魔法解禁前日
この世界には魔王は存在しない。
人に似た他種族も存在しない。
存在するのは人類と動物と虫と魚、そしてそれを脅かす魔物と呼ばれる生物のみ。
人類は魔物と戦うべく力を持っている。
それは魔法。この世界の誰にでも使えて誰にでも習得できる力。
戦うために使おうが、日々の生活のために使おうが、全ては自由。
ただし過ぎたる力は与えられず、強力な力には相応の代償が与えられ、想像力無き力は暴走する。
魔法を求めるならば明確な想像力でもって過ぎたる力を求めず、己に与えられた数だけ言の葉を紡げ。
それがこの世界における魔法の鉄則であり大前提。
誰にも覆せない決まり。
昔の中国を思わせる町並みの中、住人達が生活しているチージア帝国の帝都。そこに建つカタギリ子爵邸の庭の一角で、家庭教師が魔法神の経典とやらを手に得意気に語る内容に、立ったままそれを聞かされたシューゴは自分の手の甲を見る。
(たった四文字か……)
この世界では身分を問わず誰もが魔法を習得できるが、魔法の習得方法が独特だった。
十歳になったら出せるようになる、魔法盤というものに自分が使いたい魔法をイメージしながら、その魔法を表す魔法名を書き込むことで、その魔法が使えるようになる。
要するに自ら魔法を創り出す訳だが、魔法名の文字数には制限がある。
使える文字数は一人一人違っていて、平均で六文字から七文字。最大で十文字、最小で四文字という記録がある。
文字数が多ければ多いほど、魔法の内容を明確に魔法名として表すことができるので良いとされており、実際に魔法の完成度も高い場合が多い。
その文字数は右手の甲に数字として浮き出るのだが、家庭教師の右手の甲には九と浮かんでいて、シューゴの右手の甲には四と浮かんでいる。
「この文字数は魔法神様によって決められています。数の多い者には栄光への機会を、少ない者には試練をお与えになっているのです。ですからシューゴ様も、この試練に打ち勝って一人前の――」
(うるさいなあ)
根拠も証拠も無い事をまるで真理かのように語る家庭教師に、何度も同じような話を聞かされてきたシューゴは嫌気が差していた。
こんなくだらない話を聞いているくらいなら、一ページでも多く本を読んでいたい。
そう思いながら、魔法を使うためには必須の鍛錬だと家庭教師から教わって以来、毎日欠かさずやっている魔力の制御鍛錬を続ける。
体内で魔力を循環させ、魔力が体の外へ漏れたり循環する速度が遅かったりしなければしないほど、魔力を制御できている証となる。
これを積み重ねることで魔法の威力を調整しやすくなったり、魔力の質を向上させたり、保有する魔力の量を増やしたりすることができる。
「おっと、そろそろ時間ですね。では私はこれで。シューゴ様、あなたも明日には十歳です。たった四文字とはいえ、素晴らしき魔法を作れることをお祈りしています」
四文字しか使えないシューゴを小馬鹿にするような発言を残し、家庭教師は去って行った。
「やっと帰ったよ。全く! 上司に薦められたからって、父上はいつまであんなの雇ってるんだよ」
相手が四男とはいえ子爵家の子息で自身は雇われた身だからか、家庭教師は直接的に何かをしてくることは無い。
間接的に、それも小者臭がするほど些細な嫌味を混ぜて口にするだけ。
その程度では問題行動や問題発言とは判断されないため、家庭教師という職を未だクビにならずに働いている。
「こんな気分を解消するには、本を読むしかない」
自分に言い聞かせるように呟いたシューゴは、魔力の制御を続けたまま屋敷へと走り出す。
彼としては四文字しかない以上は少しでも魔法を上手く扱うためという向上心から始めたのだが、動きながら魔力の制御を続けるのは簡単なことではない。
シューゴが動きながらの魔力の制御を始めたのは四年前。
当然、最初は上手くいかなかったが諦めずに一年も続けた頃にはできるようになり、魔力の制御をしながら日常生活を送れるようにまでなった。
