Triple Date 3話
6人は遊園地へと向かう電車に揺られていた。
目的地となる遊園地は、待ち合わせに指定した駅から乗り換えは発生しないが、約一時間ほどかかる。
休日と言うこともあってか、6人が乗った電車は満員電車までは行かないが、人が混んでいた。
最初は座ることができなくて立っていたが、数駅過ぎたところで席が3人分並んで空いたので女性陣が座り、それぞれ彼女の前に男性陣が立つ形になった。
女性陣3人はほぼ初対面に近い事もあって、最初はまだぎこちなさが残っていたが、深夜や衛達男性陣が上手くフォローを行い遊園地に着くころには普通の友人のようになんとか話せるようになった。
特に優衣は一人だけ年下ということもあって緊張していたのか最初は笑うこともなくただ話を聞いていただけだが、彼氏である衛が上手く優衣を会話に参加できるように話題を振ることで緊張を上手く解く事が出来た。
そして、6人が仲が良くなったところで遊園地に到着した。
柚子葉がクジで当てたチケットを入口の係員に渡し、6人揃って入場手続きを行う。
入口から少し離れたところで6人は立ち止まると、衛が背伸びをしながら全員に話しかけた。
「さて、何から乗る?まずはジェットコースターからか?」
「ちょっと待てって。…伊藤は乗れないものとかあるか?例えば高所恐怖症とかそういうのもないのか?」
「そういえば俺も知らないなぁ。優衣、どうなの?」
初めて優衣と遊園地に来るとあって、まず深夜は優衣に嫌いなアトラクションが無いか聞く。
衛も優衣と知り合ってまだ数カ月、付き合いだしたのはもっと短いため深夜と一緒に聞いてきた。
「えっと…」
「ん?まぁ、いいや。これ無理だって思ったら言ってくれ」
「分かりました」
優衣が回答に詰まってしまったが、衛は特に気にしていない様子だ。
二人の会話を聞いていた深夜は入園時に係員から渡されたパンフレットを拡げた。
そのパンフレットに衛と翔も見えるところに集まり相談し始める。
「じゃあ、どこから行く?」
「衛も言ってたけど、ジェットコースターからでいいんじゃないか?」
「そりゃそうだけど…柚子達はジェットコースターでいいか?」
男性陣からまずは最初に乗るアトラクションを女性陣に聞くと、柚子葉達は頷いた。
「うん、私は大丈夫」
「私も絶叫マシン大好き!」
「はい…」
ちなみに上から柚子葉、華、優衣の返事だ。
乗るアトラクションも決まったところで、6人は集まって目的地であるジェットコースターへと向かう。
「でも、ここに来るのも久しぶりだなぁ」
「私もそうだよ。中一の遠足が最後かも」
「あ、俺もそうだわ。それから来ることなかったなぁ」
「深夜達も遠足でここに来たんだ…。私もここには遠足で来たことあるよ」
深夜達が中一の遠足で来たときのことを思い出しているとそこに柚子葉も加わる。
深夜達と柚子葉が通っていた中学校は同じ市内ではあるし、距離としてもそれほど離れてはいないため同じ目的地になっていてもおかしくはない。
「あ、やっぱり柚子達もここか。やっぱ近くの小学校とか中学校はここっぽいな」
「そりゃ気軽に来れる距離だからだろ。優衣は?ここに来たことある?」
会話に参加していなかった優衣に衛が話しかけると、聞いていなかったのか優衣は『え?』と戸惑う。
「えっと…」
「おいおい、話し聞いてなかったのか?」
「…はい」
「…どうした?気分でも悪いのか?」
「いえ、大丈夫です」
いつもと様子が違うことに気付いた衛が優衣に声をかけるが、優衣は笑顔で答える。
「そうか?」
「お、見えたぞ。ジェットコースターの待ち行列だ」
衛がまだ優衣を気にしていると先頭を歩いていた翔がジェットコースターの順番を待っている列を見つけた。
まだ入園時間から早い事もあってあれなら10分~15分ぐらい待てば乗れるだろう。
6人は二人一組で列の最後尾に並んだ。先頭に絶叫マシンが大好きな翔と華、その後ろに深夜と柚子葉。最後に衛と優衣という順番だ。
だが、列が進むにつれ衛は優衣の様子がおかしい事に気付いた。少しではあるが足が震えていたのだ。
「優衣…?」
「あ、なんですか?」
衛が声をかけると優衣は何事もなかったかのように笑顔で衛に顔を向ける。
数秒優衣の顔を見詰めていた衛は一つ溜息をつくと、翔や柚子葉と話していた深夜の背中を軽くつつく。
それに気付いた深夜は後ろを振りかえる。
「どうした?」
「俺と優衣はやっぱ乗るの止めるわ」
「は?」
「悪い。俺ちょっと大便行きたくなってきた。で、俺場所が分からんから悪いけど優衣にも付き合ってもらうから」
「…分かった。俺らはいいか?」
「あぁ。お前らは楽しんでくれ。その辺のベンチに座ってるから」
それだけ言うと衛は優衣の手を取ってジェットコースターの列から抜け出した。
