師匠との手合わせ
思わぬ形でコタロウと再会したシューゴ。
ここではなんだということで場所を冒険者ギルドへ変え、そこで仲間達を交えてコタロウと向き合う。その一方で……。
「先日は、大変失礼しましたあぁっ!」
前日にギルド内で冒険者という職業に対する不適切な発言をしたホノカが、全力で謝罪を繰り返していた。
傍らにはトシキがいて、あの後でどのような教育的指導を施して反省させたのかを集まった冒険者へ説明している。
そんなことをしていたのかと付き添っている彼女の友人達は青ざめ、あの場に居合わせたり話に聞いていたりした冒険者も身に染みて分かったのならと幾分か納得。しかし主にベテラン勢から自分達にも説教をさせろという声が上がり、正座をさせられたホノカへ叱責とも長い経験に基づく教育とも授業とも言える説教が始まった。
念のためにその場にはトシキが残り、彼女の友人達はシューゴ達の下へと向かう。
その間に何をしていたのかを詳しく聞いたコタロウは、弟子がこうした面をしっかり学んでいるのを知って微笑む。
「冒険者学校でしっかり学んだようですね」
「はい。厳しく教わりました」
できれば思い出したくないその厳しさの内容は、前回も述べたが語られることは無いだろう。
「しかしまさか、こういう形でシューゴ殿と再び会えるとは思いませんでした」
「俺もですよ。まさかパーティーメンバーの妹の友人が師匠の娘さんだったなんて」
「人の縁とは不思議な所で繋がっているものですね」
師と弟子として二人が会話する一方、シューゴのパーティーメンバーはコタロウを眺め、コタロウの娘である双子の少女達は興味深そうにシューゴを見ている。残る三つ編みおさげのメガネ少女は何度も心配そうにホノカへ視線を送っている。
「ところで師匠は今?」
「君の指導を終えた後、以前に言ったようにギルドで教官教育研修を受けましてね。無事に合格し、今はギルド所属の教官として後進の面倒を見ています。現役とはまた違った刺激があって、なかなかに楽しいですよ」
引退後に進んだ指導者の道を語る様子に、少なからず気になっていたシューゴは安堵する。
「君も君で色々とあったみたいですね」
「知っているんですか?」
「仮にもギルドに所属しているんですよ? プリンセススパイダーを討伐したとか、Dランクになったとかの話はギルド間の情報共有で耳にしています」
冒険者ギルドは各支部と本部の間で定期的に連絡を取り合っており、最近の動向や上位冒険者の所在地等の情報を共有しあっている。
そうした情報は有事の際の対応に活用したり、貴重な魔物の素材や珍しい薬草等の扱いに関するやり取りをしたりする。
「それで? どういう経緯でプリンセススパイダーを一人で討伐した、という事になったのか教えてもらいたいですね」
ニッコリ笑って告げたのに発する空気には幾分かの圧があり、軽くとはいえ元Bランク冒険者が発するそれに誰もが怯えや恐怖や寒気を覚える。
詳細までは伝わっていないのか、おそらく自分一人しかいない状況で無茶をしたと思っているのだろう。そう判断したシューゴはその時の出来事を詳細に説明していき、立ち向かった理由が仲間を見捨てられないからだと知ると圧は消えた。
フッと体が軽くなったような感覚に、一同は揃って胸を撫で下ろす。
「なるほど、そういうことでしたか。てっきり生き残ることより、討伐の名誉を選んだのかと思いましたよ」
何事も無かったようにコタロウはそう言うが、圧に当てられていた面々はそうはいかなかった。
特にまだ未成年で、冒険者のいろはも知らない彼の娘達やメガネの少女はまだ怯えが窺える。
「師匠の教えは忘れていませんよ。でもあの時は、自分だけ生き残るより仲間を見捨てられない気持ちの方が勝っちゃって」
下手に隠し事をせず正直に述べるとコタロウは小さく数回頷く。
「そういう場面を経験できたのは貴重でしたね」
「それはどういう?」
「重要な情報を持ち帰るため自分だけは何が何でも逃げ延びるか、仲間を見捨てられないから戦うか。これは冒険者にとって、正解の無い問題のようなものですから。おそらく、こうした場面は今後も経験すると思いますよ?」
どちらも正解とも間違いとも言いきれず、結局は選んだ結果がどうなるかでしか正解か否かは分からない。
