019.龍人族と鬼神族
「……取り敢えずはマリール。そのある意味危険な石は捨ててくれ」
「むしろ捨てちゃっていいんじゃないの? ばっちいし」
「そうね。マリーちゃん捨てちゃいなさい。そんなばっちいもの」
「割れてるしなー。ばっちいし」
「……でもさ、龍人族って龍に変化出来るんだろ? ならそれも、龍血石と胆礬になるんじゃないの?」
「「「「!?」」」」
トートの言葉に、「捨てなさい。ばっちいから」と言っていたバルド達は、揃ってその可能性に気付かされる。
龍人族は龍が人と子を成して生まれたと言われる、いわばハーフだ。だが龍の能力は始祖から脈々と受け継がれ、多種族と交わっても生まれるのは龍人のみである。
ではその能力を受け継いでいるのならば、龍人の血と涙も。
「ちょっとやだ、トートったら! そんなこと気付いちゃったら、龍人が乱獲されちゃうじゃないの」
「いや、無理だろう。龍人族は俺の祖国でも太刀打ち出来ないぞ」
「鬼神族でも?」
「ザンザ帝国の連中が暇になると腕試しに戦闘を仕掛けに行ってるが、負けか引き分けだ。勝った事は一度も無い」
「ザンザ帝国民血の気多すぎるよ……」
「弱いのには仕掛けないのだから良いじゃないか」
「「「ええー……」」」
「うーん? 取り合えずまた仕舞っておきますね」
バルドの祖国が気になるが、後でじっくり詳しく聞くとして。何だか良く分からないが、マリールの使っていた魔石は危険なものらしい。
使っていて何も問題無かったのにと思いながら、捨てて良いものなのか微妙になって来た。
マリールは仕方なく割れた魔石を丁寧に布で包み、再び巾着に入れてからポケットに仕舞おうとした。
だが、アエラウェが悲しそうな瞳で静かに首を横に振り、それを止める。
「マリーちゃん……。繋がってるって言う、別の場所に仕舞ってちょうだい。お願い」
「はーい」
「除菌してあるのに~」と言いながら、マリールは大人しく背負い鞄に仕舞った。
こうしてマリールが再び魔石を手に入れるには、どこぞの龍人が尿路結石になるのを待つしかない事が分かってしまったのである。
「そんなわけで、すみませんがまた火加減お願いします、旦那様!」
「あ、ああ……」
「手も洗いましょ。ね?」
「はい!」
食欲も衰退するほどの話に脱線してしまったが、酒の肴を作るべく、マリールは再びバーカウンター内に引っ込んだ。
先程と同じように芋を揚げ、肉を再び切ってもらうのも面倒なので腸詰肉を焼くことにした。
酒をちびちび飲みながらバルドが火を操ってくれるので、味見と称してマリールが焼けた腸詰肉を「あーん」と良いながら食べさせる。
牡丹餅の時とは違い、躊躇いなく自分の手から食べてくれるバルドに、マリールは嬉しそうに笑った。なんだか本当に新婚さんみたいだ。
「旦那様のご実家、挨拶に是非行きたいです!!」
「ああ、マリールが出国する時には俺も一緒に行こう」
「きゃ~! 新婚旅行ですね……!! 後でどんな国なのか教えてくださいね~」
マリールとバルドがいちゃいちゃしながら酒の肴をテーブルへ運ぶ。
それをホビット達は行儀悪く頬杖をつきながら、砂狐のような白けた顔で見守った。
「……これから暫く、このいちゃいちゃを見るのかぁ。親子にしか見えないけど」
「俺、実家戻って嫁探そうかな……」
「いいなぁ。お嫁さん」
「ホビット族の女の子ってどうなの?」
「「「めちゃくちゃ気が強い」」」
「あらぁ」
話題はホビット族の女性が如何に気が強いかで盛り上がり、では他の種族は……と、男達が盛り上がっていると、筋肉のせいで太過ぎる程盛り上がったバルドの太腿に、ぽふりと軽い何かが落ちた。
旅の疲れと目まぐるしい今日一日の出来事は、魂は老齢でも八歳という身体には相当な負担だったのだろう。
バルドはすっかり眠ってしまったマリールを椅子から抱き上げ膝に乗せ、自分の胸にマリールの頭を凭れさせると、落ちないように腕で抱え込んだ。
「……親熊が小熊抱き込んでるみたいっすね」
「なんかすんげーほのぼのする……」
「俺も子供欲しいなぁ……」
「そうねぇ……。マリーちゃんの目が覚めてバルドが居なかったら暴れそうだから、今夜は摂り合えずバルドの部屋でいいわよね?」
「ああ。悪いがアエラウェ、マリーに浄化かけてやってくれ」
「はいはい。ついでにバルドにもかけてあげるから、早く寝かせてあげてちょうだい。あ、解ってると思うけど、手は出しちゃだめよ?」
「出すか!」
アエラウェが二人に手を翳し光魔法を使うと、マリールとバルドの身体が淡く光る。
マリールの旅で汚れていた服も身体も、ついでにバルドも汚れ一つ無くなり、きれいさっぱり輝いた。
マリールの人形のような白い肌は、浄化魔法によってさらに透き通るような白さを取り戻していて、そのやわらかそうな肌に、アエラウェは堪らずぷにぷにとマリールの頬を突つき出す。
「んまぁー! 綺麗にしたマリーちゃんのほっぺた、もっちもちのぷっくぷくね!」
「……んぅー」
「やめろ。起きるだろうが。」
「あん。バルドの代わりに私が抱っこして寝たら駄目かしら……?」
「起きた時に俺が居たほうが良いと、アエラウェが言ったのだろうが……」
アエラウェの未練がましい手を軽く払い落とし、バルドはマリールを抱えたままゆっくりと立ち上がり、二階へと向かう。
寝ているマリールを起こさないように静かに移動する様は、厳つい鬼岩顔からは想像できない程の慎重さだ。
「先に寝るから、戸締りは頼んだぞ」
「はーい。良い夢をね」
「「「おつっすー」」」
階段を登るバルドの背が見えなくなるまで見守って、残されたアエラウェとホビット達は盛大に息を吐き出した。
彼等にもマリールを巡る今日の出来事は、爆笑したり驚いたりと、相当目まぐるしいものだったようだ。
「……俺等も早めに寝ますかねぇ」
「アエラウェさーん、空き部屋泊めてー」
冒険者ギルドの二階には、バルドとアエラウェの個室と執務室以外にも、金がない駆け出しの冒険者が泊まれるように部屋がいくつかある。個室も大部屋も一週間銅貨二枚だ。
その中の大部屋の鍵をホビット達に投げて渡しながら、アエラウェは忘れずに言った。
「いいわよ。ベッドメイキングは自分でやって頂戴ね。料金は正規額きちんと取るけど」
「……その分差し引いてくれたりは……いえ、なんでもないっす」
女房役とも言える副ギルド長は、大変しっかりしているのだった。