そして、衛はトイレに向かうわけではなくすぐ近くのベンチに強引に優衣を座らせた。
「あの…衛先輩?」
「…馬鹿か、お前」
「なっ…」
優衣が戸惑っているといきなり衛の口から『馬鹿』という文句が出てきたので驚いた。
衛の顔には呆れが入っていた。
「お前…絶叫系怖いんだろ?」
「…」
図星なのか衛の指摘に対し優衣は顔を俯かせると何も答えない。
その沈黙を衛は肯定ととり、話を続ける。
「深夜が先に『乗れないものないか』って聞いただろ。その時に何で言わなかった?」
「…だって私が乗れないって言ったら絶対に皆さん気を使うだろうって思ったし」
「あのなぁ…」
優衣の言葉を聞いた衛は優衣の隣に腰を降ろす。
そして、諭すように口を開く。
「確かにお前が乗れないって分かったらあいつらも絶叫系は避けるだろう。でも、あいつらならそんなの気にせずに違うアトラクションを探すさ」
「それって気を使って…ですよね?」
「ん~…ちょっと違うかな。6人で楽しむっていうのが頭にあるから『気を使って』乗らないじゃなくて『楽しくないから』乗らないって思うんじゃないかな。ま、難しいところではあるとおもうけど」
「…よくわかりません」
優衣は依然として顔を上げようとしない。
衛は『仕方ないな』というように笑うと優衣の頭の上に手を乗せる。
「お前の性格上難しいとは思うけど、思ってる事をそのまま言えばいいんだよ。それにお前に気を使って欲しくないんだよ、俺は」
「…え?」
衛の言葉に優衣はやっと顔を上げる。
衛の顔には笑顔はなく、真面目な表情で優衣を見詰めている。
「これから俺としてはお前とあいつらには長く友人として付き合ってもらいたい。最初は難しいかもしれないけど、これからはなるべく言いたい事があったら言って欲しいんだ」
「…そういわれても」
「ま、これからこれから。とりあえずはあいつらが戻ってきたらちゃんと言うこと。俺もちゃんとフォローしてやるから。な?」
「…はい」
衛の言葉に優衣がゆっくりと頷くと、衛は頭の上に乗せている手をポンッと叩く。
それから約十分後。
ジェットコースターに乗り終わった深夜達が衛の方へとやってきた。
「衛、お前いついなくなったんだよ」
「そうよ。急にいなかったからビックリしたわよ」
「悪い悪い。ちょっとな…」
翔と華はいきなりいなくなった衛に詰め寄る。
列から離れる時に深夜には言ったが、深夜達の前にいた翔達は気付かなかったのだろう。
衛は笑って謝罪の言葉を口にし、優衣の方に視線を寄こしてきた。
「すいません…、実は私…絶叫系が苦手なんです…」
優衣は申し訳なさそうに衛と二人で乗らなかった理由を告白した。
何を言われるだろう、と優衣が怖がっていると翔と華は少し笑いを含み声をかけてきてくれた。
「なんだ、もっと早く言ってくれればよかったのに。俺らになんか気を使わなくていいよ。ね、華」
「そうよ、優衣ちゃん。もっと友達と遊ぶように気楽に言ってもらっていいのよ?」
「じゃあ、次は皆で乗れるものにしようぜ」
そういって翔と華は次に乗るアトラクションをどれにするか二人だけで相談し始めた。
優衣が二人の言葉に呆気に取られていると衛がまた優衣の頭にポンっと手を乗せてきた。
「だから、言ったろ?あいつらなら気にしないって。…二人だけで勝手に決めるな!」
優衣に声をかけた後、衛は翔と華の相談に加わる。
衛の後に、今度は深夜と柚子葉が優衣に近寄ってきた。
「俺らに気を使った?」
「…はい」
「ま、翔も言ってたけど気を使う必要なんかないから。俺らは基本的に同等の立場なんだし」
「同等…ですか?」
「そ。ま、お前と衛、それに中田は同じ学校の先輩後輩だけど、こうして6人で遊ぶときは幼馴染とその恋人ってことで、そんな気を使う必要はないから」
「そんなこと言われましても…」
「ま、ゆっくり慣れていけばいいさ。…っていうか、お前ら三人で勝手に決めようとするな!」
深夜もまた勝手に次のアトラクションを決めかけている衛たちに加わっていった。
残された柚子葉と優衣は顔を見合わせると苦笑いを浮かべた。
「私も…多分気を使っちゃいそう」
「柚子葉さんも…ですか?」
「うん。ほら、だって深夜達はあんなに仲良いから…」
「そうですね…」
柚子葉と優衣はアトラクションを決めようと集まって相談している4人の方に視線を向ける。
付き合いが長いと言うこともあってか、スムーズに話も進んでいるようだ。
少し寂しそうに柚子葉達が4人を見ていると、それに気付いた深夜と衛が手招きする。
「柚子、そこでなにしてるんだ?お前も乗りたいアトラクションあったら言っていいんだぞ?」
「優衣、お前もだぞ?早くこいよ」
それぞれの彼氏に呼ばれた彼女達は、4人の元へと早足で駆け寄り相談の輪にと加わった。




