依頼家族
帝都の貴族街に立つカタギリ子爵家の屋敷。
貴族という西洋風の名称の立場にありながら、貴族の屋敷も庶民の住宅も昔の中国風の屋敷であるのはカタギリ家も例に漏れない。
それ以外にも二つの国の文化が混じりあったような箇所が所々にある理由は、チージア帝国の成り立ちに関係している。
簡潔に述べるのなら、どこの国の国土でもなかった広大な地に近隣の二つの国から民がやって来て、双方の国の文化を掛け合わせて築き上げたのがチージア帝国の始まり。
特に建築や服飾はその手の知識や技術に精通している人々が一方の国からしか来なかったため、一方の国の様式に偏ってしまった。
そういった事情もあって古い中国風の建築様式で建てられているカタギリ子爵家の付近へ、父親であるカタギリ子爵家当主からの指名依頼をされたシューゴとその仲間達はやって来た。
「久々の帰宅、てか?」
「一ヶ月くらいじゃ久々って感じがしないな」
冒険者学校に通っていた頃はもっと長い期間、帰宅せずに寮で暮らしていた。
それに比べれば一ヶ月など大した期間ではない。
「これはシューゴ様! お久しぶりです」
門番をしていたカタギリ家の私兵がシューゴに気づいて敬礼をする。同じく門番をしていたもう一人の私兵も、同僚の声でシューゴに気づき慌てて敬礼をする。
いかに成人して冒険者になって家を出たとはいえ、この家に生まれ育ったのに違いは無く、勘当された訳でもないシューゴは邪慳にされることなく対応された。
「久しぶりだな。悪いが父さ――。カタギリ子爵はいらっしゃいますか? いらっしゃるのでしたら、指名依頼の件で来たと取り次いでください」
親子としてではなく依頼人と冒険者として会いに来たシューゴは呼び方と喋り方を変え、私兵に取り次ぎを頼む。
それを察した私兵も口調を改めて対応する。
「旦那様でしたら、本日は屋敷にて仕事をされているのでいらっしゃいます。案内の者を呼んで参りますので、少々お待ちください」
同僚に門の警備を任せ、私兵の一人が案内を呼びに屋敷へ入っていく。
いかに勝手知ったるシューゴがいるとはいえ、客人という形で来た以上は案内をつけないわけにはいかない。
その辺りをしっかり教育されていた私兵は、教えに従って案内の使用人を連れて来た。
「お待たせ致しました。どうぞこちらへ」
連れて来られた女性使用人の案内で屋敷内を移動する間、シューゴ以外はあっちこっちへ視線を飛ばす。
特別高級な物を飾っている訳でもなく、壁や床が特別製という訳でもないのに、何が珍しいのかキョロキョロしている。
案内する女性使用人の後ろを歩くシューゴも後に続く仲間達の様子に気づいており、なんだか少し恥ずかしくなった。
そんな様子に使用人も思わず微笑みつつ、来客用の部屋へと案内した。
「どうぞ、お入りください」
室内には卓と椅子の他に貴族としての外聞を意識してか、ある程度の質の物が飾られている。
「こちらでお掛けになってお待ちください。旦那様をお呼びしてまいります」
全員が入室すると使用人は一礼してショウマを呼びに向かう。
それを見送るとシューゴ達は席に座るが、未だにシューゴ以外の面々は落ち着きなく周囲を見渡している。
「落ち着けよ、お前ら」
『無理』
揃って同じ言葉を口にして、変わらず落ち着かない様子を見せる。
「アタシ達のとこも貴族だけど、ここまで屋敷大きくないし」
「男爵家だからね、うちは」
同じ貴族でも爵位の差から気後れするコトネとトシキ。
「だって私、ただの宿屋の娘だよ……」
貴族の屋敷など全く縁の無かったアカネは、最も落ち着きなくソワソワしている。
「うちの商会は貴族とも取引してるけど、五男にはそんなの関係無いからさ」
「自慢ではありませんが、私とて一般の出。貴族の屋敷など、遠巻きに見たことはあれど立ち入ったことはありません。父上かお祖父様なら剣術指南で訪れたことがあるでしょうが」
実家に貴族との縁があっても個人では縁が無かったカズトとシノブは、物珍しさから何度も室内を見渡す。
