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完結後番外編  作者: タカ
Promise
15/26

寝不足 中編

衛は優衣を背中に乗せたまま優衣の家ではなく衛の家へと向かっている。

それに気づいた優衣が衛に話しかける。


「あれ?衛先輩?」

「なんだよ」

「これって衛先輩の家に向かってますよね?」

「あぁ。どっちにしろお前の家に行っても俺の家に行っても誰もいないんだし。それにお前の家のほうが遠いだろ。おれの体力がもたないっつうの」


確かに今衛の家と学校の約半分を歩いているがすでに衛は息切れをしている。


「すいません、やっぱり降ります」

「馬鹿言うな…。そんなこと言ってる暇があればおじさんに電話しろ。俺の家にいるから迎えに来てくれって」

「あ、はい」


優衣の父親である武は現在海外出張から戻ってきていて日本で仕事をしている。

衛も武が戻ってきてから一度会ったことがあるが、正直驚いた。

早い話、娘命の親ばかだった。これでよく海外出張など行けたなと思っていると亜由美が『行かないと優衣の将来が…』と少し脅しただけですぐに行くことを決心したと説明してくれた。

また、海外出張中よく電話などしてこなかったなと思っているとまた亜由美が『連絡するよりもその時間を仕事にしてほうが早く帰れるわよ』と言ったそうだ。

それを武は実行したようで予定していた期間よりも早く出張を終えて戻ってきた。

衛の背中で電話で話していた優衣が衛に話しかけてきた。


「衛先輩、お父さんが話したいって」

「悪い。優衣、携帯を耳に当ててくれ」


優衣は衛の指示通りに耳に携帯を当ててきた。


「はい、衛です」

『衛君、武です。優衣が捻挫したんだってね』

「そうみたいです」

『そうみたい~!?』

「いや、俺のせいじゃないですし!授業中だったから俺だってどうしようもなかったんですって!」

『僕が行く前に優衣に手を出したら…分かってるね』

「…はい」

『それじゃあ、優衣にまた変わってもらえる?』

「優衣、おじさんが変わってくれって」


その言葉を聞いて優衣は武とまた話し始めた。

衛は一度溜息をついて、武の言葉をまた思い出す。

『優衣に手を出したら…分かってるね』

武は実は空手有段者・剣道有段者・柔道有段者といった武道家なのだ。

もし、衛が優衣に手を出したら本当になにをされるかわからない…。下手したら骨折もあり得るだろう…

もともと衛は怪我をしている優衣に手を出すつもりはなかったがこれは気を引き締めないと命にかかわるだろう。

衛が気合いを入れてると話が終わったのか優衣が携帯を切って制服に入れるのがわかった。


「おじさんなんだって?」

「仕事が終わったらすぐに帰るって言ってました」

「そっか。にしても、お前よりにもよっておばさんがいない時に怪我なんかするなよ」

「…ごめんなさい」

「心配するだろ」

「え?心配してくれたんですか?」

「当たり前だろうが。いきなり沖田先生に呼び出されて、『伊藤が怪我したんだ。すぐに帰り支度して保健室に行くぞ』とか言われたら普通に大怪我したかと思うだろ」

「まぁ、そうですね」

「ところが、行ってみたら当の本人は元気だし。俺の心配を返せ、このやろう」

「それは沖田先生に言ってください」

「うるせ。お前がそんな口叩くから息切れたじゃねぇか…」

「最初に話しかけてきたのは衛先輩ですよ?」

「くっそ…。家帰ったら覚えてろよ」

「…本当にすいません」

「貸し一な」


それからは二人の間に会話はなかった。

衛の家に着くと、衛はリビングに置かれているソファに優衣をそっと降ろして『ふぅ』と一つ溜息をついた。


「くっそ。汗かいちまった。俺シャワー浴びてくる。あぁ、何か飲み物とかほしいか?」

「あ、いえ。大丈夫です」