なお、この技術は例え才能があったとしても一年やそこらで出来る芸当ではない。ましてや六、七歳の少年になど。
神によってこっそり底上げされた魔法力を持つシューゴといえども、一年で習得するには一日数時間、動きながら魔力の制御をしようと毎日鍛錬し続ける必要がある。
それを実行し、諦めずに続けて遂に習得したこの技術がどれほど高度なものなのか、習得後も毎日続けていたことで、どれだけ魔力の量を増やして質を高めて高度な制御能力を身に着けているのか、まだ魔法を使えないシューゴは実感しておらず気づいていない。勿論、周りの人間達も。
「到着!」
移動中にすれ違った使用人から、廊下を走るなという注意も軽くスルーして自室に辿り着いたシューゴは、自分だけの秘密の本として隠しておいた辞書を数冊取り出す。
あの時に神から受け取った辞書はすっかり彼の愛読書になっており、ボロボロになるまで読み込んでいてもまだそれを読んでいた。
「ふんふん……。ああ、やっぱりこの文字は凄いなぁ」
何度読んでも、その度に書かれている文字に感動を覚える。
書いてあるのは一文字なのに、読みは数文字分。
読みの方だけで書けば倍以上の文字数になる言葉さえ、この辞書の中には存在している。
シューゴは辞書というよりも、そこに書かれている文字や言葉に魅了されていた。
「この文字を使えば、たった四文字でも凄い魔法ができるだろうな」
鼻息を荒くしながら辞書を読んでいくシューゴの文字数に、侮蔑的な反応を見せているのは家庭教師だけではない。腹違いの兄である次男と、カタギリ家の第一夫人も同様の反応を見せている。
人前であろうとなかろうと侮辱したり暴力をふるっているわけではないが、明らかに見下してバカにしたような視線を向けてきているのは、誰の目にも明らかだった。
使用人達の反応はそれぞれで異なるが、せいぜい憐れむくらいで決して蔑んだりはしない。
他の家族達はどうかというと、文字数ことなど気にせず普通にシューゴと接している。
幼い頃に文字数が少なくてごめんなさいとシューゴが両親に謝ると、そんな些細な事で謝らなくていいと言ってもらえるぐらいに。
だからといって、それに甘えるつもりはシューゴには無い。
四文字しかないからといって、絶対に不幸になる訳じゃないという気持ちで辞書を何度も読み返し、凄い魔法を創ってみせると息巻いている。
(あっ、この言葉もなんか使えそう)
最初はただ楽しくて読んでいた辞書だったが、今では書かれている内容に対して真剣に向き合うようになった。
魔法名にこの言葉は使えないか、こういう魔法を表現するにはどんな文字や言葉が合うかを考えながら読むようになり、将来の仕事にしようとしている職業で使うための魔法を作るべく、創りたい魔法に合う言葉や文字を調べ、魔法名を頭の中で作り上げていく。
魔法名は右手に浮かんだ文字数以下であれば良いため、漢字を利用した二文字や三文字の魔法名も考案している。
何度も繰り返してきた、創りたい魔法のイメージを固めてそれを表現するための魔法名を作っていると、部屋の扉が強めにノックされた。
「シューゴ、いるか。入るぞ!」
返答も聞かずに一人の少年が入ってくるが、声が聞こえると同時にこの展開を予測していたシューゴは素早く辞書を隠し、表情をしかめて対応する。
「マサヨシ兄さん、せめて返答の有る無しくらいは確認してよ」
やってきたのは腹違いの兄の一人、マサヨシ・カタギリ。
カタギリ家の第二夫人の下に生まれた、シューゴより二つ年上の十二歳の三男。
優れた体格と短く切り添えられた髪と日に焼けた肌により、貴族の子息というよりは町のガキ大将に見える。
そんな彼は手にしていた鉄製の剣を肩に乗せて語りだす。
「だってお前、本に夢中で返事しない時があるだろ? だったら入って確かめた方が早い!」
そう言い切って大笑いするマサヨシは、頭で物を考えるのが苦手で考えるよりも行動を優先する。