仲間がこんな調子じゃ自分がしっかりするしかないとシューゴが溜め息を吐いた直後、先ほどの女性使用人が部屋の扉が開けて現れた。
「お待たせしました。旦那様をお連れしました」
女性使用人の言葉にシューゴが起立すると、慌ててカズト達も起立する。
扉を押さえたまま女性使用人が脇にどき、廊下にいたショウマが部屋へ入ってきた。
「やあ、よく来てくれたね」
気さくに声を掛けてきたとしても実の父親だとしても、相手は貴族家の当主。失礼が無いよう、胸の前で右の握り拳を左の掌で包み頭を下げてシューゴは挨拶をする。
「この度はショウマ・カタギリ様のご指名を受け、パーティー「月下の閃光」の六名、馳せ参じました」
それを見たカズト達も同じように、胸の前で右の握り拳を左の掌で包み頭を下げた。
「ふむ……。別に父と呼んで、口調もくだけて良いのだぞ。私は気にしない」
髭を触りながらそう言ってくるが、例え実の親子でもそうはいかないのが依頼者と冒険者の関係。
冒険者学校でその事を学んでいたシューゴは、姿勢を崩さず返事をする。
「そういう訳にはいきません。私的に訪ねたのならばそうしますが、仕事で訪れた以上は例え親しき仲であろうと親子であろうと分別はつける必要があります」
学校で教わったことをそのまま口にすると、ショウマは微かに笑みを見せる。
「うむ、それでよい。公私の区別をしっかりできぬ者は、どんな仕事に就いても必ずどこかでその綻びによって自滅する。しっかりやっているようで安心したぞ。まぁ、座ってくれ」
どうやら先ほどの発言は息子が実力だけでなく、知識でもしっかりやっているかを試すものだったようだ。
駄目だった場合はどうなったんだろうと思いつつ姿勢を解くが、すぐに着席はせず先にショウマが着席してからその後に着席する。
こういった事は冒険者学校で学んでおり、貴族から依頼を受ける時は必須になる礼儀作法だからとユウから厳しく教え込まれた。主にカズトが。
その様子を息子の成長を見守る父親の表情で見届けたショウマは、ここからは仕事の話をするために表情を引き締めて依頼についての話を始める。
「私が君達に依頼するのは、私の領地へ二ヶ月ほど留学予定の五男タイガの護衛と、領地での情報収集だ」
思いのほか平凡な依頼内容に、何故自分達を指名してきたのかとシューゴ達は不思議に思う。
護衛をするのならもっと腕のいい冒険者を雇うべきだし、情報収集もその手のことに長けた冒険者がいる。
それなのにわざわざ自分達に頼んだ理由は何だろうと思い、より詳しい話を聞くべきだと判断したシューゴは質問をする。
「その護衛と情報収集は、私達でなくては駄目なのですか?」
「護衛についてはうちの私兵も出すから、その手伝いと思ってくれればいい。それよりも重要なのは、情報収集を行うことだ」
真剣な表情のショウマに引っ張られるようにシューゴ達の表情に緊張が走り、コトネが思わず唾を飲む。
そんな中で告げられた情報収集対象は、次期代官として領地へ移り住んでいる次男のツグトとそのお目付け役という名目で付いて行った第一夫人のマサヨの動向について。
「……何かやったんですか?」
魔法を創造する際に使える文字数が多い者は神に選ばれた者。そういう文字数至上主義者の考えを持つ二番目の兄と義母。
卒業後に一度帰って来た時には既に屋敷を出ていた二人の名前に、四文字の自分を見下す二人の思い出したくもない顔を思い出す。
「代官から連絡があってな。いずれ自分が代官を継いだ時に備え、個人的に色々な相手と会っているようだ。文字数の多い者ばかりにな」
文字数の多い者、という点に相変わらずなのかとシューゴは呆れた。
「向こうの高い役職に就いている方々は、文字数とは関係無く就任しているはずでは?」
「確証は無いが、立場や地位の低さに不満のある文字数の多い者を唆し、いずれは優遇するとでも言っているのだろう。いずれは文字数の多い者だけが高い役職に集まるようにな」
