表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完結後番外編  作者: タカ
Change The Relation
10/26

嫉妬

深夜の小さい頃のアルバムを見ると・・・

「ただいま」


深夜が買い物から帰ると部屋の中には、一緒に暮らしている柚子葉の靴以外にも複数の靴があった。

靴の数から、勇一と忍、それに恭子と秀太も来ているようだ。

恭子も来ているとは珍しいなと思いつつ深夜はリビングに入り、もう一度挨拶をした。


「ただいま」

「あ、おかえりなさい!」


深夜の声に一番早く反応したのは秀太だった。

秀太が駆け寄ってくるが、その背中に深夜は珍しく、そして懐かしいものを目にした。


「秀太、それ買ってもらったのか?」

「うんっ!」

「そうだよなぁ。もうすぐ秀太も小学生になるんだよな」


深夜と柚子葉が高校を卒業する春に、秀太もまた植田保育園を卒園した。

そして、深夜達が大学に入学すると同じように、秀太も近くの小学校に入学することになる。

今、秀太の背中には買ってもらったばっかりの真新しいランドセルが背負われている。


「お前は親戚のおじさんか」

「そこ、うるさい」


懐かしげにランドセルを見ていた深夜に勇一からからかいの言葉が入る。

深夜の言い草が親戚のおじさんだったからだろう、そのやり取りを聞いて柚子葉と恭子が笑う。

と、そこに忍からもからかいの言葉が入った。


「あんただって、秀太君と同じようにランドセル買ってもらった時は嬉しそうに見せびらかしてきたじゃない」

「え?そうなんですか?」


忍の言葉に柚子葉が反応する。


「そうよ。ランドセルを買ってもらったらはしゃいでね。ランドセルを背負ったまま家の中を走り回ってたのよ」

「あぁ、あったあった。俺もその時慎一の部屋に上がってたから覚えてる」


忍の言葉に続いて今度は勇一もその時の事を思い出した。


「確か、走り回ってこけたんだよな。で、ランドセルに傷がついて泣いたんじゃなかったっけ?」

「そうそう!あの時は泣きやまなくて困ったわよね。お母さんが傷ついたところに深夜が当時好きだった戦隊物のシールを貼ってやっと泣きやんだのよ」

「そんな昔の事を持ち出さなくていいだろ!」


深夜は恥ずかしいのか、大声を出すがそれで止まる忍ではない。

忍はふと思いついて立ちあがった。


「そうだ。柚子葉ちゃんにいいもの見せてあげる」


それだけ言うと、鼻歌を歌いながら忍は家から出て行った。どうやら、自分達の家へと向かったようだ。

忍の後姿を見送った後、深夜は一つ溜息をついた。


「あ~もう!勇兄もなんでそんな昔の事を思い出すかな」

「しょうがないだろ。でも、事実は事実だぞ?」

「そりゃそうだけど…。別に柚子やおばさんの前で言わなくたって」

「え?どうして?」


深夜の言葉に柚子葉は不思議そうに首を傾げる。


「だって…情けないだろ」

「そんなことないよ。それに、私は嬉しいな」

「嬉しい?」

「だって、深夜の小さい頃の話ってあんまり聞いたことないもん」


思いかえしてみると確かにお互いが小さい頃の話しと言うのはあまりした覚えがない。

深夜自身も柚子葉が小さい頃がどうだったか気になるところではある。

どこかのタイミングで恭子に聞いてみようか、そう思って恭子の方に顔を向けると恭子と眼があった。

すると、恭子は笑顔でうなずいた。どうやら深夜の心はお見通しだったようだ。

深夜が苦笑いを浮かべると、ドアが開く音が聞こえた。どうやら、忍が戻ってきたようだ。


「お待たせ」


そういって戻ってきた忍の手には大きな一冊の本のようなものが持たれていた。

勇一が本を指差して忍に尋ねる。


「忍。それなんだ?」

「うふふ。柚子葉ちゃん、これ開いてみて」

「あ、はい」


勇一の質問には忍は笑って誤魔化すと、持ってきたものを柚子葉に渡す。

柚子葉はテーブルの上に置くと、一枚ページを開く。


「これって…」

「なんだったんだ…、っておい!」


柚子葉が開いたページを深夜も横から覗く。そして、すぐに大声を出して忍を睨む。

その様子に恭子が柚子葉に近寄り本の内容について尋ねる。


「柚子葉、何が乗ってるの?」

「…これって深夜?」


恭子の質問には答えずに、柚子葉は深夜に尋ねた。

