初デート 後編
今日は衛と優衣が付き合いだしてから初めてのデート。
二人が見たい映画がありそれを見に来たのだが、電車の遅れもあり、当初の予定がくるってしまった。
見ようとしていた映画が既に20分ほど前に始ってしまったのだ。
「あーあ…、誰かさんが遅れるから」
「電車の遅れは仕方ないじゃないですか!」
「ま、そりゃそうだ。どうする?今から見るのも嫌だしなぁ…。かといって、二時間待つのもなぁ」
「そうですね…」
衛の言葉に優衣はこの映画館で他に上映されている映画のポスターを端から目を通す。
すると、とあるところで止まったので衛は優衣に話しかけた。
「優衣、何か見たいものでもあった?」
「…これなんてどうでしょう」
優衣が指差した映画を見て衛は『げっ』と顔をひきつらせた。
その映画はラブロマンスで、衛にとっては一番苦手なジャンルだった。
そんな衛の顔を見た優衣は笑った。
「別にそんな顔しなくても…。今度友達と見に来ますから、どこかで時間つぶしましょうか」
「…いいぞ、それでも」
「え?」
衛の声が聞き取れなかった優衣が聞き直すと衛はやけくそ気味に、それでも迷惑がかからない大きさで叫んだ。
「だから!それでもいいって言ってるんだ!」
「え?でも先輩こういうジャンルって苦手じゃ…」
「たまにはいいだろ」
そう言うと衛はチケット売り場に向かう。
優衣はすぐに衛のを後を追う。
「本当にいいんですか?」
「いいって言ってるだろ。あ、学生二人お願いします」
優衣の言葉に答えながらも衛は強引に映画のチケットを二人分購入する。
一枚を優衣に渡すと、衛は少し歩くと声をかけてくる。
「早く来いよ。じゃないと、人がいっぱいで隣同士で座れなくなるぞ」
「あ、待ってくださいよ」
二人は連れ添って、映画が上映される会場へと入って行った。
二時間後。
映画を観終わった二人は上映会場から出てきた。
優衣の目には未だに涙が溜まっている。
「…いい加減泣きやめよ」
「無理ですよぉ…。何で、あんな形で終わっちゃうんですか…」
映画の中ではとあるカップルが別れる場面があった。
さらには、彼氏は病気で亡くなってしまうものだった。
よくある恋愛映画ものと言えばそうなのだが、優衣は感情移入して泣いている。
すぐ傍にあるベンチに優衣を座らせ、衛は隣にあった自販機で二つ缶ジュースを買う。
そして片方の飲み物を優衣に手渡す。
「ほれ、これでも飲んで落ち着け」
「…ありがとうございます。…衛先輩は全然平気そうですね?」
「俺?…んなことないぞ」
「え?」
「だから、全然平気ってわけじゃないって。俺だって少しはあの映画見て思うところはあった」
「何をですか?」
「内緒だよ」
そう言うと衛は手に持っていたジュースを口に含む。
優衣は『気になります』といった視線を衛に向けるが、当の衛は気づいていないのかそれとも気づいているが無視しているのかは分からないが、何も言わない。
諦めた優衣は違う話題を振る。
「ねぇ、衛先輩」
「なんだよ。何を思ったかは言わないからな」
「どうせ聞いても答えてくれないくせに…。今までこういう映画見ても何も思わなかったんですよね?」
「あぁ。途中で寝たりとか見ても内容が頭に入ってこなかったりだったな」
「でも、今日はどうしてそう思ったんですかね?ストーリーがよかったとか?」
「…今なら、今まで見てきた映画でも違う感想を持つと思う」
「え?何でですか」
「さ~ね。ほら、さっさと行くぞ」
「あ、待ってください」
優衣を置いて衛は歩きだす。
その後を優衣は追いながら、さっきの話題を思い出す。
今までは駄目だったけど、今は大丈夫…。
今までと違うことと言ったら…一つ思いついた優衣は、冗談交じりで衛に声をかける。
「ねぇ、衛先輩」
「なんだよ…」
「まさか、私と付き合いだしたからそう思えるようになった、とかですか?」
「…ねぇよ」
「うわ…そんなバッサリ切らなくても…」
「うるせ。…あ、俺トイレ行ってくるわ」
「…いってらっしゃい」
優衣を残して衛はトイレに向かう。
トイレに向かいながら衛は一言呟くが、その声は優衣には聞こえなかった。
「…そのまさかだよ」