表向きは領民と酒を飲み言葉を交わし、カタギリ子爵領をより良い領地とするために話をしているとのこと。
彼らの言う、より良い領地。それはおそらく、文字数の多い者が圧倒的に優遇されて文字数が少なければ少ないほど虐げられる、文字数至上主義者の横行がまかり通るような地のことであろう。
そういう報告が代官から届き、これは問題があるとしてタイガの留学に合わせて調査を決定したとショウマは説明する。
だが、肝心なのはここからだった。
「このことは既に上に相談し、詳しい調査は国の機関が極秘に行うことになった。君達は堂々と情報収集をして、ツグトとマサヨの注意を引いてほしい」
要するに内偵がバレないよう、囮になってほしいということだった。
これにはシューゴ達も反応が分かれる。
少なからず冒険者としてのプライドがあるカズトとコトネとシノブは、そんな扱いの仕事に対して怒りを覚えた。
まだ冒険者になって一ヶ月なのだから、そういう扱いでも仕方ないんじゃないかと思うトシキとアカネ。
そしてわざわざ自分を指名したのはそういう事かと、仕事の意味を理解して納得するシューゴ。
「確かにそれは俺達、というか俺にしかできませんね」
あっさりと納得した発言をするシューゴに、怒りを覚えた三人は呆気に取られる。
その様子を見たシューゴは仲間達へ自身の推測を伝える。
「対象の二人はたったの四文字しか使えないのに完成度の高い魔法と無詠唱を使う俺を、まるで目の敵のように見ていた。そんな俺が堂々と二人の情報を集めていれば、注意が向けられるのは当然だ。それも弟の護衛で来たとなれば、父さんが絡んでいるのにも気づく。そうなればより一層俺を警戒してくれるけど、文字数が少ないからって訳の分からない理由で侮って脇が甘くなる可能性が高い。そういう事でしょう?」
一通りの推測を伝えて改めてショウマの方を見ると、その通りだと言って頷かれる。
「できればそれに加えて、冒険者活動で活躍して挑発してくれるとなおいい。タイガの護衛の補佐に一人か二人は借りるがな」
実質的に囮の方が最優先事項と言える仕事。
だがその理由にリーダーのシューゴが納得し、補佐とはいえ護衛の仕事はちゃんとあり、冒険者活動もしていいと言われた。
これは断れない雰囲気になってきたと思っていると、膝に手を置いたショウマが身を乗りだしてくる。
「このような役目の仕事を依頼して失礼だとは思うが、我が領地を差別が横行するような地にしないため万全を期して調査をすべきなのだ。どうか協力を頼みたい、この通りだ」
貴族家の当主から頭まで下げられては、もう彼らに断れる空気ではなかった。
これが狙ってなった状況ならば、年季の差がモロに出た形と言える。
だがそれ以上に、差別の温床となる可能性があると聞いた以上は見逃せないというのが大きい。
チージア帝国に来た二つの国の民のうちの一方は、王侯貴族からの差別による圧政に耐え切れず逃げ出してきた人達。
その人達の話を聞いたもう一方の国から来た人達は、この国は未来永劫そんな事が絶対にない国にしようと決意し、協力して帝国の礎を築いていった。その甲斐あって王侯貴族の圧政も人種や性別や生まれや障害の有無や宗教の違い等による区別はあっても差別はほとんど無く、何よりも恥ずべきは差別をすることだという風潮が今もなお根強く残っている。
それでも差別というものが全く無くなった訳ではない。国内で残っている数少ない差別の証、文字数至上主義者がその証拠とも言える。
ただしこれは、あくまでチージア帝国が文字数至上主義といった差別的思想に対して否定的で排他的なだけで、他所の国では同じように否定的だったり、逆に肯定的だったりと反応が分かれている。
「シューゴ……」
小声で呼びかけるカズトだけでなく仲間の全員が同じ気持ちであることを表情から読み取り、自身も同じ気持ちをでいるシューゴは笑みを浮かべた。
本当に面倒事にはなったが、これも実家を守るためだと。
「分かってるって。カタギリ子爵、依頼を受けさせていただきます」