深夜は頭を掻きながら恥ずかしそうに応える。


「…あぁ。俺のアルバム」


忍が持ってきたものは深夜の写真が集められていたアルバムだった。

その中には、赤ん坊のころからの深夜が残されている。


「うわぁ…、小さくて可愛い」

「そりゃ、大きい状態で生まれるわけじゃないからな」


柚子葉の呟きに深夜は恥ずかしいのか素っ気なく反応する。

だが、柚子葉は写真に夢中になっているのか、深夜の反応を気にすることはない。

アルバムの目の前に座っている柚子葉を中心に全員がアルバムの写真が見える位置に座った。

深夜は一つ一つの写真を覚えるかのように見入っている柚子葉の隣に座る。

少しずつ大きくなるように順番で貼られていて、幼稚園に入ると深夜だけでなく当時の友達と映っている写真も増えてきた。

そして、深夜の隣に柚子葉も見覚えのある顔が映っている。


「深夜、これって…翔君?」

「あぁ。それが翔。そんでもって、翔の隣が衛だな。二人とは幼稚園の時に知り合ったんだよ」

「そういえば翔君が言ってたかも…」


幼稚園の卒園式の写真の次には、小学校の校門の前で取られた小学校の入学式の写真が貼られていた。

その時に勇一が秀太の頭を撫でながら写真を指差した。


「これがちょうど今の秀太と同じぐらいの深夜だな。ほら、小学校の入学式だし」

「え?これがしんやおにいちゃん?」

「そうだよ」


写真の中の深夜を不思議そうに秀太は見詰めている。

そして、その隣から忍が茶々を入れるように写真を指差す。


「あ、ほら。さっき言ったでしょ。ランドセルの傷を隠すためにシールを張ったって。これだわ」


忍の言うとおり確かに黒のランドセルなのに一部だけ色がおかしい。

とはいっても、写真では言われなければ気付かない程度だ。


「別に言わなくてもいいだろ。ほら、次行くなら行こう」


深夜の言葉に従い柚子葉はページをめくって行く。

写真をめくっていく中で深夜は緊張していた。それは深夜だけでなく、勇一や忍も同様に緊張していた。

その理由として、深夜は翔や衛だけでなく一人の女子とも一緒に写っている写真が多くなってきたからだ。

それに柚子葉が気付かないわけはない。


「ねぇ、深夜」

「…あ?」

「深夜の隣によく映っている女の子って…陽子さん?」

「…あぁ。写真には映ってなかったけど、陽子とも幼稚園から一緒で仲が良かったからな」

「そっか」


隠してもしょうがないと深夜はその時の事を話す。

深夜の説明を聞きながら柚子葉は写真を捲っていく。

そんな柚子葉に忍が声をかける。


「でも、その時はそうだっただけで今はそうでもないのよ?」

「分かってますよ。それに過去の事ですから」


忍の気遣いに柚子葉が笑顔で答えると次の写真へと視線を向けた。


数時間後。

忍達は各々の家へと帰っていき、今は深夜と柚子葉の二人きり。

深夜は先に風呂に入り今はテレビを見ており、柚子葉は入浴中だ。

テレビを見ていると、風呂から上がっきた柚子葉が深夜の隣に腰を降ろした。

そして、深夜の肩に頭を乗せるように柚子葉が凭れてきた。

珍しいなと思いつつ、深夜は柚子葉の頭を撫でながら声をかけた。


「どうした?」

「…あのね、実はさっき私嘘ついたんだ」

「嘘?」

「うん。…陽子さんの写真見たとき、私情けないけど陽子さんに嫉妬したんだ」


柚子葉の告白に深夜の撫でる手が一瞬止まった。

それに柚子葉も気付いているはずだが、何も言わず続ける。


「もう過去の事だって分かってる。分かってるけど…笑っている深夜の隣で陽子さんが笑っている写真を見るの嫌だったんだ」

「柚子…」

「ごめんね。過去の事なのに…」

「別にいいさ」


深夜は頭を撫でるのをやめると、抱きしめるように柚子葉の肩に手を回した。


「お前も言った通り、あれは過去の事だ。過去はどうあれ、今そしてこれから俺の隣はお前だから」

「…うん」


深夜の言葉に柚子葉は頷き、深夜の体に腕を回す。

抱きしめあっていると、柚子葉が口を開いた。


「あのね、深夜」

「あ?」

「ひとつお願いがあるんだ」


数日後。

深夜の家のリビングに一枚の写真が飾られた。

その写真の中には部屋の中で寄り添っている深夜と柚子葉の姿が映し出されていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