堅苦しいのは性に合わない。貴族間のややこしい繋がりなど知ったことか。
親の前でもそう豪語する彼は、跡目を継ぐ可能性の低い三男なのをこれ幸いとばかりに喜び、成人したら家を出て国防軍に入って将軍を目指すと宣言していた。
現在は国防軍に入るために必要な教育を受けられる国立の防衛学校に入っており、入学直後にどうして座学があるんだという、絶望感溢れる手紙を送ってきたことがある。
普段は寮暮らしだが、数日前から長期休暇で帰宅している彼は、暇があればシューゴの部屋へやってきては手合わせに誘う。
「そんなことより手合わせをするぞ! 早く庭へ行こうじゃないか!」
「はいはい。分かった分かった」
うんざりした表情をしながら、シューゴは鉄製の短剣を二本取り出す。
この短剣もマサヨシの持つ剣も刃が潰してある練習用の物で、力によりけりだが当たっても精々打撲ぐらいで済む。
「体はちゃんと動かしているか? 冒険者になるのなら、本ばかり読んでないで体を動かさないとな!」
「分かってるよ。ちゃんと毎日短剣は振っているから」
マサヨシが言ったように、いずれ家を出る予定のシューゴが就こうとしている職業は冒険者。
実力だけがものを言う純粋で分かりやすい反面、全てが自己責任という、遺書は常に用意しておけな職業。
それでもシューゴが冒険者を選んだのは、マサヨシと同じく四男が家を継げるとは思っていないから。
加えて、常に仕事に縛られている訳ではないため、ある程度稼げさえすれば自由に本を読む時間を確保できるからでもある。
シューゴにしてみれば、父親のように城で働いたり領地を運営したりするだけでなく、マサヨシのように軍に入ることも本を読む自由を奪われる類の仕事に過ぎない。
何より、文字数が多かろうと少なかろうと実力を示せばそれが冒険者にとっての全て、というところが決め手だった。
「よし、いつでもこい!」
庭に出て対峙する異母兄弟。
やる気満々で構えるマサヨシに対し、シューゴは落ち着いて両手に短剣を持って構える。
誘われた時はやる気はさほどでもなかったが、場合によっては命の危険のある職業に就く以上は手合わせといえど手を抜かない。死んだらそこで本が読めなくなるのだから。
「じゃあ遠慮なく!」
素早いダッシュで接近し、ほぼ直前で方向転換して右側から攻撃するが防がれる。
さらに動いて逆側から、背後からと攻撃をしていくが全て防がれてしまう。
「相変わらず速いな!」
「そういう兄さんも、相変わらず堅いね!」
二人の戦闘スタイルは全く違う。
素早く動いて回避し攪乱し、緩急をつけながら攻撃する速度重視のシューゴ。
下手に動かず相手の動きをしっかり見切って反応し、防御して反撃する防御重視のマサヨシ。
片や堅い守りに攻撃を防がれ、片や素早い動きで攻撃を避けられる。
双方共に決め手の無いまま手合わせは続き、一時間後にはその場の流れで引き分けになった。
「くっそ、また引き分けか。でもいい鍛錬になるぜ」
いつの間にか庭にいた使用人からタオルを受け取って汗を拭くマサヨシは、満足したとばかりにハツラツとした笑みを浮かべている。
「学校の訓練の方がいいんじゃない?」
「確かに訓練メニューとかはしっかり考えられているんだけどよ、手合わせが物足りねえんだよ。同期でお前と同じくらい戦える奴がいなくてさ」
体格と筋量、それと動体視力に恵まれたマサヨシは防衛学校へ入学する前から剣を嗜んでいたこともあり、同学年では敵無し。
そんなマサヨシにシューゴが拮抗できるのは、神によってこっそり底上げされた身体能力があるからだけでなく、正面からの力勝負では敵わないと判断して対策を考え、自分にあってマサヨシに欠けている速さに活路を見出したからだ。
速さで優位に立つべくフェイントや緩急を工夫し、それを実行できるぐらいには自己鍛錬を積んできた。
でなければ互いに魔法無しとはいえ、年下のシューゴがマサヨシに敵うはずがない。