「……ありがとう」
一度頭を上げたショウマは依頼を引き受けてくれたことと、こんな役目をさせて申し訳ない気持ちから改めて頭を下げた。
「気にしないでください。私も実家の領地がそんな地になるのは許せませんし、身内がそんな事をやろうとしていると聞いては黙っていられませんから」
口調は穏やかで表情もにこやかなシューゴだが、彼らの差別的な主義主張を領地運営に持ち込もうとする公私混同な義兄と義母に内心ではだいぶ怒っていた。
できることなら、危険ということで自主的に使わないでいる魔法を二人に向けて使いたいぐらいに。
「本当にすまない。本来なら夫として父として、そして領主であり当主として私が対応すべきなのだが、私が動いたら警戒心を強められて内偵に支障が出る恐れがあると言われてな」
責任がある立場だからこそ、動いた時の相手の警戒心は計り知れない。
言い訳と保身に長けているのならば、諸々の証拠を隠滅してしまう可能性もある。それを考慮してショウマ自身が動かないよう指示が出され、代わりの囮役としてシューゴを提案して了承されたということらしい。
彼にできるのは諸々の手配と、いざという時に責任を取ること。それもまた領主であり当主という立場の責任だった。
「しかし、普通こういうのは黙っているべきでは?」
「そういう事をして君達冒険者を軽視していると思われたくないのだよ。むしろ信用したいからこそ、こうして打ち明けたんだ」
本当ならそこに息子だから、とかが絡むのだろうがさすがにそれは口にしない。
今はお互いに公の立場で会い、表向きにでも私を挟んではならない場だから。
「出発は明後日だ。それまでに準備を整えてほしい」
「分かりました」
了解の返事をすると、それまで仕事モードだったショウマの表情が家庭のものへと変わる。
「さて、ここからは依頼人と冒険者でなくともいいのかな?」
こうした経験が無いのはショウマもシューゴも一緒。
確認するために尋ねられたシューゴも表情の雰囲気が変わり、親子としての会話に切り替える。
「いいんじゃないかな? もう仕事の話はしたし、細かい所は当日に調整でもいいし」
「そうか。ならば父として言わせてもらうが、トウカ達に会ってやってくれ。お前が来るのを楽しみにしているんだ」
冒険者学校時代、長期休みに帰宅する度に寂しかったと抱きついてくる実の母の姿を思い浮かべ、仲間の前であんな事はしないでほしいと願う。
「分かった。今はどこに?」
「女性陣はお前とその仲間とお茶をするため、菓子を買いに行っている。タイガは留学の手続きのために学校、シューイチは城で仕事中だ。ああいや、ユウカは部屋にいたはずだから行ってあげるといい」
分かりましたと返したシューゴは仲間達を連れて退室し、ユウカという人物へ会いに向かう。
その人物は昨年に嫁いできたシューイチの妻。
同じ職場の先輩から紹介されたというシューイチの一つ年下のマツカワ子爵家の長女で、現在は妊娠三ヶ月のため屋敷で大人しくしている。
どんな人物かと聞かれたら、天然が服を着て行動しているという表現が適切。
それによって兄も少し振り回されたらしいが、ベタ惚れのため特に気にしていない。
移動中に仲間達へそう説明したシューゴもまた、帰宅中は何度か振り回された経験を持つ。
「悪い人じゃないんだけど、あの人と会うのは疲れるんだよな」
額に手を当てて溜め息を吐くシューゴに、若干の不安を抱くカズト達であった。
そんな時に、ちょうど曲がり角からその人物が顔を見せた。
「あらシュー君。お帰りなさい」
三ヶ月とあってまだ目立たない腹部に手を添え、穏やかな笑みを浮かべる細目の女性。
彼女がシューイチの下へ嫁いだ旧姓マツカワ、現ユウカ・カタギリ。
「……ただいま、義姉さん」
「もう。ユウカお義姉ちゃん、って呼んでって言っているでしょ。メッよ」
まるで幼い子供を叱るような言い方に、早くもシューゴは軽い頭痛を覚える。
「もうそういう年頃じゃないんですが」