今回は後者を選んで討伐に成功して全員が生き延びた以上、その時のシューゴの選択は正解だったと言ってもいい。そうコタロウは解説した後、注意点もしっかり伝える。
「基本的に前者が社会的な正解で、後者が人間としての正解と言っていいでしょう。今回後者を選んで上手くいったのは、幸運が味方したこともあると心に留めて今後も精進するようにしてくださいね」
「分かりました」
昔を思い出すような注意のされ方にシューゴは大人しく頷く。
そうしたやり取りを見ていたカズトは、そっと隣に座るコトネへ小声で話しかける。
「なんか、シューゴの師匠なんだって納得できる人だな」
同意したコトネは小さく頷く。
「そうね。こういう人に教わっていたのなら、シューゴみたいに育つのも納得できるわ」
技術的なことや知識的なことを教えるだけでなく、それらを理論的に説明することで意味合いや必要性を説く。こういう指導のされ方をしていたからこそ、入学時点で実力だけでなく意識的な差があったのだろうとコトネは思った。
そう思ったのはシノブとアカネも同様で、こういう人物から二年も指導を受けられたシューゴが羨ましくなった。
実のところ、指導者にコタロウと出会ったことやプリンセススパイダーを討伐できたのに少なからず関わっていた幸運は、神がお詫びにと与えた少しばかりの幸運体質が関わっている。
ただし、全てが幸運の一言で済まされる訳では無い。
この二点において働いた幸運はコタロウと出会えたという事と、プリンセススパイダーを相手に勝利して全員で生きて帰れたということだけ。
もしもコタロウからの指導を真面目に受けなかったり挫折したりしていたら、プリンセススパイダーと戦うのではなく仲間を見捨てて逃げ延びることを選択していたら。これらの幸運は働かなかっただろう。
所詮は少しばかりの幸運が働くには、本人がそれなりの覚悟なり気概なりを見せなければならない。
しかし、当の本人も周囲もそんな事は知らない。まさに神のみぞ知る、という訳だ。
「ですが、そうした幸運を持ち合わせているのも良い冒険者の条件の一つです。そういう意味ではシューゴ君達は良い冒険者になれる資質がありますね」
だからこそコタロウもこの幸運を資質の一つと捉え、先ほどの鞭に対する飴として褒める。
彼らがその幸運に関する真実に辿り着くことは、一生をかけても無いだろう。
ちなみにこの幸運だが、プリンセススパイダーの糸から脱出する際にコトネとシノブが濡れ鼠になった時や、女性陣が粘滑ダコに絡まれた時も地味に発動していたりする。
「幸運に頼るなと言われた直後に幸運を褒められても、なんか微妙な気分になりますね」
苦笑いを浮かべるシューゴの言葉に周りもその通りだと思っている最中、ようやく解放されたホノカがトシキと共に合流する。
「あうぅ……。色々言われ過ぎて、頭痛いよう……」
合流するなり椅子に座ってテーブルに身を預けるホノカは、頭から湯気が出ていそうなほどぐったりしている。
そんな彼女へ友人達は揃って突き放す言葉を投げた。
「「自業自得だよ」」
「なりたい職業の下調べぐらいしなさいよね」
「うぐぅ……。反論できないよぉ……」
現実を思い知らされたホノカは反論することも、思い知らされる前のようにどこ吹く風と流すこともできない。
それはそれでちょっとは成長が見られた。
「ところでホノカ。あれに懲りたら、ちゃんと勉強する?」
「はぁい……。来年冒険者学校に行くよ……」
理解も納得もしていてもやはり勉強は嫌なのか、口に出していなくとも表情と発する空気が嫌だと言っている。
「大丈夫ですよホノカ殿。ここにいるカズト殿が無事に卒業できたのですから」
「おいこらシノブ! そりゃどういう意味だ!」
「そのままの意味ですが何か?」
「だな、先生からの謎の呼び出しの常連だったから」
「そうだね。座学で僕とシューゴ君に起こされ続けたから」
「頭は悪くないのに座学限定で集中力がね」
「あの事件の後も気合いが入りすぎて逆に気疲れして寝そうだったしね」
「ちくしょう! 味方が一人もいねぇ!」
仲間達から悉く駄目出しされた残念イケメンに、顔が好みかもと思っていた双子姉妹からの好感度がちょっとだけ下がり、代わりに同類を見るような目をするホノカからの好感度が少し上がった。
「アスカ、アスハ。あなた達も冒険者学校に行きますか?」
「行く」
