく、やってみるか)


 考えていても結論は出ない以上、とりあえずはやってみようと投げてみることにした。どうせなら少しでも不満を発散させようと、大声を出しながら。


「こん……にゃろっ!」


 練習も何もしていないフォームは不恰好で、しかも放たれた短剣は投げ方が悪いせいで妙な回転をしながら飛んでいく。

 当然そんな投げられ方をした短剣が的に当たるはずは無く、大きく外れて地面に刺さった。

 ところが短剣はそのまま霧散して消えることなく残っており、投げられることが可能だと分かっただけでも収穫と言えば収穫と言える。

 投擲という選択肢が出来た事で戦術に幅ができたシューゴは頷き、今度は具現化の解除を試みる。


(解除)


 地面に刺さったままの短剣の具現化を解除すると、短剣はその場で霧散して消滅。後には地面に刺さっていた痕跡だけが残った。


(なるほど、この距離で消す事も可能なのか。これなら投げた後で、相手に利用される前に消す事もできるな)


 思わぬ発見に笑みを浮かべるが、ストレス発散中なこともあって悪い笑みのように見え、気の弱いクラスメイト数名がはちょっとだけ怯えた。

 その後は短剣を生み出しては不満を口にしながら投げるのを繰り返すが、やったことの無い投擲がそう簡単にできるはずがない。

 悉く的から外れて明後日の方向に行ったり地面に刺さったりして、結果的に一本も当たらないどころか掠る事も無く授業は終わる。

 しかし溜まっていた鬱憤は解消できたようで、シューゴはだいぶスッキリした表情になっていた。


「不満は発散できたけど、上手くいかないもんだな」


 教室に戻り、スナップスローの動作を繰り返しながら投擲の成果を思い出す。


「そりゃあ、初めてだから仕方ないんじゃね?」

「初めてでいきなりできたら、僕は才能っていう理不尽さを恨むだろうね」


 普段通り近くの席に座るカズトとトシキは投擲するような武器ではないため、技術的な話はしない。

 そもそも、誰もが魔法を創って使えるこの世界では投擲系の武器を使う人は少ない。弓矢は狩猟の関係でそれなりの人数はいるが、短剣やナイフを投擲するのは苦し紛れの手段という認識がほとんど。加えて武器を手放すというイメージもあって、マイナーな技術として扱われている。


「ところでパーティーの件だけどよ。本当に俺達でいいのか?」


 パーティーは必ずしも同級生と組む必要は無い。

 上級生と組むことによって卒業後、先に冒険者として活動している先輩の下でパーティーに加えてもらい、実際の冒険者としての活動を教えてもらえるという利点もある。

 その一方で先日のワタリのように下級生を小間使いのように扱うつもりでいる場合もあるため、一様に良い事とは言い切れない。

 特に女子生徒は下心で狙われることが多く、慎重に相手を選ぶよう教員は呼びかけている。


「シューゴ君なら、もっといい人達と組むこともできると思うよ?」


 これまでにシューゴを勧誘してきた上級生の中には、新入生の間でも名が知れ渡っているパーティーからの誘いもいくつかあった。

 しかしシューゴは、それすら全て断っている。


「こういうのは、気兼ねなく付き合える相手と組む方がいいと思うんだ。上級生と組んだら、上下関係とか面倒そうだし」


 背もたれに寄りかかりながらそう言うと、カズトが笑みを浮かべて同意する。


「あっ、それは俺も同感。この前のワタリって先輩だっけ? ああいう勘違いした人がいそうで嫌だ」


 だよなと返して互いに笑っていると、遠い目をしたトシキが溜め息を吐きながら語りだす。


「……僕ね、明らかに女子と間違われて下心丸出しで勧誘された事があるよ。男だってことを証明したら、男ならいいやってあっさり引いたし」


 話を聞いたシューゴはどうやって証明したんだろうという思いと、やっぱりそういう目的の勧誘もあるんだなという思いで微妙な表情を浮かべ、そういうのを気にしないカズトは腹を抱えてゲラゲラと爆笑する。