「なんで? いくつになっても親子は親子でしょ? ならいくつになっても、お義姉ちゃんと義弟はお義姉ちゃんと義弟よ。つまりいくつだろうと、お義姉ちゃんと呼んで問題は無いでしょう?」
話が通じていそうで通じていなくて、納得できるようでできない。
これまでにユウカとの会話で何度も感じた事を改めて実感していると、シューゴの後ろにいる仲間達をジッと見たユウカは首を傾げながら尋ねる。
「ねえシュー君? 私の義弟と義妹ってこんなにいたかしら?」
『ぶっ!?』
まさか義弟と義妹に間違われるとは思わなかったカズト達は、独特なユウカの思考回路に思わず吹き出して笑いを堪える。
一方のシューゴは徐々に強くなる頭痛を気のせいだと自身に言い聞かせ、訂正をする。
「違います。俺とパーティーを組んだ仲間達です」
「あらそうなの。どうりで初めて見る子ばかりだと思ったわ」
今更ながらはじめましてと挨拶をするユウカに、カズト達もどうにかこみ上げた笑いを耐えきって挨拶をする。
そして改めてカズト達を見たユウカは、シューゴの方を向いて尋ねた。
「で、シュー君。女の子が四人もいるけど、どの子をお嫁さんにしたいの?」
「ぶふぅっ!」
再び明後日の方向へ飛んだ質問を投げつけて来た事に反応が分かれる。
女性陣をそういう対象として見ていなかったシューゴは反応に困り、よく性別を間違えられる友人が異性に数えられているどころか嫁対象にされている事にカズトは腹を押さえて笑いを堪え、性別を間違えられるどころかそういう対象とされている事にトシキは言い返す気も起きないほど落ち込んで崩れ落ち、女性陣は全く考えたことの無い方向の話を持ち出され顔を赤くしてオロオロしたりシューゴの反応を窺ったりする。
「……義姉さん、彼女達は仲間であってそういう理由で連れているのではありません。それと彼は男です」
崩れ落ちているトシキを指差して本当の性別を告げるが、ユウカは驚くどころかケラケラ笑いながらそれを一蹴する言葉を発した。
「やあねぇ、シュー君。こんなに可愛い子が男の子のはずがないじゃない」
『ぶっほぉっ!』
驚くことも躊躇することも無くそう言い切ったユウカに、思わずカズトは吹き出してしまう。
お嫁さん発言に動揺していた女性陣もユウカの発言で思わず吹き出しそうになり、お嫁さん発言をされたことが吹っ飛んだ。
それと同時にトシキの落ち込みが強くなり、膝だけでなく肘まで床に着けてしまう。
哀れに思ったシューゴが全力で説明し、どうにか男だという事には納得してもらえたのだが――。
「ごめんなさいね。そうよね、男の子として振る舞わなきゃならない訳があるのよね。お姉さん、気づいてあげられなくてごめんね」
何をどう歪曲してねじ曲がった明後日の方向へ理解して納得したのか、憐れんだ様子で落ち込んでいるトシキの肩を叩いた。
またしても予想の斜め上を行く言動をしてくれたユウカに、腹筋が崩壊しそうになるほど笑いを堪えているカズトとコトネは腹を押さえて前屈みになり、シノブはもはや憐みの目をトシキへ向け、アカネは天然が服を着て行動しているってこういう事ねと呟く。
「シューゴくぅぅぅん!」
「いや、ちゃんとした説明はしたぞ。義姉さんの捉え方が独特なだけだ」
もうこれ以上の説明はしようがないと判断したシューゴは、そう言い切って話を切り上げる。
この後、帰宅したカタギリ家女性陣からも性別を間違われた挙句、ユウカの独特な言い回しの説明によって混沌と化したお茶会でカズトとコトネが爆笑し、トシキが過去に無いほど落ち込んだ姿にシューゴは心の中で謝罪した。
なお、誰をお嫁さんにするのかという発言が腹違いの妹のミユキから再び発せられ、シノブとアカネが再び動揺してコトネが興味深そうな表情でシューゴを眺めるという一幕もあった。
(こんな調子で大丈夫だろうか)
一抹の不安を覚えつつ、シューゴは思考を放棄してお茶を楽しむことにした。
女性達を中心とした、賑やかかつシューゴとの仲を詮索するような会話を聞き流しながら。