Triple Date 5話
6人が観覧車の前に着くと、時間的にもデートの締めや夜景がきれいに見えることもあってか、観覧車の前には多くの列が作られている。
傍から見ていても気づいたが、やはり観覧車に並んでいる人はカップルが多い。
とりあえず6人は観覧車の最後尾に加わり、順番が来るまで話しながら待った。
約半日一緒にいたが、話のネタが尽きることはない。
話をしながら待っていたため、並んでからどれほどの時間がたったかは分からないがもうすぐで6人に回ってくるというところで衛が口を開いた。
「乗る順番どうする?」
「え?順番ってどういうことですか?」
衛の問いかけの意図が掴めなかったのか優衣が首をひねりながら問いかけた。
すると衛は少しあきれたような顔をした。
「優衣…、まさかとは思うけどお前6人で乗るつもりじゃなかっただろうな?」
「まさか。だって、6人だと狭いじゃないですか」
「…おいおい、じゃあ何人で乗るつもりだったんだ」
「えっと…3人と3人かなぁって」
「あのなぁ…、何で自分の恋人がいるのに3人ずつ分かれて乗るんだよ。それぐらい考えたら分かるだろ」
「だって…こういうことって今まで無かったから分からないんですもん…。それに、恥ずかしいし…」
優衣が少し顔を俯かせると隣にいた華が優衣に抱きついた。
「優衣ちゃん、かっわいい~」
「きゃっ、ちょ、ちょっと華さん。危ないですって」
「あ、ごめんごめん。でも、優衣ちゃんかわいいんだもん」
優衣が困ったように言うが、それでも華は離れる気配は無い。というか、むしろ抱きつく力が増しているようだ。
そんな2人は置いて他の4人は乗る順番を決めている。
「で、どうする?」
「柚子、お前は何番目に乗りたい?」
「私はどこでもいいけど…。深夜は?」
「俺?俺も正直順番はどこでもいいんだよなぁ、柚子と一緒に乗るってことが大事なだけだし。って事で衛と翔で順番決めていいけど」
深夜と柚子葉はそれぞれどこでもいいという回答をすると、翔と衛もお互い困ったような顔をした。
「俺も正直どこでもいいんだけどなぁ」
「それ言ったら俺もそうなんだけど…。面倒くさいからさっきここに着いた順番でいっか」
「ってことは、最初に俺と優衣。その次が翔と中田。最後に深夜と山下か。じゃ、それで決まり」
と順番が決まったところで抱きつかれて困っている優衣と嬉しそうに抱きついている華を呼び順番を伝えた。
2人からも特に反論されなかったため、先ほど決まった順番で乗ることにした。
それからもう少し待つと6人の番になった。
先ほど決めたとおりにまず一組目の衛と優衣が観覧車に乗り込む。
その次のゴンドラに翔と華が、最後のゴンドラに深夜とそれぞれ乗り込んだ。
・・・
衛の正面には優衣が座っている。
衛はじっと優衣を見ているが、優衣はずっと外を見ている。
最初は気づいていないのかと思ったが、優衣は時々居心地が悪そうに衛のほうを伺ってきているので気づいてはいるのだろう。
このまま一周回って終わるなんてもってのほかだと思った衛は腰を上げると優衣の隣に座る。その衝撃でかゴンドラが軽くゆれた。
「そんなに外見て何か面白いものでもあるのか?」
「な、なんで隣に来るんですか!?」
「そりゃ、外の景色ばかり見ている彼女の気を惹きたいからに決まってるだろ」
衛の言葉に優衣は困ったように俯く。
付き合いだしてすぐというわけではないのに、未だに優衣は初々しい仕草を見せる。
その姿がまた衛の隠れていたいじめっ子気質に火をつけるのだが当の優衣は気づいていない。