 周囲でそれを偶然耳にしていたクラスメイトは、男女関係無くトシキを少し気の毒に思った。


「まあ、そういう奴らの下に行かなくてよかったじゃないか」

「そうそう。両刀使いだったら、今頃トシキの尻が狙われ――」

「やめてよ! 勧誘に来たうちの一人が、それはそれでって言っていたからさ!」


 机を叩いて叫ぶ姿に爆笑するカズト以外、誰もが彼を気の毒に思うしかなかった。

 一部の腐った思考を持つ女子は除いて。


「ちょっとどうしたの? うちの可愛い弟が嘆いてるけど」


 可愛いは余計だよと、強い口調で反論するトシキをスルーしてシューゴが理由を説明すると、遠い目をしたコトネは無言で首を横に振ってトシキの肩に手を置く。


「姉さん、その反応は何!?」


 姉からの反応に困惑するトシキに対し、姉だからこその何かがそこにはあるんだろうと周囲は感じ取った。

 それが何なのかは、皆優しいので聞くことは無い。


「それはそうとカタギリ殿。私達もパーティーに加わってよろしいのですか?」


 シューゴはカズトとトシキだけでなく、コトネ達もパーティーメンバーに誘っていた。

 特に下心は無く、休み時間や放課後の鍛錬で何かと一緒に行動してきたことから、気楽に接することができる相手だと思ったから誘っただけ。

 複数人が一緒になって行動する以上、個々の強さよりも人間関係が良好かを優先しての誘いだった。


「せっかく入学初日から知り会ったんだし、今日まで特に仲違いとかも無いからいいかなと思って。断わるなら断るで構わないけど?」

「そのような事はありません。カタギリ殿がお師匠から教わった鍛錬は理に適っているので、是非ご一緒させてもらい、共に鍛えあって更なる高みへ――」

「シノブちゃん、長いよ……」


 鍛錬の事となると語りが長くなるシノブの癖も慣れたが、うんざりしない訳ではない。

 事実、長いと言ったアカネがうんざりした表情をしている。


「そんじゃあ、昼休みにでも申請出しに行こうぜ。こういうのはさっさとやった方がいいからさ」


 カズトからの提案に全員が賛成し、昼休みに六人揃って職員室を訪れてユウへパーティー申請書を提出した。

 これを提出する時にはルールがあり、新規パーティー申請の場合はメンバー全員が揃った状態で提出。パーティーメンバー追加申請の場合は、リーダーが新規加入者を全員連れて提出するのが決まりになっている。

 過去に本人の同意無しに勝手にメンバーに加えて揉め事になって以降、こうしたルールを設けてトラブルを避けている。


「はい、あなた達六人の新規パーティー申請を受理したわ。リーダーはカタギリ君でいいのね」

「……大丈夫です」


 本人はどこか解せない表情で頷く。

 というのも、リーダーを決める際に実力的にも鍛錬の時にも中心的な位置にいるからとカズトが言いだし、それにトシキとコトネとシノブも乗っかり、半ば押し付けられたような形でリーダーになってしまったからだ。