「上級生とは手合わせしないの?」
「しないんだよ。集団行動訓練の一環で一緒に行動することはあっても、戦うのはしないな」
やるとすれば年に一回の校内武闘大会だろうと言い、いつの間にか使用人が用意していた水を一気飲みする。
「おまけに、あんなに座学があるとは知らなかった! どうして体を張るのが仕事の軍人に、座学が必要なんだよ!」
防衛学校にはこうした勘違いをして入学する生徒が年に二、三人いたりする。
入試での筆記試験は読み書き計算ができれば大丈夫だが、軍人になると色々勉強しなければならないことがあるため座学は意外と多い。
そのため入学後、座学の多さに頭を抱える生徒はよく見受けられる。
「辛うじて赤点ギリギリで追試は回避しているし、その辺りの鬱憤は訓練で発散している。でも大事なことだからもう一度言う。なんであんなに座学が多いんだよ!」
「……まあ、一応国家公務員みたいなものだからね。勉強は大事なんじゃない?」
本を読むのが好きなシューゴはそこまで勉強が苦ではなく、どうしてそこまで座学が嫌なのかを理解しきれていない。
「しかし今の俺は、座学という呪縛から解放されている! さあ休憩は終わりだ! シューゴ、もう一丁いくぞ!」
笑いながら剣を数回振るマサヨシに仕方ないなと思いつつも、自身の鍛錬にも繋がるためシューゴは短剣を手に対峙する。
結局この日の二人の手合わせという名の勝負は、全て引き分けに終わった。
なお、この様子を見ていた神は。
「せっかく底上げしてやった身体能力を、素早さ以外には生かせておらんな。まあ、素早さもまだまだなんじゃがな。しかし、我流の鍛錬ではアレが限界かの。誰か良い師の下で学べば、話は別なんじゃろうが……」
そう呟きながら、泉に映るシューゴの様子を見守っていた。
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「で、引き分けばかりで決着つかずはスッキリしないからと、半ば強引に腕相撲をさせてシューゴの手を打撲させたんだね」
「説明台詞ありがとうございます、シューイチ兄さん……」
執務室のような造りの一室で向き合う異母兄弟。
大きな体を縮こませているマサヨシの正面に座るのは、顔は笑っているのに発する空気に全く穏やかさが無い知的な印象を与える少年。
彼はシューイチ・カタギリ。カタギリ子爵家の次期当主で、マサヨシとシューゴの異母兄にあたる長男。
成人である十五歳の彼は、昨年に貴族の跡継ぎや商人の子息が多く通う経済学校を卒業し、現在は父の下で次期当主としての教育を受けながら城で文官として働いている。
久々の休暇を家でのんびり過ごしている最中に起きた騒ぎを聞き、原因となった異母弟へ教育的指導をするためにこうして向き合っている。
「純粋な力だけでいえばマサヨシの方が上っていうのは、頭の足りない君にも分かるよね? そんな君が力任せに卓へ叩きつければ打撲するっていうのは、簡単に想像できるよね?」
「……はい」
普段は豪快なマサヨシも、こうなったシューイチの前では借りてきた猫状態。
あまり使わない丁寧な言葉で返事をしながら、体格や筋肉や戦闘力で遥かに劣っているはずの異母兄が発する無言の圧力に屈している。
「罰として学校から与えられた長期休暇中の課題を全て終えるまで、シューゴとの手合わせは一切禁止」
「そんな殺生な!」
「冒険者になりたい弟の、その資本となる体を破壊しようとしたんだ。これくらいは当然だよ」
「うぐぅ」
言い返せないマサヨシは項垂れ、学校から渡された課題の山を思い出しさらに落ち込む。
そこへ扉がノックされ、外からシューゴの声がした。シューイチが入室の許可をすると、右手に包帯を巻いたシューゴが入室した。
「やあシューゴ。治療は終わったのかい?」
「はい、シューイチ兄さん。治癒系の魔法を使ってもらうほどでもなかったので、この通り」
包帯を巻いた手を見せるとシューイチはそうか、とだけ呟いて笑みを浮かべる。