「ていうか学校に行かないっていうのは、ホノカちゃんが勝手に言ってただけだし」
「私もパパとママにはそう言っているわ。良かったわねホノカ、ひとりぼっちでの冒険者登録にならなくて」
自分達はちゃんと冒険者学校に行くつもりだった双子姉妹とおさげメガネ少女の発言に、嘘と言いながらホノカは軽くショックを受ける。
いくら同じ職業を目指す友人であっても、将来の進み方まで同じとは限らないのだ。
「ていうか師匠の娘さんって、アスカさんとアスハさんっていうんですか」
「おや、聞いていなかったのですか? では二人とも、ちょうどいいので自己紹介を」
「「はーい。私達……」」
声を揃えながら立ち上がった二人は、何故かそれぞれポーズらしきものをとる。
「姉の方のアスカと!」
「妹の方のアスハ!」
どちらも決め顔で決めポーズらしきものを取るが、顔はともかくポーズが絶妙に決まっていない。
カッコワルイともダサいとも言える。
「「未来の最強冒険者姉妹!」」
最後に二人揃っての決め顔と決めポーズをするが、これも顔はともかくポーズが絶妙に決まっていない。
誰も何の反応も見せず、父親のコタロウでさえ遠い目をしている始末。
やがて何事かと見物していた冒険者達は見なかったことにして仲間との会話を再開し、シューゴ達はまだ名前が不明な三つ編みおさげのメガネ少女へ視線を向ける。
それに気づいた彼女は姉妹から目を外して自己紹介をする。
「申し遅れました。私はマリと申します、以後お見知りおきを」
名前を述べて軽く会釈するマリにシューゴ達も会釈で返す。
その際にシューゴが彼女の名前に何か引っかかった気がしたが思い出せず、だったら大したことじゃないんだろうと流した。
するとポーズを決めたままだった姉妹がポーズを解いて文句を言いだす。
「ねえちょっと!」
「持ちネタを無視されるのが一番辛いんですけど!」
「「せめて、「ポーズダサッ」の一言くらいください!」」
今のが持ちネタの上にポーズがダサい自覚はあったんだと誰もが思うが口にはしない。今言ったところで、何の意味も無いからだ。
しかし、それが分からない者は一人はいる。
「ポーズダッサ」
「「今さら言われても傷つくだけだよホノカちゃん!」」
よくもそう声が揃うものだと、同じ双子としてコトネは興味を示すように頷く。
「シューゴ殿。私、娘の育て方を間違いましたかね?」
「安心してください師匠。まだ若いんですから、矯正できるはずです」
「「おとーさんとおにーさんまで酷い!?」」
「くくくっ」
ここまでくるともう笑うしかないのか、一連のやり取りを見届けたシノブが笑い出す。
やがてカズトにコトネにホノカへと伝染し、気づけばその卓にいる全員が笑っていた。
そうしてひとしきり笑った後、ふとシューゴはあることが気になった。
「そういえば師匠。今日は仕事はいいんですか?」
娘達の要望を聞いてホノカが無事かの確認へ向かおうとしていた上、こうして一緒に会話をしている以上は休みなのだろうが一応聞いてみた。
「ええ、今日はお休みです。体を休めるのも冒険者のやるべき事の一つ。鍛えるためとはいえ常に体を酷使しても、その後に待っているのは蓄積された疲労による自滅ですから」
同じようなことをかつて説かれたシューゴは、なんだか少し懐かしい気分になる。
自分もこうした修業の日々を送っていたんだなと思い出に浸っていると、コタロウからある提案をされた。
「ところでシューゴ殿。もし時間があるのなら、手合せをしませんか?」
「……えっ?」
「一番弟子がこの三年でどれだけ成長したか、師として気になるので見せていただけませんか?」
思わぬ提案に全員が黙り自然とシューゴへ視線を向ける。
一方のシューゴの中ではもう結論は出ていた。
修業をつけてもらっていた頃にも手合せは何度もやっていたが、ほとんど近接戦闘の練習と言っていいほど一方的な展開にしかならなかった。
全力の体術も魔法もそれらを組み合わせた攻撃も全てが軽くあしらわれ、ほとんど魔法も使われずに対処されてしまい何度も悔しい思いをした。
さすがにたった三年で追いつけるなどシューゴは思っていないものの、こう言われるとどれだけ通じるようになったのかは気になって仕方なくなってしまう。
「やりましょう。この三年の成果、ぶつけさせてもらいます」
無意識のうちに笑みを浮かべてしまいながら承諾すると、コタロウも笑みはそのままに雰囲気が変わる。