 それでも最終的には折れて引き受ける辺り、シューゴはお人好しだったりする。


「あの……ごめんね」


 唯一人、賛成に乗っからなかったものの明確に反対もしなかったアカネが小声で謝ると、謝るくらいなら反対してほしかったと思いつつも気にするなと返した。

 今さらそんな事を言っても決定が覆ることは無いと、場の雰囲気的から察して諦めている。


「分かっていると思うけれど、あなた達が依頼を受けられるようになるまではまだ数日あるわ。その間に体だけでなく心の準備もして、焦らずに依頼をこなすのよ」


 依頼はどれも冒険者どころか一般人でも出来るような内容ばかりだが、どんな依頼であれ真剣に取り組むことが大事。

 冒険者側にすれば大したことがない依頼でも、依頼者側からすれば大事な依頼には違いないのだから。


「分かりました」


 シューゴがしっかり返事をするとカズト達もそれに続き、六人の返事を聞いたユウは満足そうに笑う。


「できればアズマ君は、座学の授業でもそうやって真剣でいてくれるといいんだけどね」


 さりげない呟きにカズトの体がビクリと跳ねる。

 彼は今日までに既に四回、例のおしおきを受けていた。何度おしおきを受けても学習しない彼は、残念イケメンとしてクラス内での地位を確立していた。

 本人の望む望まないに関わりなく。

 ちなみにトシキも複数の呼び名の下でクラス内での地位を確立しているのだが、本人の名誉のためにどんな呼び名を付けられているかは本人には伏せられている。


「が、頑張ります……」


 口ではそう言っていても、視線を逸らしていては説得力は無い。

 するとユウの笑みが笑っていない笑みへと変わり、視線どころか顔も逸らそうとしているカズトへ顔を近づける。


「あらアズマ君? ちゃんと、先生の、目を、見ながら、言いなさい?」


 所々で区切る度に接近するユウの迫力に押されたカズトは顔も視線も正面を向き、巻き込まれたくないシューゴ達は静かに距離を取った。


「さあ、言・い・な・さ・い」

「座学の授業を真剣に受けるよう頑張ります!」

「うん、よろしい。午後の座学の授業、期待しているわね」


 許しを出したユウの表情が通常の笑みに戻ったことで、迫られていたカズトだけでなくシューゴ達もホッとする。

 それとシューゴ達は気づいていないが、周囲を見渡せば他の教職員達も胸を撫で下ろしている姿がある。

 彼らが何故安心しているのかは、当の本人達にしか分からない。

 ナチュラルオネェ教師には謎が多かった。



 ****



「で、結局眠りかけて危ないところを俺とトシキに救われた訳だ」


 注意されたのに午後の授業で寝そうになったカズトは、両隣に座るシューゴとカズトによって起こされておしおきを回避した。

 鍛錬のために校庭へ向かう途中、その事を指摘されたカズトの表情が曇る。


「感謝してるぜ、肘打ちされた脇腹と踏まれた足の痛み以外は」


 起こし方はいつも通り、シューゴが肘打ちを脇腹に入れてトシキは足を踏みつけていた。


「どついてでも起こしてくれって、前に言ったじゃん」

「うぐぅ……」


 文句を言われる筋合いは無いと言いたげにトシキが頬を膨らませながら言うと、実際にそう言っていたカズトは押し黙ってしまう。

 船を漕ぐ前に起こされたお陰でおしおきは受けずに済んだのだから、余計に何も言えない。


「ていうか、さっきの今で寝るなんてアホでしょアンタ」

「午後は魔物についての授業だったんですから、真剣に聞いていないと駄目じゃないですか」


 前を歩くコトネとシノブからも指摘されたカズトは肩を落とし、腰を前へ曲げて真下を見るほど項垂れて落ち込むが、自業自得なため誰も慰めようとしない。

 指摘はしていないがフォローもできないアカネは心の中でごめんなさいと告げるだけで、それ以上は何もしなかった。

 この後の鍛錬でカズトは、悲しい気持ちを晴らすように声を上げながら走り続けた。


「ちっくしょおぉぉぉっ!」


 まるで告白して振られた後のように走る姿へ多くの優しい眼差しが向けられるが、それが勘違いだと知る者はシューゴ達以外にはいない。


「あいつ、あんなペースで走って大丈夫か?」


 今はまだ何かを想定して走っているのではなく、ウォーミングアップ段階の軽いランニング程度。

 それなのに最初から全力で走る様子に、この後の鍛錬は大丈夫かと不安を覚える。そして案の定、駄目だった。


「もう……無理……」

「同じく……」


 この日も内容的に濃い鍛錬をしたことにより、毎回動けなくなるトシキだけでなくカズトも疲労で動けなくなっていた。


「そら見たことか」


 ぐったりして地面に仰向けに倒れる二人を前にシューゴは呆れる。