もう少し攻めてやろうかとも思ったが、やりすぎるとせっかく観覧車に乗っているのに無駄になるだろうと思い止めた。
「それでどうだ?」
「え?どうだって…何がですか?」
「俺の幼馴染、それとその彼女と遊んだ感想だよ。どういう印象を持った?」
「どういう印象って言われても…。でも、皆さん本当にいい人ですよね。気さくに話しかけてくれるし楽しかったです」
「そっか。これから長い付き合いになるだろうから、そういう印象持ってもらって一安心だわ」
「…むしろ私のほうがどう思われてるのか気になるけど」
「あぁ、それなら心配要らない。それは俺が保証する」
「え?」
「中田と山下は…まぁ俺もよく分からないけど問題ないだろ。中田はあんだけ抱きつくし、山下もよく笑って話しかけてたみたいだし」
今日一日のことを優衣は思い出してうなずいた。
一人年下の優衣を気遣ってか、華や柚子葉はよく話しかけてくれた。
「で、深夜と翔だが…まぁ、あいつら見てたら分かるけど大分リラックスしてたから大丈夫だろ」
「リラックスですか?」
「あぁ。ま、見た目は分からないだろうけど嫌いな奴だったらあんなふうに接しないから安心しろって」
それだけ言うと衛は優衣の肩に手を回すと自分のほうに抱き寄せた。
「うわっ、ちょっと衛先輩!離してくださいよ!」
「い~…やだ。なんで、こんな密室で自分の彼女を抱き寄せてるのに離さないといけないんだよ」
「外の景色がゆっくり見れないじゃないですか…」
その言葉に衛は肩に回していた手を優衣の頭に移動させゆっくりと撫でる。
「はいはい。おっと、そろそろ頂上だな…。うわ、おい優衣!あっち見てみろよ!」
「え?…うわぁ、綺麗…」
衛が指差した先をみた優衣は感嘆の声を上げた。
観覧車が一番上に着くと周辺のビルよりも高い。そのため街の向こうの水平線が見える。
そして、今その水平線にゆっくりと太陽が沈んでいっている。
夕日の光が水面に反射してとても綺麗に見える。これには優衣だけでなく衛も心うたれた。
そして、自分の隣に座って景色に釘づけになっている自分の彼女に声をかけた。
「優衣」
「はい?」
優衣が衛の方を向いてから衛はゆっくりと優衣に顔を近づける。
これから何をするか分かった優衣はゆっくりと目を瞑った。
・・・
翔と華はゴンドラの中で隣同士に座り、手を握ってじっと外を見ていた。
「うわぁ…翔君。外綺麗だね~」
「だね。丁度いい時間だったかも」
外は夕日に照らされていて綺麗な景色を作り出している。
昼間でも日が暮れ終わったときでもこんな景色は見れなかっただろう。
その時その時の景色があるのは分かるが、日が暮れはじめるとその景色を再現すると言うのは難しい。
だからこそ、今この景色を二人は刻んでいる。
外の景色を見ながら華はそっと呟く。
「でも、今日はよかったなぁ」
「なにが?」
「遊べてよかったなぁって思って。柚子葉ちゃんとも仲直りって言うか仲良くできたし、優衣ちゃんもいい子だったし」
「あ~、それはある。衛もなんかかんだいって優衣ちゃんの事大事にしてるし」
「そうそう!口では文句言いつつも目が優しいよね~。大事にしてて羨ましいなぁ」
華のの言葉に翔は傷ついたと言わんばかりに自分の胸に手を持っていく。
「あっれ~、俺もお前の事大事にしてるつもりだったんだけどなぁ~」
「もちろん分かってるよ~」
華は嬉しそうに翔の肩に頭を乗せる。
そうやってくるのかが分かっていたのか翔も華の頭をゆっくりと撫でる。
「分かってもらえて何よりだよ」
華は笑顔を浮かべていたがふと笑顔を消して呟いた。
「でも、本当によかった…」
「遊べたこと?」