「よろしい。では鍛錬場では他の方の迷惑になるかもしれないので、ちょっと外へ出ましょう」
この場合の外というのはギルドの外という意味ではなく、帝都の外を指す。
周りの人的被害を気にせず全力でかかってこいという意味が含まれている事を察したシューゴは、自然と高揚感が湧いてきて拳を握る。
「分かりました。行きましょう」
「あの、見学してもいいでしょうか?」
師弟対決に興味が湧いたシノブが提案するとコタロウは少し考え、肯定の意味で頷く。
「構いませんよ。その代わり、何かあったも自分の身は自分で守ってくださいね」
「俺もそっちに気を配ってる余裕ないから、何かあっても自分で対処してもらうぞ」
「分かりました! 自力でなんとかします!」
「あ、あの、俺も」
「私もお願いします」
躊躇無く了解したシノブに続いてカズトとアカネが見学を希望すると、さらにコトネとトシキだけでなくホノカ達まで自己責任でいいから見学したいと言いだす。
さすがにホノカ達はどうかとコタロウは苦い表情をするが、複数人を守れる防御魔法を創っているコトネとトシキとアカネがいるから大丈夫だろうとシューゴが説明。その三人の傍を離れない事を条件に見学が許された。
「では、行きましょうか」
「はい」
席を立つ二人に続き見学する一同も席を立ってギルドを出る。
向かうのは帝都の北門を出てしばらく歩いた場所に広がる草原。ここならば人的被害だけでなく、自然破壊による生態系への被害も出ないだろう。
対峙するシューゴとコタロウは準備運動をして体をほぐし、それを離れた所で見守る一同はまだ戦ってもいないのに緊張が窺える。
「おとーさんが戦うの見るのは初めてだね」
「うん。強いって話だけど、どうなのかな?」
初めて見ることになった父の戦闘にアスカとアスハは緊張しつつも、どこか興味津々だった。
手を合わせてまだかまだかと二人の様子を見守る。
「お姉ちゃん。シューゴさんって強いの?」
「私達の中ではね。でも多分、勝てないと思う」
ホノカからの問いかけにアカネが勝てないと断言すると、カズトがその判断に首を傾げる。
「いやいや。元Bランクとはいえ、もう引退してんだろ? さすがに衰えてるんじゃねえか?」
甘い考えと見通しを口にしたことにコトネは首を数回横に振り、苦言を呈する。
「バカね。そんな人があんな迫力を出せると思っているの?」
「コトネ殿の言う通りかと。油断などできません」
「引退したからって衰えているとは限らないからね」
「……始まりますよ」
双方が準備運動を終えるとシューゴは差していた短剣を二本とも抜き、コタロウは無詠唱で発動させた収納系魔法から短剣を二本取る。どちらも訓練用に刃を潰してあるもので、仮に直撃しても斬れることはない。
「ところで師匠。体はどうですか?」
「目は良くはなっていませんが、悪くもなっていません。体もあれから衰えているつもりは……ありません」
体の状態を説明し終えた直後、先ほど以上の威圧感が襲ってくる。
特に正面から対峙するシューゴは空気がビリビリと肌へ伝わってくるような感覚を覚え、思わず身構えて一歩下がってしまう。
これが引退した冒険者の放つ迫力なのかと早くも実力の差を実感させられつつ、修行をつけてもらっていた頃はいかに加減されていたのかも実感する。おまけにこの手合わせも本気のぶつかり合いというよりも、弟子の成長具合を確認する要素が強い。
ひょっとすると、今のこれですら本当の本気ではないのかもしれない。
そう思うとこれくらいで引けるかと下げた一歩を踏み出し、構えを取ってみせる。
「よろしい。引いたままだったら精神面の鍛錬が足りないところですが、持ち直したのなら及第点ですね。では、いつでもどうぞ」
既に成長の確認をされていた事に苦笑するシューゴは、及第点はもらえたんだからと前向きに捉えて無詠唱の「身体強化」を施す。
「なら遠慮なく!」
喋っている最中に駆け出し、真正面から突っ込んで斬りかかる。
フェイントも何もしないただの突進攻撃にらしくないと思いつつコタロウが左右からの連撃を防御すると、即座にシューゴはバックステップで距離を取りながら「螺旋廻弾」を放つ。
(前後での揺さぶりですか? 確かこの魔法は軌道変化の無い弾丸だから、範囲外へ避ければ――えっ?)