 いつもこんな調子のトシキはともかく、ウォーミングアップ段階から全力だったカズトが倒れるのは当然と言える。


「それで、どうするのよこれは」


 倒れている双子の弟をこれ扱いする姉に言い返す気力すら無いトシキを、腰に手を当てたコトネが指差す。


「私達も結構ギリギリですから、運べません」

「ごめん……なさい」


 手伝いたいが体力的に無理なシノブとアカネが断りを入れ、自分も無理だとコトネも告げる。

 回復するまで待つのも一つの手だが、下校時間が迫っているためいつまでもこうしている訳にはいかない。

 いっそ引き摺っていきますかとシノブが提案すると、その必要は無いと返したシューゴは二人を肩に担ぎ上げた。


「おおぅ、見た目によらず力あるんだね」

「この寝ぼけ野郎には負けるけどな」


 戦い方の違いによる体の鍛え方の違いもあり、純粋な力だけで比べればシューゴはカズトに劣る。

 速さや技術、さらにコタロウに受けた身体的だけでなく思考的な訓練もあって、総合的な実力はシューゴの方が上だが、力比べだけの展開になればカズトに押されてしまう。

 そんなシューゴでも、同い年の男子二人を担げられるくらいには鍛えている。

 周囲からお持ち帰りだとか言われているのを無視し、担いだ二人を連れてコトネ達と共に寮への帰路へつく。


「というかトシキ軽いな。ちゃんと飯食って鍛えているのに、何でこんなに軽いんだよ」

「知らないよぉ……」


 しっかりと鍛錬をして、くたびれながらもしっかり食事をしているのに軽い体とあまりつかない筋肉。

 元々そういう体質なのか、入学前に訓練をしてくれた元冒険者からもそう言われていたとコトネが言う。

 手足を見れば薄っすらと筋肉がついているのは分かるものの、イマイチ頼りない。


(それで補助系魔法が必要なのかな?)


 初日にどんな魔法を創っていきたいか話した時、トシキが補助魔法を重視したいと言っていたのを思い出す。

 補助魔法は周囲を索敵したり、身体能力を上げたり、使用者や仲間を支援する効果を持った魔法全般を指している。

 体が思うように成長しない体質だからこそ、そういった魔法が必要だと思ったんだろうとシューゴは自分の中で納得して頷く。なお、その推測は概ね間違っていない。


「ところで、最初に依頼を受けるとしたらどんなものにしますか? やっぱり戦う系ですかね」


 鍛錬で疲れているはずなのに、妙にやる気は満々のシノブは鼻息を荒くして張り切っている。

 そんな彼女には悪いと思いつつアカネが告げる。


「あ、あの、シノブちゃん。学生向けに回された依頼じゃ、戦う系なのは畑に出る害獣の駆除くらいだよ?」

「そうなんですかっ!?」


 せめて野生動物の狩りくらいはあると思っていたシノブは、軽くショックを受ける。


「それにね、そういう依頼は二年生か三年生しか受けられないらしいよ」

「なんと……。残念です」


 目に見えて落ち込むシノブの姿が、鍛錬前のカズトとそっくりなのでついシューゴ達は笑いそうになる。

 それを堪えながらシノブを慰め、当日の依頼を見て決めようという事で落ち着いた。

 そして数日後。入学して一月が経って事務所で依頼を受けられるようになった生徒達へ向けて、教壇に立つユウが真剣な表情で教えを説く。


「皆がこれから受ける依頼は、どれも簡単なものばかりよ。でもね、だからといって手は抜かないようにね。そしてそれは、依頼する側にとって大事な依頼だからというだけじゃないわ」


 子供のお守りや店番もできない冒険者には、要人警護や商隊の警護の仕事は務まらない。

 普通の薬草の採取もできない冒険者には、貴重な素材を集める仕事は務まらない。

 お使いもできない冒険者には、貴重な品や手紙を届ける仕事は務まらない。

 来年にならないと依頼を受けられないが害獣駆除もできない冒険者には、魔物の討伐依頼など務まらない。

 そんな何の仕事も務まらない冒険者には、冒険者という仕事すら務まらない。


「例え学生向けの大したことない依頼であっても、冒険者としての仕事の入り口には違いないわ。それもできず入り口に立つことすらできなかった子は、悪い事は言わないから別の仕事を探すのを勧めるわ」


 この教えに気が緩んでいた生徒は気だけでなく、表情も引き締めて話に聞き入る。

 他にも二、三の注意を促すとユウは表情をいつもの優しいものに変えた。


「忘れないでね。これがあなた達の冒険者としての最初の一歩だってことを」

『はい!』

「それじゃあ、気をつけていってらっしゃい」


 しっかりと返事をした生徒達は送り出す言葉を聞くと、事前に組んだパーティーで集まって事務所へ向かう。

 彼らの冒険はこの一歩から始まる。


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