「それもあるけど…衛君と山上君が楽しそうにしていたことかな」
「ん?」
「だって…二人とも私が知ってるときは本当に傷ついてたから…」
「…そうだな。けど、今のあいつらはその傷を癒してくれる彼女がいる。だから、もう大丈夫だろ」
「うん…」
華は半分喜び、半分安堵のような顔を浮かべた。
翔は安心させるようにもう一度華の頭を撫でた。そして、その視線の先に見えたものを指差した。
「あ、華。あれ見て」
「え?うわぁ~…綺麗~」
二人の視線にも水平線に沈む夕日が入ってきた。
翔は華の肩に手を回し、華も翔の肩に頭を乗せる。
そして、二人はゆっくりと夕日に照らされる中口づけを交わした。
・・・
深夜と柚子葉はお互い正面に座る形でゴンドラに乗っていた。
二人は景色を見ながらも穏やかに話していた。
「あ~、にしても正直疲れたな」
「半日ずっと遊んでたもんね。でも、私は楽しかったよ」
「そりゃ俺だって楽しいか楽しくないかって言われたら楽しかったって」
「それに…」
「ん?」
「普段じゃ見られない深夜も見れたし」
「…そうか?」
「うん。やっぱり、翔君や衛君と一緒にいる時の深夜って…なんていうかちょっと子供っぽさが出るっていうか」
「そうか?けど、まぁ…小さい頃から一緒だからしょうがないだろ。接し方とかそうそう変わらないし」
深夜は少し照れくさそうに言うと誤魔化すかのように外に目を向ける。
その仕草もまたそうそう見る事のないものだから、柚子葉は嬉しそうに笑う。
すると深夜は少し拗ねたように言った。
「何が面白いんだ?」
「ううん、別になんでもないよ。…ねぇ、深夜」
「…なに?」
「そっちに行ってもいい?」
柚子葉が尋ねると深夜は一瞬きょとんとしたが、すぐに柚子葉が座れるように少しずれた。
それを見て、柚子葉は深夜の隣に腰を降ろすと深夜によりかかる。
深夜はそんな柚子葉を見て『珍しいな』と思ったが、すぐに柚子葉の肩に手を回した。
「どうした?」
「別にどうもしないけど…いや?」
「まさか。彼女にこうされて嫌な奴はいないって」
「そっか」
また柚子葉は嬉しそうに笑う。
その仕草もまた普段の柚子葉では珍しい仕草だ。
「柚子こそ、今日はどうした?」
「え?」
「いや…こうしてお前から甘えるって結構珍しいなぁって思うし」
「そう?」
「俺はそう思うけど…。けどまぁ、俺としては嬉しいからいいけどね」
深夜が肩に回した手に力を入れて少し引き寄せる。
柚子葉もまた抵抗することなく深夜にさらに近づくと二人はゆっくりと口づける。
そんな二人を乗せたゴンドラが頂上に着くと、二人を夕日が照らした…。
・・・
観覧車を乗り終えた6人はそれぞれの恋人同士で手をつないだまま少し離れたところに集まった。
特に示し合わせたわけではないが、自然とそうなったのだ。
時間も時間と言うことで帰路へとついた。
6人と同じように遊園地からの帰宅者が多かったがなんとか全員座る事が出来た。
電車の中は遊び疲れたのか全員眠ってしまった。
朝に集合した駅に着くと各々が軽く背伸びをした。
「あ~、つっかれた~。でも、楽しかったなぁ」
「だね。またいつか遊べたらいいね」
「ま、伊藤はまだ関係ないけど、他の奴らの進路が確定したらだろうなぁ」
「わー、それ言うなよぉ。一気に現実感出てきた…」
「ま、それはともかく本当にまた6人で集まって遊ぼうな」
深夜の言葉に他の5人も嬉しそうに頷いた。
こうして、6人の初めてのトリプルデートは終わった。
とはいえ、優衣も衛の家に行くことになっていたため、基本的に家が近い6人は一緒に帰ることになるのだが…。