「螺旋廻弾」の範囲外へ退避しようとするコタロウだが、弾丸の先端が微かにブレているのに気づく。
それは自身がシューゴにも教えた軌道変化を見抜く方法で、当然それはコタロウも実行することができる。それにより軌道変化があることに気づいたコタロウは即座に対応する。
(はんのうきょうか)
魔法により反応速度を強化したコタロウは迫る「螺旋廻弾」を全て回避するが、弾丸は軌道変化して再びコタロウへ迫る。
(ただの軌道変化ではなく、追尾効果。この魔法にそんな効果は無かったはず。となると別の魔法による後付け効果ですね。「まりょくのよろい」!)
回避しきるのは不可能と察したコタロウは防御用の魔法を使い、魔力による鎧を全身に纏って顔は腕で守る。
直後に「螺旋廻弾」が体の数ヶ所へ集中的に押し寄せるが、鎧を破壊することはできずに霧散して消えた。
(避けられないのなら防ぐまで。そして当然、これだけでは終わらない)
この後の展開を読んだコタロウが防御の構えを崩さないでいると、背後に回っていたシューゴが背中へ斬撃を数発叩き込む。
しかし防御を保ったままのコタロウには通じず、手応えからこの防御を物理攻撃で破るのは無理と判断したシューゴは即座に距離を取った。直後に反撃の短剣が目の前を通過する。もしも下がらなければ、この短剣が直撃していただろう。
「やっぱり読んでましたか」
攻撃を全て凌がれたにも関わらず、ある意味予想通りの展開にシューゴは笑みを零す。
「シューゴ殿こそ。防御を崩せないとみるや反撃を予測して即座の回避行動、見事でした。しかし初手の接近戦と見せかけた仕込みも、なかなかでしたよ」
「そっちも気づかれましたか。師匠は初見なんで、あわよくばと思ったんですが」
見学している一同は二人の言っている意味を理解できず首を傾げる。
初手に仕掛けた先の先とも言える真正面からの突撃は直後の魔法攻撃を絡めた前後の揺さぶりもあったが、それ以上にある魔法を仕込むためでもあった。それは「標的誘導」。
プリンセススパイダー戦とセンリとの手合わせにおいて、「標的誘導」の照準を上手く合わせられないという課題が浮上。その解決策の一つとして考えたのが、確実に照準を合わせるために至近距離で「標的誘導」を使うという手段。
最初の接近戦でそれを実行して照準を合わせたからこそ、直後の「螺旋廻弾」はコタロウを追尾した。
「標的誘導」を知らず、「螺旋廻弾」を知っているからこそ意表を突けると思っていたのだが、見事に防がれてしまった。
「おそらくは相手の体のどこかに狙いを定め、そこへ攻撃を誘導するのでしょう? そういう魔法には防御壁を作っても避けられる可能性がありますから、全身を防御魔法で覆うか体自体の防御力を上げる魔法で防ぐのが一番なんですよ」
要するに避けるよりも相手の攻撃力以上の防御力を身に纏って防ぐということだ。
そうすれば攻撃は防御魔法越しに当たるため、避けられる可能性のある防御壁よりも確実に防ぐことができる。
同じようで違う防御魔法の使い方に、シューゴだけでなく見学者一同も関心を示して頷く。今一つ理解できずに首を傾げるホノカ以外は。
「ですがシューゴ殿とて、防がれると思ったから背後に回っていたのでしょう?」
「師匠なら絶対に対応するだろうと思って。まあ、それも読まれて防御魔法を継続されて防がれましたけどね」
先ほどの僅かな攻防の中でそこまでの読み合いをしながら戦っていたのかと、話を聞いていた見学者一同は驚きを隠せないでいる。
特にシューゴとパーティーを組んでいる五人は驚くだけでなく、自分達にはそこまでのことができる自信が無いという悔しさが混じっている。
「さて、話はここまでにして続きをしましょう。いつでもどうぞ」
「そうですね。では遠慮なく!」
言葉通り遠慮なく仕掛けたシューゴにより、数百もの「疾風刃来」が一斉にコタロウへ降り注いだ。




