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完結後番外編  作者: タカ
Change The Relation
2/26

春の陽気

大学入学後の一コマ

「山上飯行こうぜ」

「あぁ」


深夜が大学に入って数週間がたった。

今深夜に声をかけたのは大学に入って一番最初に出来た友人、松本直哉だ。

深夜と直哉は一緒の教育学部に所属しており、講義もほぼ一緒だ。

講義で隣の席になったのをきっかけに二人は話すようになった。

深夜は直哉と隣に立って構内を歩き出した。

直哉の話を聞きながら深夜はふと外を見た。

そして、構内に置かれているベンチに目を向け深夜は立ち止まってしまった。

直哉もそれに気づき深夜に声をかけた。


「山上、どこ見てんだよ」

「悪い。俺今日はパス」

「は?」


深夜はそのまま駆け出していった。

直哉は深夜の後姿を見て首を傾げ先ほど深夜が立っていた場所に立ってみた。

そして、深夜と同じように外に目をむけてみた。

特に変わった様子はないように見える。

ただ、ベンチに女性が座っている。頭が前後に少し揺れているようなのでどうやら寝ているようだ。

数分外を見ているとさっきまでここにいた深夜が歩いているのが見えた。

そして、ベンチの前で立ち止まった。

直哉はそれを見て笑みを浮かべベンチのところへ歩き出した。


 ・・・


深夜はベンチの前に立って座っている女性に目をむけた。

女性の頭は船をこいでいるかのように前後に揺れている。

深夜がため息をつくとのと同時に女性はバランスを崩して倒れそうになった。

深夜は慌てて頭を支え、ベンチに座り頭を自分の肩の上に乗せた。


「こんなところで無防備に寝るなよ…」


深夜はもう一度ため息をついてカバンから読みかけの小説を読み始めた。

数分して、足音が聞こえ深夜が目をむけると直哉がこちらに歩いてきた。


「よぉ」

「うっす」

「で、お前の肩で眠ってる子は?」

「俺の彼女」


深夜の肩を枕に眠っているのは柚子葉だ。

直哉にはまだ柚子葉について何も言ってないので知らなくても当然といえば当然だ。


「へぇ~、かわいいな」

「…それは俺への宣戦布告とみなしていいか?」

「じょ、冗談だよ。ところで、お前とその子っておにぎりとパンどっちが好き?」

「あ?なんだよ、急に」

「いいから。どっちが好きか答えろよ」

「…パンかな」

「へぇ~。あ、俺邪魔だから行くわ」


直哉はそういうと深夜から離れていった。

深夜は先ほどの直哉とのやりとりを不思議に思いながらも自分の肩で眠っている柚子葉に目をむけた。

柚子葉の口から気持ちよさそうな寝息が聞こえる。

大学の構内は春の陽気に包まれていて風も気持ちがいい。

大学の構内からは学生の声が聞こえるが、騒がしいということはなくベンチの周りはどちらかというと静かなほうだ。

深夜は小説にまた目を戻した。

数十分後、小説をキリがいいところまで読み終えた深夜は柚子葉を起こさないようにグゥーっと背伸びをした。

背伸びをしながら深夜が周りを見渡すと直哉がビニール袋を持ってこちらに歩いてくるのが分かった。


「まだいてくれたか」

「その袋何?」

「ん?お前ら二人に俺からのささやかなプレゼント」


直哉は深夜に笑顔でビニール袋を差し出した。

深夜はそれを受け取り中身を確認すると3種類のパンが数個入っていた。


「お前飯食うだろ?その子の分も入ってる」

「お、サンキュ。おごり?」

「俺に彼女ができたらおごってもらうから今日は俺のおごりでいいよ」

「…いつになるかな」

「んだとぉ!」


深夜の嫌味とも言える言葉に直哉が声を大きくして深夜に詰め寄る。

声が大きかったのか柚子葉がゆっくりと目を開いた。

深夜と直哉は二人揃って柚子葉の顔を見る。

柚子葉は深夜の顔を見ると笑みを浮かべまた深夜の肩に寄りかかった。

が、数秒して柚子葉はバッと体を起こした。


「え…、なんで深夜が…。あれ、私…」

「柚子、落ち着け。こんなところで寝るなよ」

「え?私寝てた?」

「ぐっすり。無防備すぎ」

「お~い、お二人さん。俺を除け者にしないでくれるかな」


深夜と柚子葉の会話に直哉が割り込む。

柚子葉は直哉のことを知らないので深夜に顔を向けた。


「同じ教育学部の松本。で、こっちが俺の彼女の山下柚子葉」

「はじめまして。山上の友達の松本です」

「は、はじめまして。山下柚子葉です」

「君かわいいね。俺とデート…イッテェ!」


直哉が柚子葉の手を取って口説こうとすると深夜が直哉に蹴りを繰り出した。

直哉は蹴られたところをさすりながら柚子葉から離れた。


「冗談だって」

「あぁ?人の彼女に手を出す奴の言うことなんて聞けるかよ」

「ったく。友達甲斐のない奴。じゃあ、俺行くわ。今度詳しく聞かせてくれよ」

「あぁ。これサンキュな」


深夜がビニール袋を上げて礼を言うと直哉は手を上げて去っていった。

直哉が去っていくと柚子葉は深夜が持っているビニール袋を指差した。


「深夜、それ何?」

「パン。松本の奢り。せっかくだしここで食おうぜ」

「私も?」

「あぁ。二人分入ってる。松本に彼女が出来たらお返しに奢ることになってるから変に気を遣う必要はないから」

「じゃあ、食べようかな。天気いいし」


柚子葉は深夜が持っていたビニール袋を覗き込んだ。

それから食べたいパンを手にとって笑みを浮かべた。

深夜もパンを取り出して二人は春の陽気に包まれながら楽しいひと時を過ごした。

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