「そ?じゃあ、ちょっと浴びてくる」


そういって衛はリビングを出て行った。

衛がリビングを出た後、優衣はぐるりとリビングを見渡す。

優衣がこの家から元の家に戻って数か月がたっている。それから一度も衛の家に上がったことはなかった。

だが、優衣が住んでいた頃と変わった部分はまるでない。まるで、あの頃に戻ったようだ。

優衣が物思いにふけっているとすぐに衛がシャワーを浴びて出てきた。


「ふぃ~。あれ、テレビをつけないでなにやってんだ?」

「え?別に…って衛先輩こそなにしてるんですか!?」

「何って頭拭いてるけど?」

「そこじゃなくて、なんで上半身裸なんですか!?」

「…セクシーショット?」

「そんなのいらないですから!早く上着てください!」

「へいへい」


衛はそういってまたリビングを出て行った。おそらく自分の部屋に戻っていったのだろう。

衛がリビングを出て行った後もまだ優衣は肩で息をしている。

やっと息が整ってきた優衣は怪我をしたほうの足の靴下を脱いだ。

シップと包帯が外れかかっていた。恐らく、包帯を巻いたあと靴下と靴を履いたのでずれてしまったのだろう。

どうしようか優衣が悩んでいると優衣の背後から声が聞こえた。


「あ~あ、滅茶苦茶だな」

「きゃっ!」


いつのまにか背後に衛が立っていた。

優衣の叫び声を衛は気にせず、前に回って優衣の足をそっと手に取る。


「…包帯外していいか?」

「あ、はい」


衛は優衣に了承を取ると、優衣の足に巻かれている包帯を外し始めた。

そして、シップが貼られている、腫れた部分に目を向ける。


「うわ…、結構腫れてるな」

「あ、でも先生の話だと二日ぐらいで腫れはひくそうですよ」

「そっか。んじゃ、包帯を巻きなおすぞ?」

「…衛先輩がですか?」

「もちろん」

「自分でします」

「…そんなに俺信用ないか?」

「だって、どちらかというと衛先輩って巻かれてた方だと思うんですけど」

「ま、あながち間違ってないけど。まぁ、見てろって」


そういうと、衛は手慣れた様子で優衣の足に包帯を巻き始めた。

時々優衣に『痛くないか?』『きつくないか?』といった声をかけながら巻き終えた。


「どうだ?」

「…何でこんな上手なんですか?」

「深夜って覚えてるか?」

「えっと…以前に勉強を教えてくれた?」

「そうそう。それともう一人幼馴染がいるって話はしただろ?」

「あ…、公園で」

「あぁ。で、三人で遊んでると大体誰かが月一で怪我してたんだよ。で、皆で包帯を巻けるように頑張ったから」

「…どんな遊びしてたんですか?」

「まぁ、若気の至りだ。さて、お前これからどうする?」

「どうするって言われても言ってる意味がわからないんですけど」

「お前の部屋は出て行った時のままにしてある。行くんなら連れて行ってやるよ。ここで過ごしてもいいけどどっちがいい?」

「え?あのままですか?」

「あぁ。お前がいつでも泊まりに来ていいようにって母さんがな。で、どうする?」

「じゃあ…上に行きます」

「ん。よっと」

「きゃ!?」


衛は優衣を抱きかかえた。いわゆるお姫様だっこの状態だ。

優衣は落ちないように衛の首に手をまわして叫ぶ。


「ちょ、ちょっと!衛先輩!?」

「…耳元で騒ぐな」

「あ、ごめんなさい。…じゃなくて!」

「騒ぐと落ちるからちょっと待てって。ここから落ちたら捻挫じゃすまんぞ」


衛は優衣を抱えたまま階段を昇り始めていた。衛の言うとおり今落ちたら危険だ。

特に下敷きになってしまうであろう、衛のことを考えるとここは静かにしてたほうがいいかもしれない。

優衣は、首にまわしている手に力を入れもう少し衛に抱きつくようにした。

衛は優衣の部屋の前に着くと片手でドアを開けベッドにゆっくりと降ろす。


「…腰イテェ」

「おじいちゃんじゃないですか」