「な、なあシューゴ……」
ここで真剣に謝って許してもらえれば、先ほどの罰を少しは軽減してもらえるかもしれないと、微かな希望に縋りつこうとするマサヨシだが、その希望は一瞬で絶望へと叩き落される。
「あっ、マサヨシ兄さん。学校からこんなにもらったって泣いて見せてくれた、あの課題の山。全部終わるまでは手合わせはしないから頑張って」
「この世には神も仏もいないのかっ!」
そう叫んで泣きながら部屋から去って行くマサヨシに、その様子を見ていた神はいるぞと呟いた。
「あっはっはっ。母は違えどさすがは兄弟、僕と同じことを言うとはね」
楽しそうにするシューイチは座るよう促し、先ほどと弟が代わった形で向き合う。
「全く。マサヨシ兄さんにも困ったものだよ」
「そう言うなって。あいつはあいつなりに、お前のためを思ってのことなんだから」
「手合わせの方はそうかもしれないけど、その後の腕相撲は余計だよ」
痛めた右手を見せながら呆れるシューゴにシューイチは笑みを浮かべ、思い出したように席を立って一冊の本を机の上から持ってくる。
「そうそうシューゴ。前に言っていたあの本を入手できたよ」
「ありがとうございます、シューイチ兄さん!」
興奮した様子で受け取ったのは、数日後から発売予定のはずの有名作家の新作。
シューイチ曰く、経済学校時代の友人のツテで特別に発売前に入手できたとのこと。
一応発売日までは外へは持ち出さないでほしいと、補足するように注意を促す。
「分かった!」
返事をしながら満面の笑みで本を受け取り、早速その場で読み始める。
そんなに楽しみだったのかとシューイチは笑みを浮かべ、満足そうにその様子を眺める。
一瞬で集中状態に入ったこの読書は、途中でシューイチが声を掛けるまで続いた。
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一夜が明けた早朝。
普段よりずっと早く目覚めたシューゴが左手の甲を見ると、昨日まで無かった数字が浮かび上がっていた。
8/27
これは日付を表しているのではなく、その人物が創れる魔法の数を分数によって表している。分母が生涯で創れる魔法の総数で、分子が現時点で創れる魔法の数となっている。
シューゴの場合は現時点で創れるのが八個、いずれ実力を上げて創れるようになる魔法の総数は二十七個。
魔法の総数の平均は二十前後、最大数は三十が記録されているので二十七は多い方に分類される。
これらの数字が浮かび上がった瞬間、その人物は魔法を創れるようになる。
さらに、十歳になったばかりで創れる魔法の平均は四個で最大は八個。シューゴの数は過去最多タイとなる。
「やった! よし、早速創ってみよう」
魔法の数が浮かんでいる左手に魔力を集めると、目の前に黄金色で透明なウィンドウが出現した。このウィンドウこそが、魔法名を書き込むための魔法盤である。
「えっと……確かこうやって」
右手の指先へ魔力を集中させ、指先に小さな光を灯らせる。
これを維持しながら魔法をイメージし、魔法盤へ魔法名を書き込んで認証されると、書き込んだ魔法が使用可能となる。
しかし、書き込んだ魔法全てが使える訳ではない。
一説には魔法神による検閲が行われているとも言われており、洗脳や奴隷化や催眠といった非人道的な魔法だけでなく、他にもいくつかの種類の魔法は書き込んでも認証されず文字が消滅してしまう。
全ては魔法神様の御心のままに行われていると各宗教の寺院関係者は揃って口にしていて、要するに何故そうなるのか理論的には分からないという。
この件に関して魔法神は、人間へ魔法を授ける時にそう設定しておいたのよ、と語る。
「それじゃあ、まずはこの魔法から」
浮かれた表情で、この日のために考えた魔法名を漢字で書き始める。
その様子を見ている神は、後々にどうなるか予想して面白可笑しそうに神界から笑顔で眺めていた。