「バカやろ。お前を長時間抱きかかえれるほど俺は鍛えてないんだ」


そういって当然のように優衣の隣に座る。

優衣は衛から離れるように少し位置をずらす。それを見ていた衛は優衣を睨んだ。


「…なぜ離れるのかなぁ、優衣ちゃん?」

「え?えっと…身の危険を感じたから?」

「ほほぉ…」


衛はゆっくりと優衣に近づき、優衣はその距離だけ後ずさる。

だが、後ろに下がるにも限界がある。優衣はベッドの端に追い詰められた。


「もう逃げられんぞ」


そういうなり衛は優衣の手を引いて抱きしめる。

そして、優衣の脇腹に手を持っていくとくすぐり始めた。


「ちょ、や、やめて…」

「うるせっ!ここまで運ばせやがって!」


数秒優衣はくすぐられていたが、衛の手の攻撃が止んだ。

優衣はくすぐられて涙目になっていたが、急にくすぐりが止まったので不思議に思って衛に声をかけた。


「…衛先輩?」

「…本当に捻挫だけで良かった」

「え?」

「さっきも言ったけど心配したんだからな」

「…すいません。でも、本当に大丈夫です」


優衣は安心させるように笑顔で衛に顔を向ける。

衛は優衣の顔を数秒見詰めると、『ふっ』と笑顔になると優衣の頭に手を乗せた。


「今度からは気をつけろよ」

「は~い」

「返事だけはいいな、お前…。そういえばなんでお前怪我したんだ?」

「え、えっと~…」


優衣はゆっくりと怪我をした原因を話し始めた。

クーラーが壊れて夜に寝れなくて寝不足になったこと、体育でボールが飛んできて避けたら足を捻ったこと…

正直に話すと衛は呆れたような眼で優衣を見てきた。


「…寝不足って」

「だって暑くて寝れなかったんだから仕方ないじゃないですか…」

「だったら授業中に寝れよ」

「そんなことできないですよ…」

「だからって無理に起きて捻挫したら元も子もねぇだろうが」

「うっ…。だって…」

「ったく。言い訳はいいからもう寝ろ」

「え?」

「まだ寝不足なんだろ?保健室でも寝てなかったみたいだし。だから、おじさんが迎えに来るまでここで寝とけよ。ここなら…クーラーついてねぇから俺の部屋に移動するか」

「きゃっ」


衛はまた当然の如く優衣を抱きかかえる。

優衣も今度は何も言わずに衛の首に手を回す。衛が優衣のことを心配しているからだってことが分かっているからだ。

衛は自分の部屋に優衣を運び、ベッドに優衣を降ろした。


「ほれ。ここならクーラーが付いてるからゆっくり寝れるだろ」

「ありがとうございます」

「い~え~。俺腹減ったから下で何か食ってくる。お前はここでゆっくり寝てろ」


衛は優衣の頭をポンッと一度叩くと部屋を出て行った。

優衣はせっかくなので衛のベッドに横になった。

衛のベッドからは持ち主である衛の匂いがする。ついさっきまで隣にいたのになんだか急に寂しくなった。

優衣はうつぶせになって衛の枕に顔をうずめると、枕からも衛の匂いがする。

優衣はいつのまにかゆっくりと夢の中に入って行った。

それから数分して、腹ごしらえをした衛が部屋に戻ってくるとちゃんとベッドで寝ている優衣の姿が目に入った。

ゆっくりと近づくと優衣はなぜか笑顔で寝ていた。


「うわ…。ニヤニヤしてどんな夢見てるんだよ、こいつ」


衛は苦笑いを浮かべて優衣を起こさないようにベッドに腰掛ける。

そして、優衣の頬に手を寄せる。すると優衣も衛の手に顔を寄せてきた。


「夢の中で何を見てるんだか…。っていうかこいつ危機感っていうのはないのか」


数秒優衣の頬を撫でていた衛だが、優衣の寝息を聞いていた衛も少し眠くなってきた。


(まぁ、おじさんが迎えに来るまでに起きれば大丈夫だろ)


そう思った衛は優衣の顔が見える側に横になる。

一つ欠伸をして衛も目を瞑って眠りについた。

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